甥っ子の存在
### 甥っ子の存在
翌日、マサシはカズに、自分も『ON@獅子丸』のファンになったことを告げた。
「『夢の中の未来』って曲に感動しました! 自分も恋人ができた時に、ああいう風にありたいと思えるような曲でした! あと『花束を君に』という曲もすごく良かったです!」
ワクワクしたような感じで告げるマサシに、カズは笑みを浮かべた。
「そうだろ! やっぱいいだろ『ON@獅子丸』?」
「はい! 『夢の残響』も聴きましたけど、あれって失恋というよりも、友との別れみたいな曲でしたよね?」
う〜ん、と悩むような素振りをした後でカズは言った。
「音楽家の想いまではオレは判らん。でも、良い曲は良い曲だよな!」
「CDとかって出ないんですかね? 俺、出たら欲しいな」
そう言うマサシに、カズは首を傾げながら応える。
「出さないみたいだよ。欲しいって人はけっこういるみたいだけど」
マサシは少し残念そうに眉をひそめた。
「そうなんですか⋯⋯でも、それだけ隠れてるってことは、何か理由があるんですかね?」
カズは少し間を置いてから、声を潜めるように言った。
「実はさ、オレ、ON@獅子丸本人を知っているかも知れない」
「えっ!?」
マサシは思わず声を上げた。
「どういうことですか?」
カズは周囲を見渡してから、さらに声を低くした。
「何か、聞いた話によるとこの高校の昔の出身者らしいんだ。つまり、地元の先輩だな」
マサシの目が輝いた。
「それって、この街に住んでるってことですか?」
「ちょっとな。調べた限りでは昔、親友に裏切られて学校を中退したらしい。それからは音信不通になっていたみたいなんだけど、最近になって活動を始めたようだとオレは聞いた」
マサシは興奮を抑えきれずに身を乗り出した。
「何歳くらいの人なの?」
「さあ、そこまでは⋯⋯ただ、その人の甥っ子だと言う人がいたんだ」
「甥っ子?」
「ああ。この高校の先輩だよ。名前は⋯⋯確か、ハルトだったかな。ちょっと大人びた雰囲気の奴で、卓球部にいた」
マサシはその名前に聞き覚えがあった。
「ああ、あの——ちょっとクールな感じの、卓球がめちゃくちゃ上手い奴ですよね?」
「そうそう。彼が、その甥っ子って言ってた奴なんだ。でも、本人に直接聞いても『伯父はただの音楽好きの人です』って言って、それ以上は教えてくれないんだよな」
マサシは考え込んだ。
「じゃあ、そのハルトさんに話を聞いてみれば、何か判るかもしれないってことですか?」
カズは肩をすくめた。
「無理に聞くのはマズイかもな。あいつ、プライベートに厳しい奴だから」
だがマサシの目には、もう既に「調べてやる」という気配が漂っていた。
「でも、もし本当に『ON@獅子丸』がこの街にいて、この高校の出身者なら⋯⋯それって凄くないですか? あんなに感動する曲を作れる人が、目の前にいるなんて」
カズは苦笑しながら言った。
「だからって、無理に突っ込むなよ。オレのもあくまで噂の話だからな」
だがその夜、マサシはハルトのことをネットで調べていた。
卓球部の活動報告や、彼が話している動画などを漁っているうちに、あることに気づく。
ハルトが映っていたSNSの動画の中に、『夢の中の未来』に似た旋律が流れていたのだ。
「これは⋯⋯偶然じゃない」
マサシは画面に向かって呟いた。
翌日、彼はハルトに直接声をかけた。
「あの⋯⋯ハルトさんって、『ON@獅子丸』ってアーティスト知ってますか?」
ハルトは少し驚いた表情を見せたが、すぐに冷静な顔に戻り、警戒の色を見せた。
「⋯⋯知ってるけど、どうして?」
「いや、その⋯⋯俺、最近彼の曲にハマってて。特に『夢の中の未来』が好きなんですけど、ハルトさん、その曲に似たような曲をSNSサイトで流してたじゃないですか?」
ハルトは少しの間、マサシを見つめていた。
やがて、静かに口を開いた。
「⋯⋯伯父の曲だよ。彼が作ったもの」
マサシは言葉を失った。
「本当ですか? じゃあ、ハルトさんって⋯⋯」
「伯父の甥っ子だよ。でも、彼の正体は言えない。彼自身が隠れたいって言ってるから」
マサシは興奮を抑えながら尋ねた。
「じゃあ、伯父さんは今もこの街にいるんですか?」
ハルトは少し考えてから答えた。
「⋯⋯いるよ。俺は伯父に育てられて来たからな。でも、もう昔のことは全部消して、新しい人生を送ってる。だから、俺も彼のことを話すのは、あまり好きじゃない」
マサシは深く頷いた。
「⋯⋯判りました。でも、曲は本当に素晴らしいです。俺みたいな人間が、夢を追える勇気をくれました」
ハルトは少し微笑んだ。
「伯父も、それを聞いたら喜ぶだろうな」
それから数日後、マサシはカズにその話をした。
「ハルトさん、本当に伯父さんって言ってましたよ! でも、正体は教えてくれませんでした」
カズは驚きつつも、少し感動したように呟いた。
「そうか⋯⋯オレも、いつか本人に会ってみたいな」
「俺もです。でも、彼が隠れてる理由も、きっとあるんでしょうね」
「ああ。でも、音楽で人を救えるってのは、本当に凄いことだよな」
その夜、マサシはまた『夢の中の未来』を聴いた。
そして、心の中で呟いた。
——ありがとう、『ON@獅子丸』さん。
あなたがいてくれたから、俺はまた夢を見られるようになった。
そして、いつか——きっと、あなたの声を直接聞ける日が来るだろう。
そう信じて。




