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第三話 力の使い方

 今日は今朝から忙しいらしい。爆発した髪を押さえつけながら、メイドに聞いた。


 朝目覚めてやはり夢じゃなかったのかと後悔したさ。全部、悪い夢だと眠りについたが、現実はしっかり俺に絶望を与えやがる。


 夜の間に一つの決意をしていた。王族に歯向かうような口調はやめる。

 少しでも相手を油断させるために、おとなしく従う。


 牙はひっそりと口の中にしまって研いでおくのだ。


「『僕たちに被害が出ないように自由にしていい』」


 朝王子がやってきてそれだけを命令してどこかに消えていった。憎たらしい腹だ。あの肉をひきちぎってやりたい。


 後から来たメイドが詳しい日程を説明する。午前中は魔法の基礎について勉強させられる。終わり次第、特別授業。これについては何をするのかメイドも知らない。

 

 最後に一日のまとめとして、騎士総長との戦いらしい。

 この流れを考えると、たぶん特別授業はあの化け物に変身することだろう。


 第二王女も知らない情報だったのだからメイドにも伝わっていないようだ。


「昼飯は?」


「ありません」


 ここにきて酷い扱いだ。

 だから、夕食があんなに豪勢なのか。


 とかいいながら運ばれた朝食も大量だ。正直食いきるか分からないが、昼食がないのだから少しでも多くカロリーを確保しておこう。


 がつがつとなんとか食べきった後、限界を超えた満腹感に俺はメイドにトイレを案内してもらう。

 トイレは、一応現代に似ている。ここにも魔石のようなモノがついている。


 たぶん、魔力を流せば何かが作動するのだろう。ひとしきり出してから、魔力をこめようとする。


「メイドさーん!」


 ドア越しにいるはずのメイドに声をかける。


「なんでしょうか?」


「魔力の流し込み方って分かりますか?」


「体内の魔力を手の先などに集め、前に飛ばします。魔力を感じられればできるはずです」


 体内にある魔力。

 集中するために瞳を閉じる。真っ先に感じるのはあの化け物に変身した異物の力。


 もっと集中すると、それとは違った弱い光のようなモノに気づく。

 それを手の先に集めるように集中し、


「でやっ!」


 壁についていた水色の魔石に魔力を放つ。

 するとトイレの内部で水が流れて、糞を持っていく。


 これがどこに流れるのだろうか。満足した俺はあまり気にしない。

 

「それでは、ご案内します」


 こう、メイドたちは俺を本当に勇者として扱う。

 なぜだろうか。命令で従わされているのを知らないのか?


「なあ、メイドさん」


「なんでしょうか?」


「この腕輪が何か知ってるか?」


「勇者様の力の源ですよね?」


「奴隷の腕輪だぞ?」


「冗談はやめてください。勇者様にそんなことするはずありません」


 ……知らないのか。

 つまり、俺が奴隷同然の勇者だと知っているのは王族、だけか?


 もしかしたらメイドの中で一番偉い人とかは知っているのかもしれないが、ごく少数の人間にしか教えていないのか。


 やり方が汚いぜ。

 さすがに全く知らない人間までも、同罪だと裁くわけにはいかない。


 メイドによって案内されたのは部屋。

 中に入るとローブを着た人がいて、軽く会釈してくる。


 年は20代後半くらいだろうか。若くて、美人な人だ。

 反射的に頭を下げておく。後で、鍋にぶち込まれて煮込まれないように。


 机とイスがしかたなくと言った感じで置かれている。元々ここは、教室などの機能はなかったようだ。


「この国の魔法部隊の総長です。よろしくお願いします」


 教えてもらう立場は俺だが、とても丁寧に挨拶された。

 総長……。ってことは結構年食ってるのかもな。


 20台後半は違う可能性がでてきたな。

 国は主に剣を利用した戦闘をする部隊を騎士部隊。魔法を主力とした部隊を魔法部隊と分けているようだ。


「それでは、これから魔法について教えますので、よく聞いてください」


 魔法とはつまりは想像。

 指先に魔力を集め、その魔力を自分の望むモノに変換する。


 この時に火や水などの力に変えたりして発動するのだ。想像するだけでは難しい人はそれを補佐する意味で自分で考えた詠唱をする。

 

