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性春時代  作者: あかいとまと
春休み
33/50

マンガ家としての道と、もう一つの道

### マンガ家としての道と、もう一つの道


 カズのマンガ家としての道はほぼ成功していると言えるだろう。


 たくさんのファンが付き、たくさんのファンレターが届き「あなたの作品に救われました」とか「あなたの作品に夢を貰いました」とか言われ、それを読んだ両親もカズの努力を認めるしか無かった。


 そして、カズは新たな事にも挑戦を始めていた。


 マンガを描きながら、同時に小説も書き始めていたのだ。


 要領は簡単だった。


 マンガのストーリーを考える様に、プロットを練り、それを文章にして書き出すだけ。


 原稿用紙300枚にもなるストーリーを書き上げたカズは、それを出版社に投稿した。


 それから数ヶ月後、出版社から連絡が来た。


 カズの作品は、小説でも賞を受賞したのだと言う。


 カズは電話の向こうから届く出版社の編集者の声に、一瞬信じられない思いがした。

 小説で賞を受賞? 

 冗談だろうか。

 いや、冗談にしては声が真剣すぎる。

 カズは耳を疑いながらも、その言葉を何度も繰り返し聞くことで、それが現実であることを理解した。


「おめでとうございます。カズ先生。あなたの作品は、新人賞の最優秀作に選ばれました」


 その言葉に、胸が熱くなった。

 カズは思わず電話を握る手に力を込めた。

 マンガ家としての成功は確かに手にしてきた。

 だが、小説という新しい道を歩み始めたばかりの自分にとって、これは大きな一歩だった。 

 いや、それ以上に、人生の分岐点とも言える出来事だった。


「ありがとうございます⋯⋯本当に、ありがとうございます!」


 カズは心の底からそう答えた。

 電話を切った後、彼はその場に座り込み、しばらく動けなかった。

 頭の中が真っ白になり、それから徐々に、これまでの日々がフラッシュバックするように蘇ってきた。


 マンガを描き始めた頃の苦労。 

 連載が決まるまでの不安と焦燥感。

 締め切りとの戦い。

 そして、小説を書き始めたあの日のこと。

 夜遅くまで原稿を書き、朝にはまたマンガの原稿を描くという日々。

 自分でもなぜそんなことを始めたのか分からないほど、無謀な挑戦だった。


 だが、それが報われた。

 小説でも認められた。

 カズは立ち上がり、窓の外を見た。

 夜空に星が瞬いている。

 まるで自分を祝福しているかのように。


 数日後、出版社を訪れたカズは、編集者と対面した。

 小柄で眼鏡をかけた、年齢不詳の女性だった。

 彼女は笑顔でカズを迎えると、手渡された賞状と記念品を受け取らせた。


「あなたの文章には、マンガ家ならではの視覚性と、感情の深さがありました。読者の心に刺さる作品です。ぜひ、今後も続けてください」


 カズはその言葉に、ただ「はい」と答えるしかなかった。

 彼の心には、新たな目標が芽生え始めていた。


 それから数ヶ月後、カズの小説は単行本として出版された。

 マンガの連載と並行しての作業は、想像以上に過酷だったが、彼はそれを楽しんでいた。

 マンガと小説、それぞれの表現方法の違いに苦しみながらも、その魅力に取り憑かれていた。


 小説の出版記念イベントでは、多くの読者が集まり、サインを求められた。

 カズは一人ひとりに丁寧に応えながら、こうして二つの道を歩む自分を想像していたかのように、静かな自信を感じていた。


「カズ先生、マンガと小説、どちらが好きなんですか?」


 ある読者がそう尋ねた。

 カズは少し考えてから答えた。


「どちらも、大切な表現の形だよ。マンガには絵があるからこそ伝えられることがあるし、小説には言葉だけだからこそ届くものがある。どちらも、オレの人生を彩る大切な道なんだ」


 その言葉に、読者たちは静かな拍手を送ってくれた。


 カズは、その日、夜遅くまで自分の机に向かい、新たな小説のプロットを書き始めた。

 そして、マンガのラフスケッチも並行して描いていた。

 疲れているはずなのに、なぜか心は軽く、頭の中はアイデアで満ちていた。


 彼の人生は、マンガ家としての道と、小説家としての道という、二つの光を浴びながら、新たなステージへと進んでいた。


 そして、カズはこう思った。


「人生は、一つの道だけじゃつまらない」


 そう、彼の人生は、まだ始まったばかりだった。








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