表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/16

第五話 貴重な情報

 部屋についてから、一つ伸びをする。体には結構疲れが溜まっているのが分かった。

 色々あったな。喉が渇いた俺は近くにあるテーブルからコップを取り、水を入れようと水道に向かう。


 が、少々実験をしたくなった。

 水魔法はおいしいのか?


 早速魔法を使用してみる。被害が出るような魔法でなければ使用できるように、王子から命令を受けている。

 コップに向かって魔力を調整して水を人差し指のさきから出していく。


 コップいっぱいになったところで止めて、勢いよく飲み干す。


 感想は、特になし。まずいわけでもないが、わざわざ飲むほどではない。

 周りに水がない砂漠などでは飲むが、いつでもおいしい水がある状態では飲まない。

 

 まずくはないが、うまくもない。微妙な気持ちにさせられた。

 コップをテーブルに戻して、ベッドに座る。


 しばらく経つと、部屋の扉がノックされる。


「あの、少しいいですか?」


 声から察するに第二王女のようだ。


「ああ」


 いや違った。王族には丁寧な口調で接しようと思っていたんだ。

 昨日はうっかり喧嘩腰だったが、今日からはそんなミスはしない。


 中に入ってきた王女は、両手を体の前で組みえへへと笑う。

 何が楽しいのかは分からないが、今日も服は似合っている。


「王女様。今日はどうしましたか?」


「……なんか、気持ち悪いです」


 なんだと、丁寧に相手をしたらこの扱いは。

 ぴきぴきと頬のあたりが引きつる。第二王女はジト目のまま、さらに続ける。


「あれです、自分の食べたかった料理とは違う物が出てきて時みたいな感覚です」


「だったら、腹下す前にやめてやるよ」


 さすがにそこまで俺の決意も固くはない。相手が嫌なら口調なんてすぐに戻すさ。

 第二王女は、テーブルについているイスに座ればいいモノを俺の横に並んできた。


「今日の戦い、すごかったですね!」


 いたらしい。いちいち観客席を見て確認するのも面倒だったので気づかなかった。


「俺の気分を悪くさせたいのか?」


 正直、無意味に命を奪ったのだと、仕方がないとはいえ多少後悔している。

 戦闘しているときはそういったことに意識をさいてる余裕がなかったので、そこまで深く悩みはしなかった。


 生きるために仕方ないのなら別にいい。魚や肉を食べるのもそんなもんだし。

 だけど、あのオークはただ単に力を誇示するだけに殺した見せしめだった。


 ベッドで横になっていると、揺れる。

 隣に、王女が座っている。


「別に、そういうつもりじゃありません。私、調べたんです」


「調べた?」


「はい、勇者召喚と魔物の実験をです」


 その両方は、俺が後でこっそり調べようと思っていた内容だった。

 まだ、敵である疑いは拭えていないので、欲を見せない程度に聞きたい。


「暇だったんだな」


「……いじわる言うなら教えてあげません」


「悪かった。教えてください」


 片手でごめんと表現するとそれで気を許したのか、第二王女はふふんとご機嫌に笑ってみせる。

 女に免疫がないから、こういう笑顔は苦手だ。


 男を魅了する笑顔を出してる本人は全く自覚していないし。


「はい。まず、勇者召喚です。勇者を召喚するには大量の生贄が必要なんです」


 笑顔はなくなり、真剣な表情だ。僅かに悲しみが混じっているのは、生贄に対するモノだろう。

 ……まるで、悪魔を召喚するようだな。


 俺にそれだけの価値があったのか、疑問が残る。


「その生贄は、犯罪者や魔物を使ったそうです。全部で1000ほどの命が失われたらしいです」


 ぎゅっと拳を固める第二王女。

 

