16、ノアの正体
ブライスト侯爵はポール王子の母君であるユリア妃の父親である。つまりは王族の親戚にあたる、ものすごく偉い人だ。
そんな方の息子――ユリア妃の弟であるノエルも間違いなくそこらの貴族とは違う。
だからウニみたいな平民出身の戦士など、相手にされないも当然であった。
――普通の戦士ならば。
ウニは気づいていないが、“無血の戦士”のように非公式でも二つ名をもらうということは、結構名誉なことである。それにウニは500年の歴史でたった1人だけ体術を武器にする唯一無二の戦士だ。つまりは、ウニは目立ちすぎたのである。
もちろん、彼女はそんなこと知らないのだが。
(う、えぇ。どうするのが正解なのぉ!?無理ですって言ったら失礼になるし、、、、、)
目の前に差し出された手にオロオロしていると、ノエルが首を傾げる。いちいち絵になる男だ。
「僕と踊るのは嫌かい?」
彼は少しションボリとした様子で俯く。ウニはその様子に、申し訳ない気持ちと、護衛としての責務が頭の中で交差し、さらに焦る。
「うぁ、あの、わたし、ミーア様の護衛でして、、、、、その、ダンスはできないです」
「そうかい。じゃあ、ミーア姫の見えるところでお話するだけなら問題ないね」
ノエルはそう言い、ウニの腕を強引に掴んだ。
「ちょ!?あの、離して、、、、、」
「ああ、そうだね。僕の家の話でも、、、、、」
なんだか話が噛み合ってない。どうしよう、とウニはさらのさらに焦った。
(誰かぁ!助けてぇええ!!ミーア様ぁあああ)
ミーアの方を見るが、彼女は他の人と談笑をしており、こちらを見ようともしない。
ちゃんと話せているようだ。だからといって、成長に感動している場合じゃない。
舞踏会は音楽で満ちている。ウニの声じゃ届かないだろう。
(これってもしかして、、、、、絶体絶命!?)
命を落とすような危険に直面したわけじゃないのに、ウニの目の前は“死”の文字がちらつく。
(だって、、、、、もし無礼を働いたら、、、、、処刑され、あ。この国にはないんだった)
頭がまともに働かないまま、ノエルの思いのままに引きずられる。とても強い力だ。その体では考えられないほどの。
もう駄目だ。そう思ったとき――
「彼女を離せ」
そう言ってノエルの腕を掴む少年が1人。
金の柔らかそうな髪に、琥珀の瞳、そして怖いくらい整った顔。うわぁ、金髪碧眼だぁ、と芸術品を見るようにウニは心で呟いた。
「ふーん、そうなんだ。先がいたんじゃしょうがないね」
そう言い、ノエルはウニの腕を離し、どこかに行ってしまった。
何だったんだあの人、、、、、と思いながら、ウニは助けてくれた男性に頭を下げる。
「助かりました。ありがとうございます」
「、、、、、お前、気づいていないのか」
「へ
(そういえば、どこかで聞いたことがある声のような、、、、、あ)
その瞬間、ウニはものすっっっごく驚いた。そして奇声を上げた。
「ぎょええぇぇ!?」
「馬鹿お前、ここは動物園じゃないぞ。静かにしろ」
そう言って男性、、、、、いやノアは緑の目でウニを睨んだ。
――そう、このきれいな礼服を着たイケメン救世主こそ、あのフードを被って嫌味をグチグチ言ってくるノアなのだ。
「うぇ、、、、、イメージとぜんっぜん違う、、、、、」
「お前がどんな想像をしてたか知ったこっちゃないが、早く戻れ。ミーア姫の護衛だろ」
あ、そうだった、とウニは本来の目的を思い出す。
「、、、、、なんか納得いかないけど、感謝するわ!ありがとー」
そう言ってバタバタドッタドッタ走っていくウニを見て、ノアは感想を1つ。
「、、、、、あれは猿人か?」