 簡単に言えば、想像力が豊かなら魔法を自由に操れるし詠唱も不要。

 そして、多くの人間は1~2属性しか使えないが、


「やはり、勇者様はすごいですね」


 火、水、風、土、光、闇、氷、雷の8属性すべてが使える。

 さらに想像して具現化するのも容易にできた。


 魔法の才能はあったのかもしれないな。

 日本でアニメとか見まくっている俺には造作もない。

 

 アニメで見た魔法をそのまま目の前に出現させるようなモノだ。


「魔法の基礎は大体終わりです。後は外に行き、高位魔法の練習をしてもらいます」


 魔法には、低、中、高に分類されている。

 例えば、手に火を出すだけの魔法や小さな火を飛ばすだけの日常生活でも使用しそうな魔法は低位。多くの人間がこのくらいなら習得している。


 魔物を狩る時や一対一の対人戦などが主に中位になる。だが、結構曖昧だ。攻撃魔法はだいたいの目安でしかない。かなり強そうな魔法も中位になったりするらしい。


 そして、高位はかなり適当だ。大規模魔法はすべて高位にあたる。

 対象が一人の規模の小さい魔法でも相手のどこに当たっても重症をで与えるような魔法は高位だ。


 過去には街一つを消し飛ばすような恐ろしい魔法もあったらしい。

 今の国では高位の魔法を撃てる者はごく僅か。それも、一度撃てば魔力切れになったり、長時間の溜めが必要なりで実質ほとんど見かけることはない。


 一通り知識を与えられ倒れた地は外に出る。

 外に出ると緑が豊かな庭に出る。庭師の方が地面に生えている芝生の手入れをしたり、木の葉を切ったりしている。


「ここに魔法を発動させてください。それほど大きい魔法ではなくて構いません」


 魔法総長が指差した場所は芝生の上。

 せっかく手入れをしているのに傷つけるのはどうなのだろうか。


「どうしました? やり方を忘れましたか?」


「大丈夫だ」


 このままじっとしていても時間が消費されるだけだ。

 さっさと終わらせて休みたい。


 魔法総長が示した部分に丸を作り出す想像をする。

 そして、そこから火が噴出すように意識し手を向ける。


 指先に溜まっていた魔力が流れ出るように溢れ、魔法が発動。

 想像した何倍もの威力で火柱が天に昇ろうとあふれ出る。終わることはなく、いつまでも吹き上げる様子は軽い恐怖を誘う。

 

 あ、あつい。

 やりすぎたようだ。


「よくできました。自分の体から魔法を飛ばすのは簡単ですが、体から離れた場所での魔法使用は難しいのでこれからも練習してください」


 確かに体から離れた場所に発生させるのは難しい。

 だが、敵の足元から不意をつけるのでしっかりと練習したほうがいいだろう。


「あと、魔法の力をあげるのに、ステッキ、ロッド、ワンドなどがあります。これらには魔石が埋め込まれており、対応する属性の威力があがります。覚えておいて損はないでしょう。これで私の講義は終わりです」


