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第二話 複雑な思い

 騎士に城内まで運ばれ、メイドたちに無理やり服を着せられた。……恥ずかしい思い出だ。

 いい生地を使っているのか、さっき着ていたモノとあまり代わらない肌触りだ。


 体を動かせないように命令されたまま、部屋に案内された。

 奴隷のような身分にもかかわらず、運ばれた部屋はキレイな場所だった。


 一応、奴隷の前に勇者がつくからか。


「勇者よ、命令する。『命令があるまではここで自由に行動しろ。だが、決して僕たちに被害が出るような行為はするな』」


 ついてきた王子がそれだけ命令を残して、部屋に押し込まれる。

 キレイな部屋だが完全に牢屋だ。中に入れられた俺は鍵を開けることができない。外からしか鍵はかけられないようだ。


 ドアを何度か殴るが、途中でその動作もさっきの命令の効果か。腕が止まる。

 これ以上暴れると、王族に被害が出るからだろう。することもなくなったので、ふかふかのベッドに腰掛けてため息をつく。


 ……気分は最悪。勇者だひゃっほーいなんて喜んでる余裕は皆無だ。

 前途多難すぎる。ここで俺の冒険は終わりを迎えようとしている。どうやって抜け出そうか。


 一刻も早くこの国――世界から逃げたい。だが、いい案が思いつかない。

 問題がいくつか浮上するのだ。


 まずはこの奴隷の腕輪をどうにかしなければならない。

 かといって、壊し方も思いつかない。ためしに殴ってみるが、俺の腕が痛くなるだけだ。


 地球に戻る方法も分からない。考えるのが嫌になり、ベッドへ大の字で寝転がる。


 あー、やることねぇ。

 ゲームも何もないこんな部屋でどうやって時間を潰せっつーんだよ。


 横になると、なれないできごとがあったからか、すぐにまぶたが下がってくる。

 一旦寝ようか。すべて、夢で終わってくれるかもしれない。


 コンコン。

 うとうとしたところで、ドアを叩く音が俺を現実に引き戻す。


 ドアが開く音が響き、俺はゆっくりと体を起こす。

 誰だ、人の睡眠を邪魔したヤツは。


「勇者様の監視を頼まれました。第二王女、リークラルディです」


 ドアの前には、胸の前で手をもてあそんでいるラフな格好の女性がいた。

 確か、第二王女。あの中で一番俺の心に残った人だ。桃色の長髪と水色の瞳が特徴の子だ。


 親たちとは全然髪の色が違う。この世界では遺伝とかはしないのだろうか。

 または拾われた子供とか。まあ、いいかどうでも。


「そういうのは普通、メイドとかの仕事じゃないのか?」


 この部屋に運ばれる前にも何人か見かけた。

 ドレスを脱いだ第二王女はそれでもまだ、立ち去ろうとしない。


「入っていいですか?」


 敵の罠かもしれない。勇者に近寄り、情報を引き出してくるとか。

 だが、今は俺も情報がほしい。勇者召喚された者が帰る方法など。


 他にもこの世界について色々と聞きたいことはある。彼女を拒み、俺が次に人と話をする機会は戦争だった、なんてことになったら泣けてくる。


 この先どう扱われるのか、自由に城内を歩けるかどうかも分からない。

 ここで、少しでも彼女から情報を引き出したほうがいいだろう。


 そんなことできるかわからないが、うまくやるしかない。


「ああ、いいぞ」


 印象に残っている。あいつらの中で唯一驚いた顔をしていたからな。

 まだ、他のヤツらが来るよりはましだ。特に王子。俺を蹴りつけやがって。


 静かに怒りを燃やしていると、第二王女は丁寧にお辞儀した後に俺の隣に腰掛けた。少し手を伸ばせば体に触れてしまいそうなほどに近い。

 近い、色仕掛けか何かか?


