Reins can be held⑥
「ふい~……」
ブリューナクのシートから降りた聖はヘッドギアと防弾チョッキを脱ぎ、汗でムレたライダースーツの内に外気を取り込む。
密閉された整備ドッグの微妙に淀んだ空気でも多少は涼しい。ライダースーツの胸元を開け、ほんのり上気した薄ピンクの谷間を覗かせながら、ライダースーツの襟をはためかせる。
「……そういった事は人目を気にしてからした方が良いと思うが」
「わっ!?」
すぐ横で葵が立っているのを見て、聖が驚いて飛び退く。
「い、いたんですか?天ヶ瀬さん……」
「射撃テストが始まる前から私は此処にいる」
今更になって聖は顔を赤くし、胸元を腕で隠す。
「イヤッスねぇ、天ヶ瀬さん」
脇から麻紀がひょっこりと顔を出す。
「こういう時はあえて目を瞑ってあげる配慮をするのがマナーってヤツッスよ。天ヶ瀬さん、意外に無粋ッスね」
「何が無粋だ何が」
「どうせなら隠れて聖ちゃんの艶姿覗いて上げれば良かったのに」
「人を犯罪者にしてどうするつもりだ」
「私はさっきまで聖ちゃんの谷間を涎垂らして見てたッス」
「変態か。無い物ねだりはよせ」
「……天ヶ瀬さん、以前からチクチクと私の身体的特徴をつついてません?」
「気のせいだろ」
ジト目で睨む麻紀の視線に対し、葵は大きく顔を背ける。
「ま、それは置いといて――」
そういうと、麻紀はパタパタと聖の下に駆け寄った。
「凄かったッス!!さっきのテスト!!」
ひまわりのようにキラキラした笑顔を浮かべ、聖の手を握る。
「さっきの射撃テスト、メチャクチャ凄かったッス!!もう見惚れちゃったッスよ!!テストは百点中九十九点だったッスけど、もうワタシからは一万点くらいあげたいくらいッス!!」
「あ、ありがとうございます」
興奮しまくる麻紀に対し、聖は若干押され気味に手を振られる。
だが、麻紀の言うとおり先程見せ付けた聖のドライビングテクニックは素人目から見ても凄まじいものだった。
激しいスピードで走りながら、全てのターゲットを正確に射抜いた腕前は天晴れの一言。
撃たれた際に肩部を掠めたマイナス一点を除けば完璧だ。
その当たりの厳しさはコースの発案者である嵯峨さんらしさと言った所か。
弾切れのタイミングを見計らったようにいきなり出て来た設置小銃が、彼のイヤらしさを物語っている。
「でも私、あんまり射撃は得意じゃ無いので……」
「あれで射撃は得意じゃ無いなんて言ったらサリッサのライダー全員泣くぞ」
――コレが彼女の本当の実力か……。
最初のテストと比べるとその違いは明らかだ。
「それは良いとして、どうせならシャワーを浴びたらどうだい?」
「あるんですか?」
「一応は訓練施設だからね。寝泊まりするための設備も存在する」
「じゃあ私、浴びてきます!」
笑顔を作って聖は駆け出した。
*
「ふぃ~~」
湯気が沸き立つシャワー室のカーテンで仕切られた個室に聖は和んでいた。
「ふひぃぃ~~……」
とろん、と悦に入った表情で聖が心地良く溜め息をつく。
熱く降りかかるお湯の熱気で頬を赤く火照らせ、シャワーの水滴が滑らかな肌でふるふると踊る。
シャワーに繋がったパイプの元栓を締めてお湯を止め、備え付けのボディソープを手のひらに出して泡立て、体に優しく這わせた。
肩から華奢な腕を通りたわわに弾む豊満な双丘を震わせながら谷間を指が通り抜け、くびれたウェストの腹部のスロープを降り、脇下からヒップにかけて弓のようにしなやかな曲線を描いてボディソープの泡が伝う。
「……そんなに大きくないよね」
スラリと細い脚線美の際立つ足の太ももに取りかかった辺りで自分の臀部を見詰め、確かめる。
「十分デカいわよ」
「いや、そう言う程は……へ?」
唐突に訪れた声をたどり、視線を下げる。
そこには、一糸もまとわぬ細い裸身で腕を組み、むっつりとした表情で聖を見上げるチェルシーがいた。
不意を付くように侵入した少女にギョギョ、と驚きながらも少し困惑する聖。
「……えっと」
「チェルシーよ。チェルシー木津川」
「あの、チェルシーさん――」
「無理してさん付けしなくても良いわよ」
「じゃあ、チェルシーちゃん」
「誰がちゃん付けを許したってのよ!!」
「はひぃ!?」
チェルシーに子犬に吠えられたように叱咤され、聖は頭を手で覆って情けなく縮こまる。
「……まぁ、別にそれでもいいけど」
一息。
「あの……その――」
「?」
ばつが悪そうな表情で口ごもるチェルシーに聖はハテナを浮かべる。
「なんてゆうか……さっきは悪かったわよ」
「へ?」
「さっきは悪かったって言ってんのよっ!」
「……さっき――」
――最初のテストの後のことかな?
幾分か間を開けて聖はチェルシーに叱られた時の情景を思い浮かべた。
「……あんたにはあんたなりの考えがあって、それを私が無視して自分の意見ばっかし言って、それを
悪かったって――」
歯切れ悪くしゃべりながら、赤らめた頬をポリポリと掻く。
「別に、私は気にしてないよ?」
「それでも、私はちゃんとけじめを付けたいの!!」
腕を下に突っ張るようにしてチェルシーは怒鳴った。
「だから……その、悪かったって」
「チェルシーちゃん……」
聖はゆっくりと母親のように微笑み、しゃがんでチェルシーと目線を合わせる。
「やっぱり、チェルシーちゃんはいい子だね」
「なんでいきなりそんな話になるのよ」
「ブリューナクに乗っててわかったの」
「……ブリューナクに?」
「うん」
聖が頷く。
「あの子に乗ってると、どんな思いで、どんなに愛情を注がれて造られたかが自然と分かる。あの子が
教えてくれる」
「……」
「だから思ったんだ。あんないい子を造れるんだから、きっとチェルシーちゃんもいい子なんだって。そう感じた」
そう、断言する聖の澄んだ瞳をチェルシーは見詰めた。
我が子とも呼べる《ブリューナク》を無機質な機体では無く、一人の人間のように扱う聖。
チェルシーにとっては今までにあった事の無い人間だった。
他の特務ライダー……嵯峨でさえもA・ホイールをただの機械として見ているのに。
(コイツは……)
「あの……」
不意に聖が言葉を挟む。
「さっきの話なんだけど、コレそんなに大きいかな?」
聖はチェルシーに背を向け、自分の豊潤薄ピンクな桃李をフニフニと触る。
「……大きい」
「……そう、なんだ……」
ずどーん……、と効果音がなりそうな程にうなだれて影を落とす聖。
「……上の方がメチャクチャデカいんだからそんぐらい我慢しなさいよ」
「へ?」
聖の首の下で揺れる大きく熟したメロン二つを見詰め、チェルシーがぼそりと呟く。
「なんでもないっ!つか、いつまでそのデカい尻を私に向けてんじゃ無いわよっ!」
「ふわっ!!?」
チェルシーは向けられた聖の臀部を両手で鷲掴みにし、痴漢宜しくというように掻きしだく。
「あ、結構柔らかい……じゃなくて!私はまだ崇高で有望な将来性があるんだから、まだ負けたわけじゃないんだからっ!!」
「ちょっ、やめ……――」
――唐突に激しい爆音と振動が響いた。