「酷い話ですよね。私、それを今日聞かされました。もっと、早く気づいてたら止められたかもしれないのに……」


「あんたは、勇者を召喚するのは反対なのか?」


「……命を削ってまで、召喚する必要はないと思います」


 王族の中にもまともなヤツもいたもんだな。

 演技ではないだろう。ここまでちゃんと怒りや悲しみを表現できるなんて、それこそ天才だ。


「なら、逆に勇者を戻す方法はないのか?」


 少し、つっこんでみる。相手の出方を疑う意味もこめて。

 第二王女は首を左右に振った。


「召喚、しか情報はないようです。父さんたちの話を盗み聞きしましたが、勇者を帰さないために調べたらしいですけど、見つからなかったから安心だって貴族たちの前で話してました」


 ぶち殺してやりたいな、あのデブ王め。つまりあいつは俺に嘘をついた。一度だけでいいとか何とか言ってやがったからな。


 なんとなく真実っぽいが、王女の情報は参考程度にさせてもらう。下手に信じきっても騙される危険性もあるのだから。


「命令するときに、勇者よ、命令するとか言ってるだろ? あれは、絶対に必要なのか?」


「いりません。ただ、言ったほうが効果が高くなるそうです」


 なるほどな。余裕があるときは確かにそうやって命令していたな。


 ベッドから立ち上がり、近くにある水道に向かう。

 水道には水属性の魔石がつけられており、魔力をこめると発動する。


 この世界の日常生活には魔力が欠かせないのだ。

 近くの棚にあるコップを風魔法で手元まで持ってくる。魔法の練習だ。


 魔力をこめて、水を出してコップに注ぐ。

 そのままそれを口に運び、飲み干す。味については何も言えないが、自分の魔法で作った水よりかはうまい。


「それで、もう話は終わりか?」


「まだありますから、焦らないでください。次は、魔物の研究です」


 よし、俺の聞きたかった情報だ。もう一度コップに水を注いでから第二王女の隣に腰掛ける。

 沈むベッドにゆれながら、彼女は話し始める。


「この研究は元々魔物の強さの秘密を調べていたらしいです。それで、人間が持つ魔力とは異なる魔力を発見しました。初めはこの力を封じる物として、結界が開発されました」


「結界?」


 意味は分かるが、そんなモノは初めて聞いた。


「えっと、多くの街には魔物の進入を防ぐ結界があるんです。結界は魔物だけが持つ魔力を感知して、魔物を阻むんです」


 魔物だけが持つ魔力。

 だとしたら、俺の中にもあるのだろう。


「なら、俺は?」


「……分かりません。ですが、結界も完璧じゃないんです。時々魔物を防がないこともあって、たぶん、そのときに捕らえた魔物を使って実験をしたんだと思います」


 なるほどな。どのような魔物が結界を越えて街に入ってくるのか、調べないほうがおかしいな。

 だとしたら、俺が飲んだあの液体はその実験結果から作られたモノと考えるのが妥当か。


「話し戻しますね。結界だけでは力不足なのが判明して、魔物を拒むのではなく、魔物の力を人間が得られないかという実験が始まりました。そして、多くの実験の末開発されたのが、『ブナーイ』です。だけど、まだこれも完全な物ではなくて、勇者であるモトハルさんだけみたいです」


