接続編
清水峠山中。
夜闇の中で淡く緑めく木々の葉が、そよ風でチロチロと鳴る。
ソコには不釣り合いな存在の影が、土の香る木の根に佇む。
混じり気の無い深紅の瀟洒なコートを品良く着こなし、首には精緻な刺繍の入ったスカーフ。揺らめくような少し短い髪は黄金のように絢爛な金色。
笑みを絶やさない端正で彫りの深い顔立ちに、切れ長の金の目がたおやかで西洋的な美を見せていた。
そんな存在が、簡素な森の中で、金の細工の施された宝石のような強い存在感を見せていた。
『ハインケル様――彼等は失敗したようです』
傍らに置いた通信機から、慇懃な男の声が聞こえた。
「ええ、わかっているよ。見ていたからね」
そう言って、手にしたアルミカップからコーヒーを口に含む。
何も入れないままのブラック。ジャマイカから直送したブルーマウンテンの豊かな風味と繊細な味をハインケル・ウォルコットは楽しむ。
「コーヒーを楽しむがてらに見ていたが、てんでダメだね――武装でゴリ押しするばかりで、陣形がなってない。全く、在日アメリカ軍の特殊部隊は幼稚だね。日本に来ただけで自分達が偉く成ったと思ってる。周りが変わったからって、自分がどうこうするワケでは無いのに、大体、アメリカが優秀なのは多民族の住む国家だからで――」
と、途中でハッと口を抑えて口を噤む。
「ああ、まただ。独り言に熱が入ってしまうのは悪いクセだ」
『この後は、如何なさいますか?』
「どうもしないさ、情報を売ったら僕等のビジネスは終了。それまでさ、此処に来たのだって、単なる野次馬だからね。終わったから、さっさと帰る事にするよ」
『では、車を迎えにいかせます』
「じゃあ、頼むよ」
『わかりました。それでは――』
間が空いてブツリと通信が切れた。
気紛れに歩を進めて、崖からかつての激戦後を見る。
道路中に散らばった弾丸の跡の中心に、未だに炎がくすぶる、痛々しい姿のソードフィッシュがあった。
「かつての名馬も、英雄の後を追ったか――日本には九十九神信仰と言うのがあるが、アレを見ている
と、本当に魂が宿っていたように思えるよ」
英傑の死を悼み、ハインケルの頬に涙が一筋落ちた。
人差し指と中指で、空に十字を切る。
「主よ、鋼鉄の身体の英雄を神の身元へ、アーメン――」
目を瞑り、黙祷を捧げる。
「――まぁ、それはいいとして……ランスは面白い人材が揃いつつあるね」
瞬間、ハインケルの口元に薄い笑みが浮かぶ。
ハインケルの顔に先程までの涙もろい感傷的な色は無く、その笑みは今までの好印象を恐怖に変えかねんほど冷酷で非情な笑み。
だが、ハインケルの心の内は祭りの前のように浮ついていた。
「嵯峨隼人、天ヶ瀬葵、黒羽聖、そして――――《ブリューナク・プロジェクト》」
ハインケルは立ち上るブルーマウンテンの香りで浮つく気持ちを静める。
イギリス紳士として失格だと言われるだろうが、ハインケルに取ってカフェインは最高の嗜好だった。
「――ドラマチックな展開が待ってる予感がするよ」
ハインケルは迎えの車のライトを見つけ、アルミカップのコーヒーを飲み干した。