 スレンダーな女性で、一番は桃色の長い髪が特徴だ。シャンプーなんてあるのか知らないが、果物のほどよい香りが脳をしびれさせる。


 もしも、このまま迫られたら拒めるか分からない。すべてが敵の作戦かもしれない。

 き、気を引きしめよう。


「あの……すいませんでした。まさか、あんな実験が行われているとは思いませんでした」


 しおらしく言う彼女。とてもじゃないが演技には見えない。日本にいた頃ならあっさり信用していた。

 それでも、俺の心には彼らが騙した事実が、傷が残っている。


 簡単に信じられるわけがない。信じてはいけない。

 彼女に強く言っても意味はないだろう。それでも語調は強くなってしまう。


「信じると思うのか? あんたらが、勝手にこんなことしやがって。全部てめーらの罠としか考えられねーよ」


「……はい、そうですね。それで、どうしましょ?」


「はぁ?」


 この姫は突然小首をかしげあははと困ったように笑みを浮かべる。

 どうしましょって、少し積極的に言ってみるか。


「この腕輪を外せないのか? あんたもつけてるだろ、俺を命令する道具」


 彼女の手首を指差すと、彼女は今気づいたように目を開く。

 そして、顔の横ほどまで腕輪をあげる。


「ええと、これは他の腕輪の中でも一番階級が低いんです。他の人の命令を上書きすることもできません。それを解除するには、お父様が持つ腕輪以外では不可能です」


「面倒だな。つまり、お父様をどうにかしないといけないのか」


「そう、ですね。後は勇者様の魔力がないときは操られません」


 魔力がないときか。はっきり言ってそんなことできるのだろうか。


「俺の魔力に腕輪が反応して操っているのか?」


「そうですね。でも、生き物は大気の魔力を吸収して少しずつ回復しますから、かなり厳しいと思います」


 だったら言うなよ。

 なんとなくだが、体の中に溢れるように魔力があるのが分かる。この魔力を零にするのか……無理だろ。


 彼女との会話はこれで終わり。

 やることもなくなってしまい、気まずい。


 女子、仮にも美少女だ。憎む気持ちも合わさってさっさと出て行ってほしい。


「もういいだろ? あんたのお父様が腕輪を解除しない限り、あんたは必要ないだろ」


「あっ、そうですね」


 まるで気づかなかったとばかりに目を開く。

 なんだ、こいつアホなのか。


 怪訝そうに見つめると、困ったように頬を掻かれてしまう。


「ええと、暇なんです私」


「俺はおもちゃじゃないんだ。誰がお前の遊び相手になるか」


「……だったらどうしたら話相手になってくれますか」


「銅像にでも話していればいいだろ? 俺の妹はよくぬいぐるみに話をしてるぞ」


 若干怖いくらいに。中学二年生だったから仕方ない。

 妹という単語にぴょんと目を輝かせる。やばい、しくった。


 うっかりと情報を与えてしまった。


「妹さんがいるんですか!?」


「あんたらのせいで、二度と会えない可能性もあるけどな」


「……すいません」


 こいつ、本当に何しに来たんだ?

 それともこういう作戦なのか。天然な振りをして油断を誘い、俺に関する情報を引き出す。


 だとしたら、かなりの策士だ。既に家族構成の一部がばれてしまったのだから。

 気を引きしめるといって、あっさり情報を渡してしまっていた。


 そもそも、こんな状況普通の高校生ならありえない。色々と脳が混乱している、しょうがないんだと自分に言い聞かせる。


「それで、もういいだろ? いつまでも憎んでるヤツらと一緒に居たくない」


「……あの、でも、私暇なんです」


「監視に来たのか? 遊びに来たのか?」


「遊びながら、監視します!」


 そこでなぜ胸を張る。拳を握りしめ、どこかおかしな彼女は自信満々だ。

 ここは、話に乗ろう。


 遊んでいる最中、隙あらば彼女から情報を抜きとる。


「何して遊ぶんだ?」


 俺の返事に彼女は一度喜び、固めた拳が元気よく突き上げられる。

 だが、次の瞬間にはしゅんと肩を落とす。


「どうした?」


「……考えてませんでした」

 

 バカだ、アホだ。

 そして、彼女はええと、ええとと両手を小刻みに振る。


 このままだと彼女がショートしそうなので、俺ははぁと腰に手を当てながら。


飯井元晴めしいもとはる。俺の国では名前が後に来るんだ。だから、モトハルでいい」


 名前で呼ばせるのに特に理由はなかった。名前で呼ばれることが多いからとしか言えない。後は、相手の油断を誘うってところか。


 俺が話したことで自己紹介だと思ったらしく、片手を胸の辺りにあて、


「リークラルディ・フィルシ・デランドールです。リークラルディとお呼びください!」


 り、りーくらるでぃ?

 呼びにくいな。それでも覚えたぞ。


「分かった、リークラデディ」


「ちょっと待ってくださいっ。今なんか後半変でした!」


「別にいいだろ。それで、遊ぶんだろ? 何して遊ぶ?」


「うう、名前もっかい言ってください」


「リークラルディ」


「あれ? ちゃんと言えてますね。遊ぶというか、話が聞きたいんです」


 話を聞きたい?

