53、清々しい朝に起こった珍事件
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ウニは思い出すのをやめた。
「ふぅ、、、、、」
何よりも、頭がこんがらがっていたからだ。
「姉さんは、マシーラさんとなにか繋がりがある?“あの忌々しい一族のせい”って、、、、、」
ウニはなにかわかるのではないかと思ったが、結局なにもわからずじまいで夜は明けた。
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何日か経ったその日、ウニはわくわくしながら身支度をしていた。今日はノアと一緒に街へ出かけるのだ。
――断じて、ノアと一緒に行くことにわくわくしているわけではない。ただ単に服を買いに行くことが楽しみなのだ。そう信じたい。
ウニは朝食を取ろうと食堂へ向かう。だが、そこにはいつものようにノアはいなかった。
珍しいな、、、、と思いながら、ウニは食事をもらい、テーブルへ向かう。
そのとき、ちょうど男子寮の方からものすごい音が聞こえてきた。
――詳しく言えば、ドドドドドドドッ!というよう、走っているかのような、、、、、。
ウニとその場にいる料理人、護衛や使用人たちも怪訝な顔で音がする方を見ている。
しばらく耳を傾けていると、どこからか聞き覚えのある声が聞こえてきた。
「ウニーー!助けろーーッ!!」
「逃さねえよ!!」
なんだか嫌な予感のする言葉である。
なので、ウニは、ちょっと失礼、と言いながら困惑する料理人の横をすり抜け、厨房の台に隠れた。無論、面倒くさそうなことに巻き込まれないためだ。
案の定、声の主――ノアは、ズザザザザーッという盛大な効果音をぶちかましながら、食堂に滑り込んできた。
ウニは台の上からチラ見する。
そして、目を見張って天を仰ぎ見る。
「なんてこった、、、、、」
理由は実に単純明快である――ノアの服装だ。
彼は普段ローブばかり身につけていたので、そこまで思考が回らなかった。
(シャツは良いけど、なぜにピンク色?しかもダサい緑のチェック、、、、、ズボンは膝小僧が見える短パンだし、こっちも柄物、、、、、そして極めつけはこれまたダサいスカーフに、サングラス、、、、、すべてが絶望的すぎていっそ清々しい、、、、、)
、、、、、というひどい惨状だった。
頭を抱えているのはウニだけではない。他の食堂にいる者も、皆等しく絶句していた。
だが、その“ダサ男”ならぬノアの後ろに、さらなる災いが潜んでいた。
「ぅおい!ノアぁー!俺様の渾身の“おしゃれコーデ”になーに文句言ってんだぁ?女とデートなんだろぅ?じゃあ洒落たもん着ねぇとなぁ?」
ノアの後ろには、赤髪にダサいサングラスをつけ、『俺様最強、夜露死苦』とバカでかく描かれたジャケットを着ている“ダサ男2”がいた。どうやら、ノアの激ダサコーデは、こいつの仕業だったらしい。
その言葉に、黒いレンズ越しのノアが目を剥いた。
「はぁ!?こんなのにおしゃれもクソもないわ!無理矢理着せられたと思ったら何なんだこれはッ!早くもとに戻せ!!、、、、、それに、で、デートなわけがあるかッ!ウニはただの馬鹿娘だ!!」
ウニはウニでこめかみを引きつらせ、は、ぁ?と呻いた。
(あー、どうしよ。はっ倒したくなってきちゃったなぁー)
拳をゴキゴキと鳴らしているウニは気づいていない。後ろにいる料理長が、その恐ろしい形相を見てプルプル震えているのを。
清々しい朝に起こった珍事件。ノアvs謎の男(vsウニ)?の普通に理由のわからない戦いが、固唾を呑み見守る使用人たちの前で、幕を開けた。




