7、間一髪
ウニはひとまず、状況を整理した。
目の前の男の子――年齢は5、6歳くらいだろうか、結構上等な服を着ている。
ってことは偉い人の息子ぉ!?と一瞬ウニは逃げ出したくなったが、どうにか耐えた。
「うぅ、うっうっ、うえぇ、、、、、ぅわぁんっ」
男の子はまだ泣いている。この絵面ではウニが泣かせたように見えなくもない。
(こ、このまま誰かに見つかったら、、、、、しょしょ、処刑案件、、、、!?)
この国が処刑を禁じたことさえも忘れ、どうしよう、という一言が永遠と頭を回る。
目も回り始めていたそのとき、男の子が何かを呟く。
「ちちうえぇ、、、、、はいあっとちちうえ、、、、、うぅっ」
「ハイアット?、、、、、あ」
その一言で思い出した。ハイアットとは、スミス男爵のことではないか?彼には一人息子がいると聞いている。確かその子の名前は、、、、、
「ランリート、、、、、君?様?さん?」
「、、、、、ぐすっ」
ランリート君?様?さん?は頷いた。
なるほどこの子が――とか思ってる場合じゃない!とウニは考える。
ハイアット男爵は今日王宮に来ているはずだ。客人をもてなすところは宮殿の主となる建物なので、そこへつなぐ廊下を渡れば彼と会える。
「よし、じゃあ行こ、、、、、あれ?」
いつの間にかランリートがいなくなっている。
どこに行った、、、、、?とあたりをキョロキョロしていると、窓の外にスミス男爵がいた。
「ちちうえ!」
そのとき、ランリートが叫ぶ声が聞こえた。
慌ててそちらを見ると、彼が窓から身を乗り出しているところだった。
だがその小さい体で上半身を支えられるわけがなく、、、、、
「あっ!?危ない!!」
ランリートは――落ちた。
***
スミス男爵は、王宮の者に許可をもらい庭に入っていた。
その庭がとても素晴らしかった――というのもあるが、はぐれた息子、ランリートを探すためでもあった。
塔の中に入ることはできない。だが、ここからなら塔の廊下がよく見える。流石に部屋を覗き見する訳では無いが、通路くらいならば問題ないだろう。
息子はまだ5歳だ。危険な目にあっていないだろうか、、、、、あのとき、目を離さなければ、、、、、とひどく後悔していると、探していた息子ランリートの声が聞こえた。
「ちちうえ!」
そちらを振り返ると、ランリートは塔の窓から上半身を外に乗り出して、こちらを笑顔で見つめていた。
――が、その顔はすぐに恐怖へと変わる。
あまりの高さに驚いたのだろうか、声を掛ける暇もなくランリートは窓から落ちる。
「ランリートッ!!」
すぐに受け止めようと駆け寄るが、間に合わない。
最悪の場合を考えた途端、何かが目前をすぎる――ウニだ。
彼女は垂直な白い壁を駆け下り、そのままランリートを抱き寄せる。
そして高く跳躍し、そばにあった小屋の屋根を蹴って見事に着地した。
「ランリート!」
ハイアットはすぐにそばへ駆け寄った。息子は無傷のようだ。
「ありがとう、、、、、本当に、息子を救ってくれて、、、、、」
礼を言うと、ウニはそっとランリートをおろし、こちらに向き合う。
「そんな!恐れ多いです!、、、、、でも、よかったです。間に合って」
そういって、彼女は笑う。
ハイアットは何回も頭を下げ、息子とともに帰っていった。
ウニは、その親子が見えなくなるまで、その場に残っていた。