 あいにく女の子が喜ぶような楽しい話がすぐに出てくるような人間ではない。


 むしろ女子に嫌われそうな話ならたくさん出てくるぞ。オタクな話や下品な話とか。


「どんな話が聞きたいんだ? リークラデディ」


「あれ、やっぱり呼び方変ですか? ええと、外の話が聞きたいんです」


「外……この世界の外の話か? それとも俺の世界の話?」


「どっちでもいいんです。私、この城の外に出たことがないんです」


 彼女は「おかしいですよね」と頬を掻く。引きこもりなのだろうか。

 だが、とてもそんな理由ではないのが表情から読み取れる。


「出たかったら出ればいいだろ」


「できないんです。親から許可が下りなくて」


 過保護なのだろうか。魔法とか不思議な力もあるし、色々危険があるのだろう。魔物や戦争。盗賊などもありえるかもしれない。


 だとしても一度も家の外に出ていないのはおかしいが。


「そうか。それで、俺の話が聞きたいと?」


「興味があるんです。どんなものがあるのかなぁとか」


 ……もしかしたら、これは俺の世界の情報を引き出す嘘なのかもしれない。

 そうかんぐってしまうのはさすがに、酷いのだろうか。いや、このぐらい疑い深くないとこの先さらに酷いことになるかもしれない。


 だが、世界のことを知られて問題はあるのだろうか。考えても、分からないな。俺に関する説明を極力さけて、適当に嘘も織り混ぜながら話せば大丈夫だと思う。


 この世界から地球に侵略なんて出来るのかと考えればたぶん、無理。この世界がどれだけの歴史があるか知らないが、過去に一度も地球はそんな危機に出会っていないのだから。


 結局結構大げさな嘘を混ぜて話すことにした。


「俺の世界には、巨大な機械があるんだよ。人型のな。それに乗った人同士で戦争が起こるんだからもう、一回の戦争で大陸の一つや二つがぶっ壊れるんだよ」


「え、えぇ!? モトハル様も、乗れるんですか!?」


「ああ、よく乗ったな。大陸とかぶっ壊れても一時間もあれば直るしな。あ、様づけやめろ」


「大陸を直せるんですか? すごい魔法ですね!」


「まあな。俺は魔法は使えないんだけど。あと、隕石を落としたりするヤツもいるぞ」


 とまあ、どこの世界なのだろうか途中から俺も分からなくなっていたがそんな感じで俺の妄想話を展開させてもらった。

 

 第二王女もよくもまあ、俺の話を楽しそうに聞いて驚いたりする。本当に情報収集に来たのだろうか疑いたくなる。それともこれもすべて作戦なのだとしたら彼女は天才だ。


 部屋に置かれた時計。数字がなにやら変な文字だが、俺にはすんなりと伝わってくる。これも、勇者の力なのかもしれない。


 午後六時ほどか。外の太陽もすっかり落ちている。


「これの使い方分かりますか?」


 そういって彼女が指差したのは天井についた白い魔石。暗くなった部屋でも十分に見えるほどに明るい。


「知らん」


「こうやるんです」


 手を向けて瞳を閉じた彼女。そして、次の瞬間にはぱっと明るくなる。

 とはいっても日本の証明ほどではない。


 部屋をほのかに明るくしてくれるだけだ。


「魔石に手を向けて、魔力を流し込むんです。すると、光ります」


「なるほどな。どこの世界でも生活には色々な知恵が使われてるんだな」


 地球ほどではないがこれで夜も長く起きていられる。

 この世界にはパソコンもゲームもないので俺にとっては意味がないが。


 その後、第二王女から色々な情報を聞きだした。


「そろそろ、食事の時間なので私は戻りますね。また、楽しい話聞かせてください」


「ああ、俺の食事は?」


「たぶん、誰かがここに運んできてくれると思いますよ」


 彼女はぱたぱたと犬が尻尾を振るように楽しげにスキップ気味で部屋を出て行った。鍵を閉める音がしないのだが、どうしたのだろう。


 ドアに近づき、開ける。

 すると、開いた。


 バカだ、アホだ。ドアの外に顔を出して、長い廊下を見渡す。

 廊下にも光る魔石が大量に設置されているので、明るい。俺の部屋より明るいぞ。けちりやがって。


 その中でスキップする王女らしからぬリークラルディはあっ! と立ち止まる。

 ようやく気づいたようで慌てて戻ってきた。


「モトハルさん! 勝手に出ちゃダメです、私が怒られちゃいます」


「知るか。閉め忘れたあんたが悪いんだろ」


 とはいえ、今暴れるつもりはない。

 おとなしく中に戻っていき、彼女がぴんと指を立てる。

 

「しっかりとご飯を食べて、しっかり休んでくださいね?」


「お前は俺の親かよ」


 片手をあげて応じておく。今度はがちゃりと音がした。

 俺は食事が来るまでの間、リークラルディから聞いた情報をまとめる。


 この世界でも勇者召喚は珍しい魔法らしい。この国以外では使えないらしく、勇者召喚のおかげで他国からの侵略を何度も防いできたらしい。


 それと、かなり重要だがこちらか俺の世界に戻る方法は知らないらしい。

 あと、化け物に変身したのも知らないらしく、それについてすごい謝られた。


 そしてこの腕輪。

 元々は奴隷につけるものだったのだが、それにより強固な呪いを付加したモノだ。


 一度つけられれば、装着者が死ぬか装着者が外すよう命令をするしか解呪の方法がない。

 ようは、王族を皆殺しにすればいい。


 ちらとさっきの間抜けな王女の姿が脳内を掠める。

 これだけのことをした王族の中でも彼女はマシなのかもしれない。騙されているだけかもしれないが、今は様子見だな。


 王族を殺す方法を見つけるまでに彼女を見定めよう。

 コンコン。俺の思考が終わるのを見越したようなタイミングで、扉がノックされる

 

「食事をお持ちしました、勇者様」


「バカにされてる気分だぜ」


 メイドはぴくと眉をあげ、首をひねる。

 それから、すぐに食事をテーブルに並べてくれる。


 豪華だ。奴隷のような扱いだからてっきり、もっと貧相なモノを食わされるのかと思っていた。

 奴隷のような身分とはいえ、彼らからすれば救世主でもあるのか。


 複雑だな。

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