2、王都到着
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朝。ウニはベッドから飛び起きると、テキパキと身支度をし始めた。
白シャツを着て、ネクタイを締めて、黒タイツの上にスカートを履く。太いベルトをきつく締め、膝下まで隠れる履き尽くしたブーツで足をすっぽりと覆う。
仕上げに長い黒髪を高い位置に結んだ。これがいつものウニの身なりである。
だが、彼女はいつもこのように起きてすぐに準備を始めない。朝には強い方なのだが、なんだか面倒くさくなってしまって、ギリギリまでベッドでゴロゴロしているのだ。
しかし、今日はくつろげる時間がなかった。そう、つまり――
(やばい!時間やばい!隊長に怒られる!)
寝坊である。
カバンにポイポイと生活用品や私物を入れ、最後にギュッと紐を縛る。
ウニは食堂のご飯が好きだ。特にパンは絶品で、ウニの大好物である。だから、いつも彼女はパンを隠し持ち、常に部屋にストックしていた。戦士は基本的によく食べるので、ウニも間食として食べていたということだ。
なので食堂に行けない悟ったウニは、部屋にあったロールパンを口に咥え、カバンを肩にかけ大急ぎで部屋を飛び出した。
早朝の庭をドタドタと走り、集合場所の馬車乗り場が目の前に見えてきたところで、ウニはスライディングをかまし、セーフッ!と元気に声を上げた、が、そばで仁王立ちしている隊長には気が付かなかった。
ヘンリーはいかつい顔の眉間にシワを何本も寄せ、怒鳴った。
「セーフッじゃねえよ。遅刻だー!!」
***
ヘンリー隊長にきっちり締められたウニは、馬車の中でションボリとしていた。
「いいか、ウニ。王宮は貴族がいる。王族もだ。絶対に無礼のないように」
「はい。わかってます。ひとまず、偉い方がいたら、頭を下げればいいんですよね」
「ああ。本当は戦士になれば自分の名前ぐらいは言うのだが、、、、、お前はやらかしそうだからな」
「え?なにか言いました?」
「いや、気にしなくていい」
ウニは一応、頭が良いのだが、貴族の前でする礼儀というものは知らない。なので、出発ギリギリまで常識を一通り叩き込まれたのである。
「お前が今回護衛するミーア姫は、前も言った通り恥ずかしがり屋なところがあるらしい。くれぐれも質問倒ししないよう気をつけろ」
「わかってますって。――そういえば、ミーア姫様は末姫と言っていましたが、他にも王族のご姉妹がいらっしゃるんですか?」
「ああ。ほかに三人の兄王子と一人の姉姫がいる。上から、ロバート王子、クリス王子、メアリー姫、ポール王子だ」
「へぇぇ。そうなんですね。私も会う機会はあるんでしょうか?」
「さぁな、わからない。ただ、会う可能性は十分ある。警備する場所によるがな」
そう言って、ヘンリーは地図を取り出した。ウニはそれを受け取り、まじまじと見る。
「今回私が警備するのは、王宮の三階付近、、、、、え、ちょうど王子方の部屋の下の階じゃないですか」
「違う、よく見ろ。お前が警備するのはあくまでミーア姫のいる西の塔だ。王子方のいる北の塔とは別にある」
「あっ、そうだった。わたしはミーア姫の護衛をするから、、、、、」
「まあ、警備と護衛って言っても、ミーア姫の周辺のことだから同じようなものだろう」
そこまで話したところで、馬車が止まった。王都についたのだ。
馬車を降りたところで、ウニは愕然とした。王都は高い塀で囲まれており、防御結界が何十にも重なっている。ウニは魔術の知識はあまり持っていないが、それを維持するのがいかに大変かはよくわかった。
街は、ほとんど貴族が暮らしていて、残りの平民も富豪や資産家である。
そんなところだから、さぞかしすごいところなのだろう――と思っていたが、遥かに想像を超えた。
地面の石畳は光を反射して輝き、程よい緑の香りがする。道の横には豪邸が立ち並んでおり、そのすべてが、飾りすぎず、質素すぎずのバランスを保った美しい建物だった。街行く人は上等な生地をたっぷりと使った豪奢な服を身に着けていて、中には日傘を持つ者や馬車に乗っている者もいる。――つまりは、そこはウニの知るところとは違う、まったくの新しい世界だったのだ。
ウニが見惚れていると、いつのまにか隊長の姿が小さくなっている。そして、急いでその後を追った。
次でようやく任務です。