「全然駄目みたいだな。おとなしく結界の開発をすればいいだろ」


「だけど、モトハルさんに投与したことで耐えられる条件が分かったようです」


 なんだろうか。

 少なくとも研究が進むようなことを言ったつもりはないが。


「気になりますか? 気になりますよね?」


 第二王女が聞いてくださいっ! とばかりに顔を寄せてくる。ち、近い。なんだかいい匂いがするし。

 そういえば俺は風呂に入っていなかったな。入れてもらえないだろうか。


 さすがに今日は汗も掻いたのでこのまま眠るのは不快だ。


「気になるぞ」


「精神が強いと大丈夫みたいです!」


 ……結局大して進んではいないみたいだな。

 第二王女の残念な頭はマイナス方向に相当進んでいるが。


「それで、終わりか?」


「……反応が、寂しいです」


「そりゃあ、な。なら無理やりに盛り上げようか?」


「お願いします」


「わー、すごーい」


 適当に盛り上げると、彼女は、


「わざとらしいですけど……まあ、いいです」


 えへっと笑う。おいおい、これでいいのかよ。思わず言ってしまいそうになる。

 これで、だいたいの情報は手に入っただろう。この世界のことなんかよりも、今の二つの情報は大事だ。


 特に聞きたいこともないな、と思ったが個人的に彼女のことが少し知りたくなった。


「そういえば、なんでお前には話が通っていないんだ?」


 たぶん、あまりいい話ではないのだろう。

 予想通り第二王女は顔を下げる。だが、すぐに苦笑気味に顔をあげる。


「私、魔力がほとんどないんです。それで、家族とはあまり会話をする機会がないんです。今日何度か父さんに聞いてようやく聞き出せたくらいなんです」


 この世界ではたぶん、日常生活では魔力がかなり必要だ。

 つまり、彼女は『落ちこぼれ』なのだろう。

 

 何も言わないでいると、さらにぽつりぽつりとつむいでいく。


「だから、子供の頃からほとんど城の中で過ごして。学園とかも通わなかったんです。姉や兄からもゴミを見るようにいつも見られてました。姉からは頻繁的に殴られたりもしました」


 そう言って、服の裾をあげる。スタイルのいいお腹には、青い痣があった。

 本当はもっとあるのかもしれない。だけど、俺にどうこうできる訳ではない。


 そもそも、すべて本当かどうかも分からないんだから。

 この痣だって、魔法で作ったのかもしれない。俺には真実を見抜く知識はない。知識がないから、不利な契約を結ばれた。


 だから、感情的になるな。


「将来的には私はどこかの国の王子とでも結婚させられるのだと思います。だから、日常生活でも結構制限されてるんです」


 あの中では痩せている彼女。この世界でもやはりデブよりかは痩せているほうがモテるだろう。

 他の貴族を篭絡させたりするのなら、今の彼女のほうが魅力的だ。


「なのに、憎みはしないんだな」


「だって、仕方ないんです。それが私の生きてる意味なんです」


 なんだよ、それ。他人に従ったまま生きるのが、生きてる意味だと。

 思わず、ぶん殴りたくなった。目の前のふざけた女を。甘ったれた生き方をしているこいつを。


「それで、いいのか?」


 爆発しないように気をつけながら、訪ねる。


「嫌われて、捨てられるよりかはマシです……私はただの道具にすぎないんですから」


 自嘲気味に笑う第二王女に……駄目だ、切れた。何が……楽しいんだよ。どこにも笑う要素ないだろ。なんで、自分のことを道具って言う?

 ふざけるなよ。


 たとえ、これが嘘の話で、俺の同情を誘うような話、又は俺の真意を聞きだすモノだとしても。許せなかった。

 ふつふつと湧き上がる怒りに似た感情が体を蝕む。


「……バカか」


 抑えきれない感情は、言葉になって第二王女に降りかかる。


「え?」


 第二王女がこちらを見る。俺は……抑えろと頭の中で囁く自分をひねり潰す。


「人が道具な訳あるかよ!」


 俺は、道具じゃない!


「そんな風に考えるな! いつか、本当にただの道具になっちまうぞ! 俺は嫌だ……! 絶対に、あんたらの道具にはならないからな!」


 一方的に言った俺は、第二王女のきょとんとした視線に気づいて、頭をかきむしる。

 ……もしも、こいつが敵のスパイなら。


 俺の計画は破綻したな。だけど、それでも、道具であることを受け入れているヤツを見たくはなかった。

 嘘でも、作り話でもだ。それほどまでに、俺はこの世界に召喚されたときに心に深い傷をつけられた。


 そのまま、俺達の間には沈黙しかなく。やがてやってきたメイドと入れ替わりに王女は部屋を出て行った。


 運ばれた食事の味は頭に残らない。

 何も考えずに、俺は明日を生きるために食材を流し込んだ。ちゃんと風呂にも入れたので、中々いい一日だった。


 メイドたちに体を洗われそうになったときは全力で断ったが。

 恥ずかしいわっ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