3、ノア
ようやく隊長に追いついた頃、ウニの視界も開けた。
そこには煉瓦でできた地面の上に白く輝く石で作られた噴水があり、そしていくつかベンチがその周りを囲っていた。どうやら広場のようだ。
ぞれ自体もウニにとっては初めて見たものであったが、それ以上に惹きつけるものがあった。
汚れ一つない白の壁に、惜しみなく装飾が施され、かつ歴史が古い建物特有の重厚な佇まい。窓がたくさんあり、一つ一つに高級なガラスが嵌め込まれている。外観だけでも素晴らしいのだが、さらに圧倒されるのはその広さ。
ウニ達戦士が住む寮が2つはすっぽり入るのではないかと思うぐらいの大きい王宮は、王都で見た様々な豪邸より抜きん出て立派で美しいものだった。
ウニが広場からでもわかるその迫力に呆然唖然としていると、ヘンリーはさも今思い出したかのように言った。
「そういえば、おまえと同じで、王宮で警備兼護衛をしている戦士がもう一人いる」
「、、、、、へ?」
本当に初耳だったことを言われ、ウニは海色の目を限界まで見開いた。
ウニはそれなりに美少女なので、もともと大きい目を限界まで開いたとなれば、それはもはや人外のなにかである。
隊長はそんな彼女を見慣れているのか、罪悪感がこれっぽっちもない平然とした顔で頷いた。
「そいつは、確かおまえとは認識がなかったはずだ」
ウニはまだ、隊に入って1年と少しの新人だ。11人しかいないが、任務が忙しいという理由でなかなか会えない者もいる。
ウニは非常にフレンドリーな性格だが、先輩ということもあってピンと背筋を伸ばした。
「そ、その方はどういった方なのでしょうか!」
「俺だ」
突然後ろから聞こえた声に、ウニは、ギャァァァ!?と声を上げ、振り向いた。そこには、戦士?が立っていた。
語尾が不自然に上がってしまったのは、その者がフードを被っていたからである。
「よぅ、ノア。早かったな」
「早かったな、じゃないですよ。1時間20分の遅刻です」
フードを目深に被っていて顔こそわからないが、ハッキリと怒っている声だった。
「ああ、悪かったな。少し新人がヘマをしてよ」
ヘンリーはウニは横目で見た。ウニは、ヒィィ、と震え上がる。
ノア、と呼ばれた男は大体の事情を察したのか、ウニを睨んだ、、、、、気がした。
ウニは怖い上司と先輩に挟まれ、早くも帰りたい気持ちになった。
***
「じゃあ、俺はここで失礼する。ウニ、何かわからなくなったらノアに聞け。ノア、ウニに色々教えろ。じゃあな」
それだけ言って隊長は、もと来た道に戻っていった。
「、、、、、」
「、、、、、」
直後、その場に気まずい空気が流れる。
ウニは先程も言った通り、初対面でも気さくに話しかけることができる、が、それでも相手の性格というものがある。
さっきから圧がすごいのだ、ノアは。ウニは圧をぶっ放している人に、「こんにちは〜」と笑顔で話しかける度胸は持ち合わせていない。
だがいつまでもこの空気なのも耐えられないので、ウニは恐る恐る話しかけた。
「あのぅ、、、、、」
「おい」
声が被った。
、、、、、そしてまた沈黙。
どうしよう、とウニが内心焦っていると、ノアが気を取り直したかのように口を開いた。
「ノア。19歳。教えるからついてこい」
それだけ言い、少年――ノアは歩き出した。
ウニは慌てて追いかけ、心のなかで先程の言葉を思い出していた。
(19歳、、、、、ってことは、わたしより1歳年上なんだ、、、、、え?ほんと?)
声からして若いとは思っていたが、醸し出していた圧から只者じゃないと感じたウニはまだ10代という事実に驚いていた。
そんな失礼なことを考えていると、王宮の前についたらしい。
目の前には両目に収まりきらないほどの巨大で立派な建物。やっぱりすごい、、、、、とウニが見入っていると、隣のノアはさっさと王宮へ向かってしまう。
ちょっと待ってくださいよ、とウニは叫ぶが、どこ吹く風という様子で彼はスタスタと歩く。
「わたし、、、、、やっぱ帰りたくなってきた」
ウニは涙目で走り出した。
すみません、たぶん次から任務です、、、、、