仕事が見つからないと嘆いたら「うちの国に来ない」と誘われた
ところ変わればってあるよね
自慢じゃない……いや、思いっきり自慢をするが、私は優秀な魔術師だ。魔術の才は優れていて、学園では常に首位。新しい魔術もいくつか作成していて、特許も持っている。
だけど、
「また不合格……」
もうじき卒業なのに就職先が見つからない。
「なんでよ………」
筆記試験は合格。さて面接だと勢い込んでアピールするが、いつも同じ理由で落とされる。
「闇属性の魔術師のどこが悪いのよ!!」
いくら優秀でも闇属性だしな~。
てか、この成績どれだけ袖の下でも渡したんだ。
特許を取った術って誰から盗んだんだ?
闇属性でこんな経歴はありえない。
異口同音の断り文句。
確かに私は闇属性が得意だ。それでも努力して自分で制作した補助アイテムを使用すれば他の属性も使えるようになったし……それでもそれ専門の人からすればしょぼいレべルだが、他の属性が使えると言うことで属性同士での影響を与え合う魔術が出来ないかと試してみた。
その結果の成績首位。そのおかげで出来た新しい魔術。一般人でも使用可能な魔道具の数々。特許の数々。
だけど、誰もそれに関して評価はしない。評価する内容はただ一つ――闇属性。
「私の価値は闇属性だけじゃないのに……」
私の成績も特許も評価に値しない。それどころか闇属性が成績がいいのはおかしい。そんな発明できる時点で誰の技術を盗んだのかと言われる始末。
そんな事をするわけないと胸を張って告げてはいるが、世間は私の言葉を信じない。
(特許を取得できたことは幸いなのよね)
私の技術だと認めてもらった証明なのだから。
「アンシャーリー嬢?」
声を掛けられてついそちらに視線を向ける。
「ああ、やはり、アンシャーリー嬢だ」
褐色の肌の青年が微笑みかけてくる。闇属性というだけで遠巻きに見られる私に声を掛けてくるのは同盟国からの留学生であるカシム・アルハージャさまだ。
同盟国でありながら、褐色の肌というだけで遠巻きに見られていた彼は同じく遠巻きにされていた私が気になって声を掛けてくれることが多かった。
「カシムさま。お久しぶりです」
間もなく卒業で、カシムさまは国に帰る準備で忙しいと聞いていたが、まさかこんなところで会えるとは思わなかった。
「よかった。今、貴方の家を訪ねたら留守だと言われて……」
わざわざ訪ねに来てくれたことに驚かされたが、ふと家族の反応が気になって心配になる。家族がカシムさまに失礼な態度を取らなかっただろうかと。
「アンシャーリー嬢が卒業したら縁を切る娘だとか。黒はここに来るなとかさんざんなことを言われたけど、本当にこの国は黒……闇属性が嫌いなんだね」
「それは……家族が申し訳ありません」
頭を下げて、謝罪をする。
良い親と言われたら微妙だが、私が卒業するまで育ててくれた親だ。闇属性の娘は嫌だと態度で示されて、卒業したら出て行けと縁を戸籍を抜けるように書類も用意しているが、冷遇も虐待もされていない。だけど、カシムさまにもそんな態度を取るとは………。
「いや……そんな態度を見せられたら申し訳なさが無くなったというか……」
「申し訳なさ?」
逆ではないだろうか。
首を傾げると、
「アンシャーリー嬢。我が国で就職することも選択肢に入れてもらえないか? もちろん貴方のような優秀な人材はあちらこちらに引く手あまただろうが、貴方のような優秀な人材が我が国に来てくれると助かるのだが」
いきなり言われたまさかのスカウト。まさか、私が就職希望をして面接をしているのがことごとく落ちているのを知っていてのタイミングかと思えるほどのまさに天からの助けのように誘われた。
「いきなり言われても困るだろうけど、きみの才能を我が国で活かしてほしいんだ。考えてもらいたい」
返事はすぐじゃなくてもいいと言われて数日だけ考えて……かの国の資料を読み漁ってから。
「お受けします」
と返事と共に卒業して早々にカシムさまたちと共にかの国に出立した。
