4、ミーア姫
王宮は、主に5つの建物で構成されている。
西の塔、北の塔、東の塔、中央塔、そして宮殿の主となる建物だ。
“塔”と言っても、細くて長いあの塔のことではなく、学校で言う西校舎や北校舎のようなものだ。
西の塔には姫が、北の塔には王子が、東の塔には使用人や召使いが、中央塔には国王陛下や王妃がくらしており、その他の広間や議会のための部屋などは宮殿の主となる建物――すなわち客人がもてなす役割を担っている。
我がシェラール王国の王宮はこの世界では珍しい作りをしているので、他国の大使や大貴族などがよく訪れる。
無論、この国は大陸の中では最も広い領地を有しており、500年前までは戦争も負け知らずなくらいの軍事大国だったので、外交や取引で来る者も多いが。
そんな偉い方がたくさん来るだけあって、内装も大変綺羅びやかなものだった。
巨大なシャンデリア、赤いカーペット、何円するのかわからないほど高額な絵画、、、、、これほど着飾っているのに、どこか風格を漂わすその空間は、これまでウニとは全くの無関係だったものばかりだ。
その美しさに、何回も立ち止まってしまうウニを、ノアはグイグイと引っ張る。
「おい、止まるな。貴族が来るぞ」
「うっわぁ、、、、、えぇ!?すっごい。あの壺、確か高級品のルミアールコレクションだよね?1つだけで豪邸が2、3つ買えるやつ、、、、、やっぱここって王宮なんだな、、、、、」
「時間がない。お前が寝坊したせいで。早く歩け」
「わかってますって、、、、、っていうか私はウニです。ちゃんと名前で呼んでください」
「、、、、、」
「ええぇ!?あ、あれ、ダイヤモ、、、、、」
「し、ず、か、に、し、ろ」
先程までの気まずい空気はどこへやら。2人は小声で騒ぎながら、東の塔へと向かった。
「ここから先は男の俺は行けない。廊下をずっと先に行ったところがお前の部屋だ。朝になったら食堂で朝食を取り、西の塔へ行け」
「、、、、、」
「、、、、、なんだ」
ウニがじーっと顔を覆うフードを見ていると、ノアは嫌そうな声を出した。
「いや、あの、、、、、フード取らないのかなあって。っていうかそもそもなんでフード被っているんですか?」
「俺をお前と同じにするな。戦士はほとんどが魔術師だ」
「、、、、、あ、そっか」
自分以外の戦士は魔術師だったことを思い出し、ウニは今更のことを言った。
「なんで魔術師集団なのに戦士って名乗ってるんですかね?ふつうに魔法兵団とかで良いじゃないですか」
だからウニは“無血の戦士”と呼ばれるようになったのだ。
「、、、、、さぁ。俺もわからない。じゃあな、寝坊すんなよ。首だぞ」
「、、、、、」
ウニは、いつか絶対見返してやる、と心のなかで決め、自分に当てられた部屋に向かった。
***
朝。ノロノロと支度をしつつ、部屋へ目を向けた。
ほとんど寮と変わらないような質素な部屋で、家具も意匠や装飾などは一切見当たらない。だがウニにはそれがちょうど良い。あんな豪華絢爛にされたら、絶対に眠れない。
部屋を出て、使用人専用の食堂へ向かう。初めてにも関わらず、今日のご飯は何だろなー、と思いながら。
朝ご飯は、パンとサラダと具沢山のスープ。なかなか豪華ではないだろうか。雇い場所によっては非常食みたいな食事だけのところもあるらしいので、ひとまず安心だ。
そして、いよいよミーア姫のいる西の塔へ向かう。足が少しぎこちない。緊張をするにはするのだ。
部屋は立派な両開きの扉で固く閉ざされており、前に護衛らしき人が立っている。
挨拶をすれば、中へ入るよう促される。ウニは扉に向かって口を開いた。
「王国機密戦闘部隊“戦士”ウニ・シェルムです。失礼してもよろしいでしょうか」
「、、、、、どうぞ」
中から小さい声が聞こえた。失礼します、と言いながら部屋へ入る。
部屋はやはり王族なだけあって、いたるところに飾り、飾り、飾りな豪華で上品な部屋だった。家具は、好きなのか白で統一されている。
天蓋付きのベッドに、座る人影がいた。ひとまず隊長から教えられたように、ひざまずく。
「お初にお目にかかります。今回、護衛の命をいただきました、ウニ・シェルムでございます」
「、、、、、」
返事がない。
自分はなにかやらかしただろうか、とブルブル震えて返事を待っていると、ミーア姫が口を開く気配を感じた。
「ほっほほほんんじつうぅは、よくっぞ、きて、くくくくだだだだださい、ましぃた!ううううにしぇるむ、、、、、あ」
それを最後に何かがベッドの上に落ちる、ボフッという音が聞こえた。ミーア姫が気絶したのだ。
どうしよう、、、、、とウニは途方に暮れた。