 確かにゲームなどでもそんな感じの武器をつけてるな。


 言い終えるとぺこりと頭を下げて、失礼しますと城内に歩いていく。

 それと入れ替わりにずっと見ていたの? というタイミングでメイドが現れる。


「魔法はどうでしたか?」


「ああ、難しくはないな」


「そうですか。それでは次に行きましょうか」


 淡々と案内される。

 この道順は……嫌なことが思い出される。






 やっぱりそうだった。

 俺に化け物の力を植え付けた研究所までやってきた。


「それでは、がんばってください」


 入り口までのようだ。扉には魔石がついている。

 俺は扉に手を伸ばすと、俺の手を感知したように扉が開く。


 いや、魔力を感知したのか。

 中に入ると今まで何度も俺を不快にさせてくれやがった王子が、どっぷりと腹の肉を寄せてイスに腰掛けていた。


 ガラス張りの廊下を進む。ガラス張りの部屋では全身を守るように服を着込んだ人などが多数いて、何かの実験をしているのが分かった。


「おせー、おせぇーよ。魔法なんざ数秒で習得しろよ愚図が」


 むかつくな、こいつ。

 だが、俺はなるべく王族には丁寧に接しようと考えているのだ。


 相手を油断させるために。

 いつかはこいつらを皆殺しにしてこの国から逃げてやるつもりだ。


 少しでも成功率をあげるのなら、王族に信頼されてる必要がある。


「遅れてすみませんでした。それで、ここでは何をするのですか?」


 王子は俺の謙虚な態度に気をよくしたらしい。

 頬の肉を目を潰さんばかりに寄せて下卑た笑みを浮かべる。


「いい心がけだ奴隷。まずはてめーにこの研究所の秘密を教えてやるよ」


 ぶちのめしてぇ。俺は笑顔を浮かべることにより、何とか怒りを押さえ込む。

 目元がひくひくしていると思うが、気づかれていないはずだ。


 教えてくれるのはデブではなくて、研究所の人間だ。

 白衣にマスク。なんとも怪しいヤツだ。


「アビスと申します。以後お見知りおきを。ここでは、魔物についての研究を行っています。魔物がなぜ生まれるのか、魔物の力の源はなんなのか。そして、ある研究成果にたどり着きました」


 魔物についてはまだ見たことはないが……ちらと目線を移す。

 ガラス張りの部屋には狼やゼリー状の恐らくスライムのような魔物を解剖していた。

 

 あれが魔物なのかもしれない。


「魔物の中には未知の力がありました。我々はこれを『ブーナイ』と名づけました。その力は血液のように流れており、取り出すことが可能でした。『ブーナイ』についてはまだ解明はされていませんが、これを人体に投与すると、魔物のような異形の存在になることが分かりました」


「それが、俺の中に埋め込まれたものか……」


「はい、それであなたのおかげでこの力をある程度制御できるようになりました。今までは普通の人では入れられた瞬間知能が完全に崩壊し、ただの魔物になっていました。ですが、どうやらあなたほどの精神力があれば飲み込まれずに済むようです」


「勇者召喚しといて殺す気だったのですか?」


 いくら、丁寧な言葉を心がけても怒りが湧き上がってくるのは仕方ない。

 勝手に体に埋め込み、人を化け物にしやがって。しかも、成功するか分からないことをしたのだ。


「死んでもこの実験が成功すればどっちみち世界は我々が手に入れられます」


「……どういうことですか?」


「これにより、すべての人間を異形の存在にし、どうにかして従えることが出来ればそれですべて解決ですから」


「まだ、見つかってないんでしょう?」


「私の計算が正しければ、あなたに投与すれば何かしらの前進が見込めていました」

 

 抑えろ、抑えるんだ。

 湧き上がる怒りに体が支配されそうになる。思わず殴りかかりそうだ。


 背中で組んだ右手はきつく締められ、必死に左手で押さえつける。


「そういうことだ。分かったか? ためしに変身してみろ」


 命令口調な態度が気に食わないが、相手の怒りを買うのはやめる。


 たぶん、変身は簡単だ。

 体に眠る『ブーナイ』を引っ張り出せばいいのだろう。


 言われたとおりに発動すると、肉体が暴れだす。何倍にも膨れ上がり、だが、服は着たままだ。服は伸び縮みするのか、そういう特別な魔法があるのかもしれない。


 それが妙にアンバランスで思わず笑ってしまいそうな変な生き物と化した。

 犬に服を着せた、みたいな。だけど、姿はゲームに出てくるオークのような野蛮そうな感じ。


「貴様に着せた服には着ている者にぴったりと合うように変化する魔法がかかっている。変身しても醜い物を見ずに済むからな」


 だったら変身させるなよ。つーか、人の息子をなんて呼び方だ。

 愚痴はひっそりと心で呟き、口答では「ありがとうございます」とだけ言っておく。


「変身はどのようにしますか?」


 アビスが聞いてくる。答えたくないな。

 この実験が進むとあまりよろしくないことになりそうだ。


 多少の嘘は混ぜておこう。


「魔法を使うような感じです。想像して体に貼り付けるような」


「なるほど……」


 その後、体の調子はとか、何かを壊したい衝動に襲われるかなどなど。

 俺の訓練ではなくて、この研究の補佐をするだけだった。


 ほとんどすべてに嘘を混ぜておいたから、大丈夫だろう。

 この後は、騎士総長と戦いか……。

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