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A‘s-DRIVE‼  作者: 五十嵐レンタロウ
case.1:葵拳探究
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Cats talk

「うまく忍び込んでも遅刻は遅刻かぁ……」


昼休みの教室で、聖は自分の机にスライムが如くべったりとうなだれる。

秘密のルートから校内に忍び込み、こっそりと授業に参加したまではよかった。

だが最終的には既にバレており、授業終了後即座に授業を担当していたスダレ頭から呼び出され、職員室に連行。担任に大目玉をくらったのだった。


「まぁ、必然的ではあるかな」


パックの豆乳をちうちう吸うシャギーカットの女子。


「遅刻するくらいなら君の愛馬でかっ飛ばしてしまえば良いじゃないか」

「いや、最近ちょっと自重していまして……」

「私のバイクの隠し場所を教えてあげても良いが、君は排気音(エキゾースト)をブォンブォン蒸かすからな。音でバレる」

「何をおっしゃる! 排気音こそビークルの花――――――って、隠し場所?」

「私だけじゃないぞ。今までバイク登校していた連中は皆、独自の隠し場所に愛馬を隠しているぞ」

「――ええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!?」


思わず、聖は立ち上がって叫ぶ。それを中断させたのはシャギーカットが放り込んだ聖のお手製昆布巻きだった。


「美味いか?」

「そりゃ、私のお手製ですから」


もこもこと昆布巻きを飲み込んでコクリと頷く。


「不真面目とは伝心して伝播し、伝染する。上手い隠し方が見つかれば自分もそうする。隣のクラスの有情島(うじょうしま)なんか、手頃な隠し場所の斡旋してかなり稼いでる」


そんな事を言いながら聖が「あ……」と、いう間に手掴みで口に放り込んだのは、聖が一番手に込んだ特製だし巻卵だった。


「――――卵焼きは甘いのが好みなんだかな」

「人でなし! 恩知らず!」

「どぉ、どぉ」


子犬の如き抗議に制止の手を翳す。


「まぁ、なんだ。そう簡単に規律は執行されるわけでは無いし、上辺の結果だけ揃っていれば誰も文句は言わない」

「でも、御田賀(みたが)さんはかなり本気で取り締まってるよ?」

「あの次代風紀委員長候補か……まぁ、そんな奴もいるさ。でも――」

「でも?」

「真面目なことが仇にならないという事はない」


黒髪を揺らして聞いてくる聖に、シャギーカットは色素の薄い髪をかきあげて中性的な風貌を際立たせる。


「聖はルノー・ド・モントーバンを知っているか?」

「えーっと、たしかシャルルマーニュ十二勇士の一人だよね」


話が早いと言わんばかりにシャギーカットのブラウンの瞳が光る。

目の前にいる友人はいわゆる英雄マニアで、神話や叙事詩とかのそういった方面に造詣が深く、聖もその付き合いで詳しくなった。ちなみに、そのワールドワイド歴女の原因となったモノが英雄を使い魔にして戦うバトルロワイヤル物だとか。


「またの名をリナルド。剣を取っても良し、軍略も良しの英雄らしい英雄だったが、運ばかりは持ち合わせていなかった。主君の愚息に反感を買うは、その愚息に愛馬を溺れ死にさせられるは、最後は真面目に聖堂建設に従事していたことが疎まれ、怠け者の労働者に撲殺されたのだ」

「確かに不運だね」

「歴史上、真面目にやったことが死因の英雄」

「それはあんまりな」

「別名、働いて負けた英雄」

「ミもフタもない」

「ワーカーホリックを自慢するのは日本人だけだよ」


おざなりにコロッケパンを頬張るシャギーカット。


「――どの道、御田賀のようなのは好印象に見れるかどうか、分かれるタイプだ」

「でも、御田賀さん頑張ってるよ?」

「彼女を擁護する君も、頑張り屋さんな御田賀の処罰対象なんだがな。A・ホイール所持の容疑で」

「うう……同罪のクセに」

「ふっふっふ」


含み笑いが最も邪悪に見える女。


「だが」

「ふひゃ!」


勝手にキャッチコピーを付ける聖にコロッケパンを向ける。


「世論……特に若者は徐々にA・ホイールの存在を容認しつつある。原動機付き軽車両の普及率は爆発的に上昇。免許の規定年齢は十五歳からになり、原付きなんか自転車扱いだ」

「後半のはOS搭載型車両が安く買えるようになったからでしょ?」

「それが出来るようになったのは、A・ホイールの技術流用があってこそだ――」

「それ以上はダメッ!!」


唐揚げの領土に侵攻したシャギーカットの手の前に聖の手が現れ侵攻阻止と撃退。


「ま、そういう事でだ……昔ながらの価値観は完全に風化し、価値観の転換期が到来。かつての登場したてだった洗濯機や冷蔵庫のように、単なる生活上のツールとしてしか捉えてなかった物は三種の神器並の需要を遂げている……そんなものを規制しようにも、大穴は開いてしまうものだ。何より、この学校の立地条件じゃな」


聖の通う学校は、駅から通うには歩きで四十分以上かかる。バス停もあるにはあるが、毎月バスの定期券を買うのと、今では二束三文で買える原付きを買って三年間使い続けるのでは、どちらが経済的か……市外から通う生徒の電車賃分も考えると、後者の比率は俄然高くなる。


「結論から考えるに、一番空気の読めていないルノー・ド・モントーバンは御田賀女史と言う事になる」

「先生たちはどうなの?」

「表だって賛成はできないが、遅刻者が続出するよりは……と言った所か。そんな態度が、御田賀女史の火に油を注いでいるこだがな」

「なんか……御田賀さんがかわいそう」


表情を曇らせる聖をシャギーカットが意味深に見る。


「御田賀さんは……決められたことを守ってるだけなのに、そんな風に言われちゃうなんて」

「……優しいな。そんな君は、私は大好きだよ」

「そりゃ、どうも」

「それじゃ、告白ついでに一つ」

「?」


反応を示した聖に、シャギーカットはそっと耳打ちする。


「――――パンツ、破けてるぞ」

「……!!!!!!!?!!!!!?!!?!!?!!?」


言葉に反応してガラガラと椅子を押しのけて勢い良く立ち上がる。

恐る恐る自身のスカートの下に手を伸ばし、臀部を手探りで確認した瞬間、瞬時に固まった。


「一瞬、Oバックかと思ったぞ……安産型の桃がバッチリ」

「バカっ!!」


真っ赤に赤面に尻を抑えて教室から逃げ出す。

シャギーカットはそんな風景をニヤニヤと眺めた。


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