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A‘s-DRIVE‼  作者: 五十嵐レンタロウ
case.1:葵拳探究
8/33

思わず市外まで出てしまった。

広い山林を抜け、緑の木々が道路を進むV8を包む。


途中のコンビニで昼までの繋ぎに麻紀がガリガリ君を買って来た。


「……なんなんだ? この味噌ナス味って」


葵が眺めるガリガリ君は、普通のガリガリ君では有り得ない薄茶と紫のコントラストを描いている。


「珍しいんで買っちゃったッス」

「お前、買って来るときに“助けてくれた御礼ッス!”とか言ってなかったか?」

「そうッス。まさか天ヶ瀬さん、ピュアな女の子の純真無垢な感謝の気持ちを無碍にするッスか!?ウルウル~」

「二十歳過ぎで擬音を言うな」

「ブー、天ヶ瀬さん、女性に歳を言うのはタブーッス。それに、ピュアな女の子はみんなの心の中にいる空想の生き物ッス。男の願望の為に、現実(ノンフィクション)虚構(フィクション)の皮を被ってるだけッス」

「お前は現実(ノンフィクション)って言うより、超現実(シュールレアリズム)な方だろ。そんなんが虚構(フィクション)被ったらどうなるんだ」

「ピチピチの女子大学生をつかまえて何てことを言うッスか。それとも天ヶ瀬さんは非ロリッスか、だったら大人の対応をさせて頂きますうっふん」

「止めろその男は皆ロリコンだと確定した上での前提」


二十歳過ぎなのに、残念な程薄い胸を張って無理のあるセクシーポーズ。

そんな麻紀の手にも、けったいな薄茶と紫のコントラストのガリガリ君味噌ナス味。


「……」

「おんなじ冷たい食べ物ッス。んん、意外とイケるッスよ」


そう言って、未知のガリガリ君をシャクシャク食べる麻紀を見て、葵も恐る恐る口に入れる。

この奇抜な配色が着色料の物である事を信じて、一口かじった。瞬間、味噌の塩辛い風味が口に広がる。


不味くは無かったが、なんだか凄く訝しい味がした。

食べ終えた頃、葵は子供の頃から慣れ親しんだソーダ味が恋しくなった。




~~~~~




清水峠。

東京と埼玉を繋ぐ交通街道は幾筋もの黒いドリフト跡が未だに、激戦の傷跡のように残ってる。


「あっひゃ~」


路肩にV8を止め、歩きながらドリフト跡をたどっていた。


「結構激戦だったみたいッスね……相手側の車種はなんなんですか?」

「ハヤマ社製のビビッド・ドンキーだそうだ……タイヤ跡からして、数は八台だな」


葵にとっては因縁深いA・ホイールだ。


「ああ、確かに、道理でタイヤ跡が太いワケッスね」

「じゃあ、あの細いのが――」

「ペイルライダーのソードフィッシュのッスね……あっひゃ~、コーナーのタイヤ跡が被ってる、ビビッド・ドンキーのと殆ど同じラインでカーブしてるッス」

「それは凄い事なのか?」

「凄いも何も……ビビッド・ドンキーは重心が低いし、車体も重いッスから、安定したコーナリングが出来るッス。それとおんなじラインを、改造しているとは言え、ソードフィッシュでやるなんて、とんでもない腕ッスよ」

「……」

「うーん、例えるなら……スノーモービルで水の上をジェットスキーと同じように走るようなもんッス」

「分かるような……わからないような……」

「似た者同士でも本質はお門違いって事ッスよ……ありゃ?途中で途切れてるッス」


麻紀の目線の先の、ソードフィッシュの細いタイヤ跡は、漢字の止めのように途切れていた。


「多分、あそこに飛んだんだろう」

「ハイ?」


葵が脇の崖を指差す。

緑がちょこちょこ生える小高い急な崖の茶色い岩肌には、道路に向かって流れるタイヤの溝が二つ、くっきり残っている。


「あっひゃ~っ!!あんなとこまで飛んだんですか!?」


ソードフィッシュの着地点と想われる場所はかなり高い。

葵は少なくとも、五メートルはあると見積もった。


「その上、こんな急な崖を……殆ど化けもんッスね」

「……」

「……天ヶ瀬さん?」


葵が見詰める先、へこんだガードレールだった。

街で見掛けるような簡素なガードレールとは違い、レールも分厚く、作りもしっかりしている。

高さも、脇下まである。

へこみも、ビビッド・ドンキーが衝突した際に出来たものだと葵は感じた。


「ガードレールがどうしたんですか?」

「いや、市内で見掛けないタイプだと思って……」

「ああ、コレ何年か前に安全面を考慮して、かなり頑丈に造ったらしいッス」

「ホウ」

「けど、OSを積んだ車も増えて、スピード補正装置で事故が少なくなったから最近は見ないッス」

「……」


葵は、悩むように線の細い顎に手を置き、ガードレールのへこみを凝視する。

ビビッド・ドンキーは重量も大きく、かなりの巨体だ。

それが、衝突してもへこみで済んだ。かなり頑丈である証拠だ。


――パシャ。


脇でカメラのシャッター音がした。

葵が視線を向けると、ソコにはポケットモバイルのデジカメモードのレンズを葵に向ける麻紀がいた。


「……何やってるんだ」

「いやぁ、悩む天ヶ瀬さんの姿も様になるなぁって思って」


