④
「こうして、今に至る――そう言う事だ」
「あっひゃ~……」
麻紀は決まり文句のように公道を走るV8の車内で驚嘆に呻いた。
「それで、警察を辞めてランスに?」
「ああ……SATも確かに厳しい環境だったがあくまでもチームでの行動がメインで、単独行動の多いランスの仕事の方が断然難易度が高い。嵯峨さんの戦いを見て、明らかにレベルの違う世界を見せ付けられた。私もあの人と同じ世界に立って見たいと思い、嵯峨さんのスカウトを受けてランスに入社した」
「あっひゃ~……ハードな話ッス」
自分とは違う世界に生きる人間を見て、麻紀は思わず、また決まり文句を吐いた。
「あの時、嵯峨さんに助けて貰えなかったら今頃、テロリストの弾丸で死んでいた。私にランスと言う生き方に導いてくれたあの人には感謝してるよ」
「……でも、なんでソレを私に?」
「お前の事も、色々話して貰ったからな。一方的に知ってるのは悪いと思って」
「そんな!!」
大それたように麻紀は手でブロックする。
「私と天ヶ瀬さんとじゃ、話の次元が違うッスよ。私のは平凡だし、殆ど趣味だし……」
「平凡でも、立派な理由だ。自分の好きな事を仕事にしようと思うのは立派な事だと思うぞ」
「そんなぁ……むず痒いッス」
照れるように身体をくねらせる。
「それは良いとして……」
葵は、ポケットに手を入れ、畳んだ紙を取り出して開いて麻紀に見せる。
それは、病院で和洞田が描いたソードフィッシュのスケッチだ。
「コレは?」
「ソードフィッシュの絵だ。和洞田に描いて貰った」
「へぇ……意外に上手いッスね」
「工業高校の生徒らしいからな、製図も出来るんだろ」
麻紀はソードフィッシュの絵をじっくりと眺める。
「……」
「何か分かったか?」
「まぁ、結構弄くってる事位は」
「ホウ?」
「此処、見てください」
麻紀は絵の胴の部分を指差す。
横腹の、均等に節目のあるパイプチューブのような部品だ。
「此処、胴の部分ッス。姿勢維持の為に横っ腹部分のスネイクパックを少し削って自由度を上げてるッス。腕も市販のソードフィッシュよりも少し長いッス――サブ・ホイールでのバランスを取りやすくする為ッスね。オンロードでのロールの負荷を軽減する為の改造が徹底的にされてるッス」
「そう、か……」
A・ホイールに関して、なんの知識の無い葵は、投げやりな生返事をした。
「座席も低くしてるし、視界も広く取ってるから足周りの確認もし易くなってるッス……でも、自由度を上げると、加減がしにくくなるから、よりピーキーになるッス。コレにソードフィッシュのスピードが加わるとなると……どんな奴が乗ってるのか、気になるッス」
「……よく分かるな」
「ああ、ウチA・ホイールショップだから、カスタムA・ホイールはよく目にするんです。何度も見てる内に、自然と分かるようになったッス」
「……」
なる程、と葵は感嘆した。
正確な物であれど、絵だけで機体のスペックを暴き出した。
長年、A・ホイールを見続けてきた鑑定眼と、細部に至る隅々まで分析するこの洞察力は本物だ。
嵯峨が彼女を葵につけた理由がよく分かった。
A・ホイールの知識に疎い葵にとって、またとない相棒だ。
「……でも、やっぱり分かんないッス」
「何がだ?」
「このブレードアンテナッス」
麻紀はソードフィッシュのフロントライト上から伸びるアンテナを指差す。
頭から直角的な剣が飛び出たように想わせるそれは、ユニコーンの一本角のように想わせる。
「コレがどうした?」
「こんな長いブレードアンテナ付けてる理由が分かんないッスよ。こんだけ長いと、曲がる時に少しだけど空気抵抗出来るし、なにより、激しい戦闘してるとすぐ折れちゃうッス」
「……これだけ、走りに徹底している奴が、そんな無駄な事をするのはおかしいと?」
「まぁ、そんな感じッス。店に来てた客の中にも、ブレードアンテナ付けてる人はいましたが、こんだ
け長いの付けてる人はいなかったッス」
ウーム、と悩むようにソードフィッシュのブレードアンテナをにらめっこをする。
「それじゃ、次に行くぞ」
「次?」
「清水峠だ。ペイルライダーの戦闘跡を調べ上げる」
「ハイッス!」
葵はV8のアクセルを踏んだ。