フクロウ
『冷たい風で、枯れた葉っぱは舞い踊り、動物たちは冬眠に向けて蓄え始める季節。暗闇の中で一匹のフクロウが鳴いていた。森の方向からその声は聞こえてきたのだがまるで直ぐそこで鳴いているかのようにその音は木霊している。』
私はその光景を想像し、深い嘆息をついた。
毎年、この時期になるとその鳴き声を聞き、冬を迎える為の準備を始める合図となるのだが、今年は何かが違っていた。
フクロウの声が聞こえてこないのだ。
別にフクロウの声が無かったからといって、冬が始まらないわけではないし、冬を迎える準備が出来ないというわけではないのだが、毎年聞いていた事もあり、私にとっては一つのイベントのようなものとなっていたのだ。しかし、毎年フクロウが同じように鳴くとは限らないし、今までたまたま鳴いているのを私が聞いていただけかもしれない。
フクロウのことで頭が一杯になっていた私は、厚手のダウンコートを羽織るとすぐさま外へ駆け出した。外を出て周りを見渡すと、まるで全てのものが死に絶えたかのように無音で、凍えるような寒さがますます私の不安を煽る。
森の中に一歩踏み入れると、上を見上げながら木の間をかき分けて進んでいく。だが、フクロウの姿は一向に見当たらない。
暫くすると、いつの間にか湖が当たりを覆っていた。この寒さのせいか、表面には薄くではあるが氷が張っていた。仕方なく湖沿いに歩いていると、氷の中の一枚の羽に目が止まった。私の呼吸が早くなり、次第に心臓の鼓動が大きくなっていく。
見たことも、会ったこともない。そんなフクロウが私の生活の中に入り込み、いつの間にか私の生活の一部となっていた。冷え込みが強くなり、空から雪が落ちてきていた。
そのとき、暗い森の中で一羽のフクロウが鳴いた。