「お姉さんありがとう!!」
「本当にありがとうございますっ」
お礼を述べるのはとある母子。
「いえ、身体に気を付けてお大事に」
そっと女の子と視線を合わせてもうすっかり良くなった顔つきに安堵する。その様に母親はもう一度しっかりと頭を下げて感謝の言葉を述べている。
「よかった……」
先ほどの子供は先日熱中症で倒れ、意識を失っていたのを私が闇魔術と水魔術の混合で氷を作って冷やしたことで体調が戻った子供だった。
カシムさまと共にやってきたこの国は昼は暑く。逆に夜は寒いという厳しい環境で身体の弱い子供はすぐに倒れて亡くなってしまうところだった。
せめて良いモノを食べさせてあげたいと親が思っていても食料すらまともに育たない国だったので、輸入に頼っていたが、日持ちしないので乾燥させたりで長持ちするように工夫されるが、まず少ないのは冷たい水だった。
闇魔法で熱も光も通さない容器を作り上げ、その中に水を保管して、冷たい水を確保したらいろんな人に喜ばれた。
闇魔法を使っているだけで快く受け入れてもらえなかった故郷との反応と大違い、それに戸惑った。
「うちの国では闇魔法の方が喜ばれるんだ。まあ、言っても信じてもらえなかったけどね」
笑って教えてくれたカシムさまの言葉に、確かに闇属性が嫌悪されている国でそんなことを言っても信じてもらえないなとここまで感謝されてもまだ戸惑ってしまう自分の感想だ。
それから昼間の暑さを少しでも和らげてほしいと病院などから助けを求められていろんな術や道具を開発すると喜ばれる日々。それが嬉しくてここに来てよかったと充実した日々を送っている。
それはともかく、
「知らなかったですよ。カシムさまがこの国の王子だったなんて」
カシムさまは私が作業をしている時にちょくちょく差し入れを持って訪ねに来る。今日も野菜を保管できる物が無いかと相談されていくつかのアイディアをまとめていたら果物を持って訪れてきた。
なので休憩を兼ねてじっと睨むとカシムさまは困ったように笑って、
「言っても信じないだろう。褐色の肌のものが留学に来たってだけで嫌そうにしていたし、ましてや王子だなんてね。――まあ、そのお陰で上辺以外のものもしっかり見れたしね」
「…………」
「第一、王子と名乗ったらアンシャーリー嬢とお近づきになれなかったし」
「まあ、それはありますね……」
近付けないようにしただろう。忌むべき存在を。
「王子と言っても28人目の王子だし、国の仕事はするけど、兄たちほど大変じゃないから気が楽だし、一夫多妻にしなくてもいいし」
果物を刃物で器用に切り分けて差し出してくれる。
「ゆっくり好きな子を口説けるからね」
「好きな子……」
好きな子いたんですかと何故かショックを受けていると、
「そう。気になったからつい国に連れて帰ろうと思って彼女専用の研究室も作っちゃうほど」
すごいな。そこまで大事に思われているんだ。
「今日も分かってもらえないか。――ところで、研究所の使い心地はどう?」
いきなりの話題転換に戸惑うが、
「不満はないですね。こんな場所を用意してもらえて感謝します」
そういえば、カシムさまの好きな人は研究室を用意してもらって連れ帰ったと言っていたな。まるで、私みたい……。
と、そこまで考えてとても都合のいい考えが思いついて顔を赤らめてしまう。まさか、まさか、まさか…………。
「気付いてくれたんだ。なら、もっと積極的に攻めるから」
獲物を追い詰めるような顔が凛々しくて格好いいと一瞬思ってしまったが、とっさに恐怖も感じ取って距離を置く。
闇属性として人に好意的に接していた経験が無い立場からすれば刺激が強すぎる。
「少しずつ、小出しにしてください!!」
悲鳴のように懇願するしか今の自分にはできなかった。
全然関係ないが、のちに食べ物を冷蔵する技術を発明して、この国はとても潤うようになるのだが、そんな未来を私はまだ知らない。
ましてや、私がこの国の歴史書に載るほどになるなんて……。
砂漠の国と思ってください