10、悪魔の病
西の塔のミーアの部屋に戻ったとき、ウニはとうとう我慢できなくなって口を開いた。
「ミーア様、失礼を承知で申し上げます。メアリー様は、いつもあのご様子なのですか?」
ミーアは言われるのを知っていたかのような口ぶりで話す。
「ええ、、、、、でも、あれならまだマシな方です。本来なら、もっと糾弾されてもおかしくありません」
「そんな、、、、、どうして」
「わたくしは、まったく人の前で話せないでしょう?口を開けば噛むし、たどたどしくなる。それがどうして受け入れられるでしょう」
その言葉を聞いて、ウニは嫌でも納得してしまった。
「一国の姫ならば、ほとんどのことを完璧にできなければなりません。なのにわたくしは、、、、、ミーア・エラル・シェラールは挨拶をこなすこともできない、そんな姫なのです。批判をされるのは当たり前。それが王族なの」
だから、と言葉を一度切って、ミーアはこちらを振り向く。
「あなたが、、、、、“感心した”と言ってくれたとき、とても嬉しかったのよ」
そう言って、ミーアは眉を下げて微笑んだ。
ウニはあの後、西の塔の警備をしてから食堂で夕食をとり、自室のベッドで考えていた。
(人見知りなのは悪いことじゃないのに、、、、、性格さえも、貴族社会では許されないことなんだ、、、、、)
そう考えると、少しミーアが気の毒だ。
だが、ウニにできることは何もない。ただの護衛の分際では、国を変えることなど当然できっこない。
(今日が2日目なんだよね、、、、、?なんか一ヶ月ぐらい経ったような、、、、、)
ベッドの上で寝返りをうち、ウニの意識は沈んでいった。
***
朝、ウニは外の騒がしい声で目を覚ました。
扉の向こうからは、「王様、ご無事で、、、、、」「薬はまだか!?」「おお、神よ、、、、」などと、いろいろな声が聞こえる。
これはただ事じゃないと飛び起きたウニは、テキパキを支度を整え、西の塔へ走った。
その途中、ノアと出くわした。
相わからずフード姿のノアは、ウニを見つけた瞬間、人のいない通路へ連れて行った。
「おわ!?の、ノア!」
「静かにしろ。話がある」
そう言い、ノアは壁に持たれて話を切り出した。
「どうやら、国王の容態が急変したらしい」
そういえば、茶会でもそんなことを言ってたな、とウニは呑気に考える。
「最近病気にかかったらしくてな、、、、、どうやら“クイル”のようだ」
「ええ!?よりにもよってあの“クイル”!?」
どうせ風邪だろうと思っていたウニは、目を見開いた。
“クイル”、、、、、別名“悪魔の病”
クイルに一度かかると、最初は熱の症状から始まるが、徐々に聴覚、視覚と五感の能力が低下していき、最後は呼吸すらも出来なくなるという死亡率の高い病気だ。
昔は予防法がないとされていたが、最近になって治療薬が発明された。それを使えば、多少なりとも感覚が戻るし、予防にもつながるというわけだ。
だが、先程も言った通り最初は熱病と見分けがつかないので、発見されるのは大体が五感に病が届いてからだった。
今回の国王陛下の場合も例に漏れず、聴覚がおかしくなったときに判明したらしい。
この病気は他人へ伝染る可能性は低いが、一度感染すると療養が必須になるため、国王は妃達と別の場所で過ごしていた。
最初のうちは順調に薬が効いていたらしいが、今日の朝陛下の容態が急変し、今は医師が順番に診ているそうだ。
「ああ、、、、、だから使用人たちは『国王、国王』って言ってたんですね」
「そんな呑気なことを言っている場合か、、、、、下手したら、この国の未来に関わるぞ」
いやいや大げさな、、、、、とウニは笑ったが、ノアの目は真剣だった。
「考えてみろ。もし国中に知らせが広まったら、間違いなく大混乱になる。そうなったら、他国は絶好の攻め時だと思うだろう、、、、、それを防ぐためにも、国王が病に伏しているという情報は、絶対に漏らしてはいけない」
ウニはようやく事の重大さに気づき、顔を青くさせた。
「それと、、、、、今までは有耶無耶にされていたが、、、、、さすがにもうごまかせないだろう」
ウニはゴクンと唾を飲み、続きを促す。
「な、なんですか、、、、、?」
ノアは遠い目で告げる。
「、、、、、王位継承者問題だ」
話上に出てくる“クイル”は、完全ファンタジーの病気です。現実にはまったく関係ありません。




