Reins can be held①
「お前、そんな天丼かましたんか」
「ギャグで済ますな、ギャグでっ」
ランス訓練施設内第三A・イェーガー用格納庫。
施設内でひっそりと存在し、コンクリート打ちっ放しの薄暗く、少し手狭だがA・ホイール一体の為なら広すぎる位だ。
「あれよ」
チェルシーが親指で白いトレーラーを指差す。
RAW輸送用の中型キャリアーだ。
「あの中かいな」
「そうよ」
チェルシーが白衣の胸ポケットからカードキーを取り出し、カードを通してロックを外す。
チェルシーが両のドアを開け放つ。
「中から出しますか?」
「いいえ、結構よ」
聖の申し出をチェルシーが丁重に断る。
「出ておいで、ブリューナク」
「?」
チェルシーが一声かけると、中に潜んでいたものがトレーラーから独りでに出て来る。
エンジンの排気音と軽快な電子音と共にOSが起動し、ホイールをゆっくり動かして眼下の下に表れた。
こじんまりとした走行形態だ。
「なんや、音声認識か」
「まだまだよ。これだけだとは思わないで」
「コレが新型か……」
葵のイメージしていた新型と少し違った。
実験機と言うから、もっとシンプルで地味な色をしているのかと思ったが、今眼下に映るのは黒がメインのかなり静謐で硬質なカラーコーディネートだ。
夜間迷彩だとしてもベストとは言い切れない上、それ以外ではかなり目立つ。
「この色の意味は?」
「ハヤトが前使ってた機体の色だから」
よく分かった。
葵がそんな表情をすると、チェルシーは不愉快そうな顔をして訴えた。
「……カラーリングなんてその場その場の状況で変えるものでしょう。テストなんだから別に良いじゃない」
小さく憤慨しながらチェルシーは言った。
「それに、ブリューナクをただの道楽の産物だと思ってもらっては困るわ」
確かに見るべき所さ他にもある。
走行形態の見た目はコンパクトで違和感無く、そのままの状態で一品のようだ。
アーモンド型の本体の前方部から肩と腕に当たる部分が存在し、本体を囲むように収納してある。
前方部には、その先端を隠すように仮面のようなものが被さっている。
あまり、変形するとは思えない。
「シートはフルボックススタイルなんだな」
胸部から続くような形のボックスシートは矢尻が膨らんだような円錐状で、胸部の先からから後ろの先まで、上から見るとアーモンド状に見える。
「システムの都合上ね。まぁ、必要とあればセミボックス・シートに変えれるわよ」
「シートごと交換出来るのか」
「フルボックスだと電力消費激しいし、街中だと目立つじゃない?ほら、フルボックススタイルって明らかな軍用機だし」
常時装甲型シート(フルボックススタイル)は軍用機等の特殊環境機独特の物だ。
軍用機は弾丸やNBC兵器から搭乗者を保護するため、ボックススタイルが主となっている。
他に水中用等も特殊環境機もボックススタイルだが、街中では殆どセミオープンスタイルを見かける。
確かに、街中でボックススタイルは目立つだろう。
「シートだけじゃ無くて脚部も地形にに応じて不整地、水中、水上、雪原、エトセトラって感じに換装出来るし、腕も用途別に変えられる。装甲や内部構造も全環境でもフルで活用出来る作りになってるわ。エンジン部もガスタービンと完全な電気駆動の物の二種類ある」
「エンジン部まで二種類も作る必要あるんかいな?」
完全な電気駆動になるならほぼ無音での走行と起動が可能になる。わざわざうるさいガスタービンエンジンも作る必要性は感じられない。
だが、チェルシーは流暢に話した。
「やっぱり、馬力やもちの長さではガスタービンエンジンの方に優があるからよ。そこら辺は、今後のこの子への課題ね」
「それにガスタービンの方が格好いいじゃないですか!」
何故か横から聖が割り込む。
「あ、聖ちゃん?」
「唸るエキゾースト!シート越しに伝わる振動!オイルのきっつい刺激臭!――やっぱり、A・ホイールに乗るならそれが無いと。電気駆動なんて味気ないですよ」
「そ、そうなんだ……」
腕を振って、至極純粋で真面目な表情で、瞳をキラキラと輝かせ、年頃の少女らしからぬ事を力説をする聖。
やはり、葵は曖昧な答えを言うしかなかった。
「……ちょっと、話それそうだから趣味の話は余所でして」
「あ、ハイ……」
チェルシーにのけられ、少し落ち込む聖。
チェルシーもかなり私的な理由でカラーリングを決めてるのだが、それを指摘しても話が横路にそれそうなので誰も口にしなかった。
つまり、とチェルシーが説明を続ける。
「――各地に飛ぶ必要があるランスの特務ライダーにとって、慣れた機体で乗れる上に、局地的運用の機体をわざわざ揃える必要無いからコストの大幅な削減可能。特務ライダーにとって個人や状況でオーダーメイド出来る機体なんて、またとない機体でしょ」
「まぁ、安上がりなんわランスにとっても大盤振る舞いやろな」
「ブリューナクの本質は騎乗してからよ。そんな簡単にブリューナクを評価しないで」
「お、おお……」
チェルシーの気の強い言葉にウィルは圧される。
「――んじゃ、早速アッチでコレ着て」
チェルシーはトレーラーの荷台から持って来たライダースーツを聖に差し出す。
「あ、ハイ」
聖が受け取ったものは、A・ホイール用のライダースーツにしてはかなりすっきりしていた。
首回り以外に装甲板は無く、一瞬スキューバ用の潜水服のようにも見えた。
ボックスシート専用のライダースーツだ。
狭い密閉空間のボックスシートでは、余計な装甲は邪魔でしかならない。
「そこのパシリ」
「パシ……」
完全にパシリにされてしまった麻紀は一瞬固まる。
「着替え手伝ってあげて」
「……ハイッス」
落胆しながら麻紀は聖と共にチェルシーに指定された用具倉庫に入る。
「……バッサリ言いおったな、あの子」
「……恐ろしい子だ」
キレ味鋭い台詞にウィルと葵は軽い戦慄を抱いていた。
「あの子たちが着替えてる間に大体の説明するわ」
チェルシーがポケットのスイッチを押す。
後方部のボックスシートが横一線に真っ二つになり、ハッチが開く。
中を覗いて見ると、真ん中にオートバイ状のシートがあった。
ペダル部分には掘り炬燵のような深い足場があり、計器の付いたハンドルが存在する。
「ほう、中はかなり広いな」
「体重移動がし易いようにね」
ハンドルの周囲にはスイッチやコンソールがびっしり並んでいた。
シートの周囲を包むようなボックスの内壁はツルツルとしていた。
「スリットが無い……?」
新型機のボックスの内装には外を直接観察する為のスリットやフロントガラスの類は一切無かった。
全てのA・ホイールに限らず、戦車にもついている物だ。
「いいのよ、必要無いから」
「必要無い?じゃあどうやって外を見るんだ?」
「それはあの子が乗ってからの秘密」
チェルシーは人差し指を口の前で立てて、悪戯な笑みを見せた。




