第8話 自分では気付けないけど、結構人に心配されてたりする
深夜---
アル・リーンは城内にある占星の間に向かって歩いていた。
静まり返った城内の、さらに奥深くにある占星の間の扉の前に立つと、躊躇うことなく扉を開け部屋に入っていく。
部屋の中には1人の老婆が、まるでアル・リーンが来ることが分かっていたかのように静かに佇んでいた。いや、わかっていたのだろう。
アル・リーンは、老婆の姿を見て大きく息を吐くと、静かに仮面を取った。
「・・・やはり、アーニャの仕業だったんですね?今この国に『私』を知っているのはもうアーニャしかいない。おかしいと思ったんです。なんの悪戯ですか?おかげで迷惑してるんですよ?」
アーニャと呼ばれた老婆は、アル・リーンに穏やかな笑みを向けたまま、懐かしむように喋りだした。
「お久しぶりです。あぁ、あなたは今も変わらずお美しいですね。・・・先代皇帝陛下との約束だったのです。あなたは、すぐに1人になろうとするから。1人で抱え過ぎて、いつも苦しんでいたあなたの事を先代はとても心配されていました。」
アル・リーンは、はぐらかすような言葉に若干苛立ちが生じたが、アーニャがわざとやっているのはわかっているので、釈然としないが先を促すように金茶の瞳を細めた。
「だから、先代は仰ったのです。シオン・ガル・ランドフレイムをアル・リーンにくれてやる・・・と」
その、言葉の重みに気が遠くなる気がした。
「カインが・・・、あの馬鹿がそういっていたの?っていうより、カインだからか・・・。自分の息子を軽々しく扱って・・・簡単に言ってくれる。」
「とても心配されていたんですよ?」
「・・・・・・知ってる。だから悔しい。今になって・・・」
下を向き、揺らぐ瞳をやり過ごしたアル・リーンは真っ直ぐにアーニャを見つめた。
「アーニャ。私にはやらなければいけないことがまだあるの。だから、シオンには構ってられない。だけどもし、シオンが気付くのなら・・・、そのときは遠慮なく貰ってやるわ」
何年か振りに見た、アル・リーンの笑顔を眩しそうに見つめて、アーニャは静かに頭を垂れた。
占星の間を後にしたアル・リーンは、城内に与えられた自らの執務室で皇国内の地図と、魔族が目撃された都市の場所、また魔物に襲われた場所に印をつけ、表情の分からない仮面の下で思案していた。
(あの時の封印は100年は持つと踏んでいたが・・・、魔族の力が増して、魔物が増えた。やはり、封印から目覚めかけているのだろうか・・・)
30年前、ただ守りたくて、がむしゃらに戦っていた。
大好きな人達の幸せを壊したくなかった。
『私』を受け入れ、『私』が大事だと言ってくれたあの人達を・・・。
だけど、『 』も私にとっては大事で・・・、封印することで逃げてしまった。
私は・・・
アル・リーンは、緩く首を振ると小さく嘆息した。
(いや、今も昔も変わらない。守りたいものは何も変わっていない。そうでしょ?カイン、ラース・・・。)
瞳を閉じれば、今でも鮮明に思い出せる。
「が、今は感傷に浸っているべきではないな・・・、シズ!いますか?」
音も無く現れたのは、漆黒を纏った者。
「はい。」
「封印と、魔族の件を調べてください。要はここなので簡単には解けないはずですが、何か嫌な予感がします。できるだけ急いで調べてください。」
「御意」
シズと呼ばれた者は、現れたときと同じように音も無く消えた。
シズが消えたと同時に、部屋に控えめなノックが響いた。
『コンコンコン』
「・・・・・・・・アル・リーン?居るか?」