第1話 ありえないことって、起こってから気付くからありえなくなくない?
この国の皇帝の正妃は、国お抱えの12人の占星術師達が選出する。
もっとも正妃にふさわしく、皇帝と相性の良い女性を選ぶのだ。
生まれた年、生まれた時間や場所など、様々な情報を元に、国内から正妃候補を数十人選出する。
その中から、未婚で、病を持っていないか、子供を作る能力があるかなどを調べ、当代皇帝陛下の年に近く、そこそこ見目の良い女性を選び出す。
人数は各時代の皇帝や、出生率で多少は変わるものの、大体5~10人ぐらいになるらしい。
選ばれる女性は、平民から貴族と、身分に関係なく選出される。
選ばれた女性達は後宮(仮)に入り、1年間皇帝と過ごす。
最終決定権は皇帝が持っているので、気に入られれば正妃として立后することになる。
「わかってる、仕方ないって。でも、なんで私なの?ありえない・・・(泣)」
魔法学園高等部元素魔法科2年室長、シン・カズサ17歳。人生最大のピンチです。
まさか。まさか、まさか、まさかなのです。
夢でしたっていうオチだったら嬉しいな。ウフフ
「残念ながら夢ではありませんよ?シン・カズサ嬢ですね?お迎えにあがりました。あなたは正妃候補に選ばれました。つきましては住居を後宮(仮)に移していただきます。」
「アリ?声に出てました?ぎんいろの甲冑を着た、騎士みたいな人が私を迎えに来たとかって聞こえた気がして、アハハ」
私の往生際の悪い態度を、まったく気にすることなく、ぎんいろの騎士は淡々と話を進めてきた。
フンだ。面白くない。・・・いや、面白くても困るけど(笑)
「はい、そう申しました。拒否される場合は、それなりの理由がなければ認められません。どちらにしろ一度城に来ていただかなくてはいけません」
・・・まぁ、逃げれるようなものではないから?行きますよ。行きますけど!けど!
私の本業は学生です。他にも副業をチョコチョコとしてまして・・・。
さらに、城で正妃候補として生活しろなんて・・・。
なんですか、私に3足のわらじを履けと仰りたいのですか?
無理です、体は1つしかないんですから(怒)
だいたい、私はもともとこの国の人間じゃないんだから、候補から除外しろよ!
・・・うん。みんなそんな生暖かい目で見ないで。
忘れてたよ。ココ正門。The人いっぱい!
「嫌だとか・・・無理?・・・無理ですよね~?ええ、知ってますよ。はい。了解しました。行きます。」
フフフ、女は度胸ですよ。1年豪華な部屋に住めてウハウハですよ。
んでもって、1年たったらサヨナラでいいじゃん、私!
「ご協力感謝致します。このまま一緒に城に上がっていただきます。シン・カズサ嬢の部屋はすでに用意してありますのでご安心を。今日から後宮(仮)に入っていただきます。」
「えぇっ!荷物は?学園の寮に一度戻らせてよ!」
驚いたよ!ソレはもう拉致じゃないか!
「大丈夫ですよ。明日は後宮(仮)から学園に行っていただいて、帰りに部屋に寄っていただいて結構ですので私物を簡単に纏めてください。迎えの馬車が来ますので、荷物は御者に任せてください。あと、必ず、くれぐれもシン・カズサ嬢も後宮(仮)までお帰りになって下さいね?」
隙の無い笑顔を顔に貼り付けたぎんいろの騎士は、私には鬼にしか見えなかった(泣)
そう、怖かった。あんなに笑顔が怖い人初めて見たよ。
あっ!顔の作りが怖いんじゃなくて、かもし出す雰囲気が怖い。
あれは明らかに、帰ってこなかったら分かってんだろうな!?ああぁっ!!?って裏で言ってるよ!
うううううっ、頑張って真面目に、頑張って生きてるだけなのに。(2回言っちゃった)
「・・・ワカリマシタ。後宮(仮)に逝かせていただきます。」
「(字が違うだろ)理解が早くて(とても)助かります。(さっさとついてこればいいんだよ)では、ご案内いたします。シン・カズサ様」
優雅に騎士の礼を取る姿は、まるで王子様の様・・・って違う!心の声が!心の声が顔に出てるよ(怖)
マジで、怖い!
やっぱり無かった事に・・・・・・、無理?・・・無理ですよね~?ええ、知ってますよ。ハイ。
「ヨロシク、オネガイシマス・・・」
そうして、迎えの馬車という牢獄に乗り、後宮(仮)に向かったのだった。