43、贄
ウニに遅れて、2人も基地についた。
ノアはこころなしか暗い雰囲気を纏っているし、あちらこちらに擦り傷が見える。エラはいつも通りだ。
「わー、ノア災難でしたね」
「、、、、、エラさんは、いつもお前にあんな感じなのか?」
「そうですよ。言うの忘れてましたね、すみません。基地でも結構噂になってるんで、とっくに知ってるかと思ってましたけど」
「、、、、、知らなかった。今度お前とエラがいたらすぐに逃げるよう気をつける」
「いやそこまでしなくてもいいですけど」
「ウニちゃあん!!ハグしま、、、、、」
「すみません、エラさん。ちょっと黙ってください」
抱擁しようと手を伸ばしてくるエラの頬を片手で押しつぶして、ハグを回避するウニにノアが物言いたげな目を向ける。
「エラさん、、、、、」
「うん。いつもはクールビューティーなエラさんなんだけど、わたしを前にするとこんな感じになっちゃうんだよねぇ。困ったもんだ、、、、、たーいちょーぅ。ただいまもぉどりまーしたー」
すると、執務室がある方向の階段から隊長が降りてきた。
そしてこの光景を見ると、慣れた手さばきでエラをむんずと掴み、そこら辺に放り投げた。
ドシャァッ!という派手な音が聞こえたが、戦士がそのくらいで死ぬわけがないので無視をする。
唯一慣れていないノアが、チラチラとそちらの方を見た。
「さて、なんの用だ」
屈強な手を腕組して見下ろすヘンリーに、ウニはいつも通りの口調で言う。
「いいえ、特に何もありません。ただ、襲撃されたと聞いたもんで、心配になったんです」
「いや、襲撃犯はその場にいた者ですぐさま対処した」
「でも、サムさんから聞きましたよ?結構苦戦したって」
サム――サム・ワーンデッドとは、ウニ達と同じ戦士の一人で、主な武器は“情報”である。隊で唯一戦いを生業としない引きこもりで、普段は自室にこもっている。彼は今回の事件の詳しい情報をいち早く戦士にバラ撒いており、撒く方法は多種多様である。ウニの場合伝書鳩だった。朝からポッポポッポうるさかったものだ。
「またサムか。あいつ、いつになったら出てくるんだか」
なお、サムの顔を見たことのある者は、隊でもごく僅かだ。ヘンリーとウニくらいだろう。ヘンリーは隊長として立ち会ったときに見たが、ウニの場合、エラがうるさくて寮を破壊してしまい、男性寮の壁を貫通させ、事故的に見ただけだ。
サムはその陰気な性格とは裏腹の大男だった。隊長ぐらいの背丈で、顔はパーツが中心に寄っていた。ウニが、「ミートボールみたい、、、、、」と言ったら即家具を投げられて嫌われた。まあしょうがないか、とウニは思っている。しょうがなくはない、自業自得である。
だが、嫌われていても情報をくれるので、そこのところは優しいと思っている。
「まぁ、確かに強かったが、、、、、そのうちの1人が、妙なことを言っていたらしくてな」
ウニは首を傾げる。
「それは、どういう、、、、、」
「詳しいことはテオに聞け。あいつが聞いた張本人だからな」
「――呼びました?」
噂をすれば、張本人――テオ・サルスが怪訝そうな顔をして近づいてきた。
「テオさん、こんにちは」
「おお、ウニか。久しぶりだな。」
テオは薄緑色をした髪の青年で、ウニより2年先輩の20歳だ。
ウニは彼を見上げ、尋ねる。
「テオさんが、襲撃犯の1人が言ったことを聞いた本人だと聞きまして、、、、、」
テオは頷いた。
「ああー、そのことか。そうなんだよ」
「詳しく聞かせてくれませんか?」
彼は内緒話でもするように声を潜めた。
「俺もよくわからないんだが――」
ウニは先を促すように、ふんふん、と相槌を打つ。
「『、、、、、これじゃあ、贄が手に入らない』って言ってたんだ」