やけにホクホクした笑顔で麻紀は言った。




                            *




調査から帰る頃、既に昼は過ぎていた。

そろそろ、空腹感が出て来たので、最寄りの店に入る事にした。

東京に戻る木々が深い山道の道筋、風情たっぷりの小さな蕎麦屋を麻紀が見つけた。


「アレ、アレ、雰囲気があって美味しそうッス」


森の木々に囲まれる蕎麦屋には水車があり、古木の焦茶色が妙な風合いを出している。

なにやら始終、麻紀に振り回されているような気がしたが、広い駐車場があったので葵も同意した。

V8を止め、店内に入る。老夫婦二人が切り盛りしているらしく、割烹着姿の老婆が席に案内し、注文を取る。


麻紀は、山菜の天ざるそば。

葵は盛り蕎麦を頼もうとしたが――。


「天ヶ瀬さん、どうせ経費で落とすんですから、もっと豪華に行かないと。おばあちゃん、この人にも山菜天ざる一つ」


その台詞を聞いて、今までの菓子代も経費で落とすつもりなのかと心配した。


「……経理部の奴らにどやされそうだ」


一抹の不安に眉根を寄せる。

やって来た山菜天ざる二つに、麻紀はぺかーっと光るような笑みで蕎麦に箸を付ける。


「んん~~、このワケの分からないとこで自生していそうな草の苦味がつゆとマッチして染みるッス」

「……」


葵は蕎麦にも手を付けず、訝しい顔を広げていた。


「天ヶ瀬さん、どうしたんですか?」


「いや、情報を整理しててな」

「情報?」

「ああ私が聞いた限りでは……」


1.ペイルライダーはあえて自機に不利なコースで走っている。


2.ペイルライダーはこれまで、大きな傷を人に負わせた事は無い。


「そうなんですか?」

「ああ、気になって過去のデータも調べた。大きな怪我を追った者はいない。続いて……」


3.ペイルライダーは人通りの少ない、古い公道を主に使っている。


4.ペイルライダーを探っている者は他にもいて、そいつらがペイルライダーに近づけまいとしている。


「……そんな所だ」

「……」


麻紀は、先程までの明るい顔を暗く落とし、俯く。

微かに手が震えている。

明るく装っていたが、人並みに恐怖はあったのだろう。


「……何者なんですか?アイツ等」

「多分、在日米軍の軍人だろう」

「分かるんですかっ!?」


あっさりと答えを出した葵に、麻紀は身を乗り出して驚いた。

葵は蕎麦をつゆに浸し、音を立てて蕎麦を啜る。


「動きや体つきからして結構訓練されてる人間だ、ナイフも的確に急所を狙っていた。それに、最後の奴が出した拳銃。アレは米軍で正式採用されたモデルだ」

「おんなじタイプの銃を使ったとかじゃ?」

「金属探知機の性能が良い今の日本に銃器の持ち込みは困難だ。しかもトカレフならまだしも、あんなデカい拳銃、日本で簡単に入手出来るタイプじゃない」


「あっひゃ~……でも、なんで米軍が?」

「そこまではまだわからん……だが、他にもペイルライダーに絡んでいる奴がいる」

「誰ッスか?」

「ペイルライダーの……噂を広めた人間だ」

「いるんですか? そんな人」

「……おかしいとは想わんか?」


葵の目が厳しくなる。


「へ?」

「こんな“人気の無い峠に現れるような奴が、なんで都市伝説なんかになるんだ”?」

「――あっ!」


冷静に考えたら、ペイルライダーに有名になる程の要因が少ない。

例え、凄腕で、特徴だらけの存在でも、人の目が無かったら有名になったりはしない。

人気の少ない場所ばかりに現れるペイルライダーに噂を立てる目は存在しないのだ。


「で、でも……時々、よく都市部に出てますし……」

「都市部の目に触れ始めたのは半年前だ。だが、ペイルライダーの噂その物は去年からあった……順序が逆なんだ。普通は噂の対象が存在するから噂が立つ。だけど、ペイルライダーの場合は噂の方が先に立っている。コレはつまり、ペイルライダーの存在を認知している上で誇張した噂を流している存在がいるって事だ」

「ペイルライダー本人が流しているとかは?」

「それは無い。噂を立てたいなら自らが出ればいい。今までも、ペイルライダーから仕掛けたという情報は無い。変わらずに、街灯の少ない、ライダーもめったに近寄らない峠で走っている。ある意味じゃ、ペイルライダーは被害者なんだ」

「まぁ……ただ、平和に走っていただけなのに、勝手に変な噂を立てられたんですからねぇ――あ、でも、あの米軍人は?」

「アイツ等も違う。アイツ等はペイルライダーを近付けさせまいとしたんだ。だったら、最初から噂を立てたりはしない……この任務、意外と根が深いぞ」

「あっひゃ~……」


蕎麦を食い終わった麻紀は、机に萎んだ風船みたいにうなだれた。


「結局、わかんない事だらけッス……」

「いや、そうでもない」


葵は、食い終わった蕎麦つゆに蕎麦湯を注ぎ、音を立てて啜った。


「結局は、ペイルライダーを捕まえた方が早いと言うことだ」


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