ちょっと横暴
テロ組織のアジトを発見し、軍部は秘密裏に突入を試みた。
とはいえ、敵のアジトもセキュリティ面は強化しているのか、侵入するには一筋縄ではいかない造りとなっていた。
そこで白羽の矢が立ったのは、天才ハッカーと称されていた少女・リニア=ウォールマー。
天才が集められる軍部の中でも、彼女のハッキング技術は郡を抜いた実力があった。
そして、今回ほど彼女の能力が活かされる場はないであろう。
軍の精鋭部隊が突入までの秒読みをする間、彼女はアジトのセキュリティ解除の為にコンピューターと顔合わせをし続けていた。
『おい、さっさとしろ。いつまで待ちぼうけさせんだ。オレたちを殺す気か、てめぇは?』
「いやぁん、もぉ~急かさないでよぉ~。せっかちな男はモテないわよぉ?」
『うっせぇ、ほっとけ。てめぇは黙って仕事してりゃぁ良いんだよ』
「んもぉ、仕事仕事ってそればっかりぃ。ホント、いやんなっちゃうわぁ~」
『だから黙ってやれっつーの。てめぇは安全圏にいるからお気楽に構えていられんだろうがな、オレらは命張ってんだ。ここで無駄話してる暇もねぇんだよ』
苛々とした声音が、無線機越しに伝わる。
それを受けてもリニアは軽く受け流す風に答えながら、ただただ表示される画面に途切れることなく文字列を足していく。
「ひどぉ~い。お気楽って何よぉ。アタシだって必死にやってるんだからぁ」
『必死にやってるってんなら、じゃあなんでさっきからくっちゃくっちゃ食ってる音が無線機越しに聴こえてくるんかねぇ?』
「アタシ、おやつがないと集中出来ないのよぉ」
間延びした声にとうとう苛立ちが臨界点に達したのか、男は地の底を這うような低い声を出した。
『……てめぇのおやつを全処分するよう、今すぐそっちにいる兵どもに連絡するぞ』
「え」
初めてリニアの動きが止まる。
キーボードを叩く手も、食べ物を口に運んでいた手も、口内の物を咀嚼する動きでさえピタリと、金縛りに遭ったかのように固まった。
リニアが事を深刻に受け止めたのに気付いてか、男はさらに追い討ちをかけるよう言葉を続けた。
『もしオレが死んだら、てめぇにおやつ買う金なんざくれねぇよう今すぐ財務部に命令するからな』
「ええっ!?」
『オレに死なれたくなきゃ、さっさとロック解除するんだな』
「ちょっとぉ、何よそれぇ! アンタ自分の権限の使い方間違ってるわよぉ!」
『間違ってねぇよ。これぞ、正しい権力の使い方だ』
「職権乱用よぉ! 横暴よぉ! ヒドイわヒドイわ、鬼ぃ悪魔ぁ~!!」
憤慨したように喚く言葉も、主導権を奪った男にとってはただの五月蝿いBGMにしかなり得ない。
自身の言葉を聞き入れてもらえないと理解した少女は、諦めて食べかけの物を箱へと戻した。
果たして、その数十秒後。
全セキュリティの解除された敵組織内部に、軍の精鋭部隊は雪崩れ込んでいったのであった。
男性寄りの一般向け目指したけど無理だった。