25、エラ・ミーン
ウニが部屋を出ようと扉を開けると、誰かが目の前に立っていた。
眼光が鋭く、髪は灰色。そして長身の美人。ウニは彼女に見覚えがあった。
なので――
、、、、、キィィィ、バタン。
――扉を閉めた。
途端に、やかましい声と扉を叩く音が鼓膜に響き渡る。
「ちょっとぉ!?なんで閉めちゃうのよっ!ウニちゃぁん!!せっかくおかえりのハグをしよーと思ったのにぃ!ウニちゃんったら薄情者ぉ!」
「静かにしてください、エラさん」
ウニが冷静に名前を呼ぶと、今度は静まり返った。
そして何秒か間をあけたあと、またうるさくなった。
「やっだぁ!名前覚えててくれたのぉっ!?やんエラお姉さんうーれーしーいー!じゃあさ、この扉も開けてくーれーるー??」
「謹んでお断りさせていただきます。あと、黙りやがれください」
『黙れ』を一見丁寧に言ったように見えて言っていないウニの言葉に、変質者またはストーカー――エラ・ミーンはくぐもった声で返す。
「だってだってぇ!ウニちゃんが帰ってくるなんて、お赤飯炊くしかないでしょうっ!?」
「全く必要ありません。あとほんとに黙ってください。じゃないと喉潰します」
「もうっ、いつまで冷たいのぉ?ユウマとの仲じゃないっ」
ウニは言葉に詰まる。そう、ウニの師匠であるユウマとエラは、昔からの親友なのだ。なので、ウニが戦士に入隊すると隊長以外の戦士達に報告したとき、一番厄介だったのはエラだった。
あれは約半年前――
『彼女が新しく入るウニ・シェルムだ。仲良くしてやってく――』
隊長が言い終わるか言い終わらないとき、真顔で猪突猛進してきたのがエラだった。
室内のはずなのに砂煙を従えて走ってきた姿は、美しく儚い姿とギャップがありすぎて、当時のウニは混乱した。
ものすごい速さだったのにも関わらず、荒い息1つ吐かないエラに今度は尊敬の目を向けたウニだったが、その透き通った純粋な目はすぐに濁ってしまう。
『きゃあっ!ユウマから聞いていたけど、ほんとなぁんてかわいこちゃんなのぉっ!?もう、食べちゃいたいくらいっ!!』
そう言って撫で回してきたのだ。
その後隊長らが羽交い締めにして事なきを得たが、今でもエラはウニのトラウマである。ある意味当然の結果だったと言えよう。
ウニが遠い目をして昔に思いを馳せていると、急に声も音も聞こえなくなった。
ここで扉を開けるほど馬鹿ではない。そんなことをしたら、あっという間に向こうの餌食だ。
念入りに杭を打ち鍵をかけたウニは、扉の前で待っているであろうエラの姿を思い描いて苦笑いしつつ、少し風の魔術を使い『エラさんが扉の前で待ち構えていて、下手したらわたしが寮を破壊してしまうかもしれません。忍耐力が尽きる前になんとかしてください』と書いた紙を隊長がいるであろう方向に飛ばした。
その少し後、隊長から命じられたナイラが騒いでいたエラを拘束し、エラ・ミーンは激怒したヘンリーからたっぷり説教を受けた。




