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9 ゼミに留学生いなくてよかった~!

 案の定、である。


「カレンダさん、テスタさん、ロックウェル令息だけでなく、皇子殿下とまで、いつ知り合ったの!?」


 と、女子学生たちは、授業が終わった直後に私たちを取り囲んできた。


 それはそうだ。授業に遅刻したかと思えば、上級生である皇子殿下とロックウェル令息と共に教室に現れ、前述二人に「授業に遅れてしまったのは我々が呼び止めたせいだ」と説明されたのだ。厳しい教師ですら、この二人に呼び止められたら時間がまずい状態でも立ち去れないと理解を示して、遅刻を不問にした。その事には、感謝している本当に。その事には。


 ただお陰様で、その後の授業中はずっと、視線が私たちに突き刺さっていた。私は視線が気になって仕方なくて授業にも集中できなかった。横のテーアは平然と授業を受けていたが。


 やっぱり、世の中って、良い事と悪い事って裏表なんだなぁ……。


「えぇと……」


 いい淀む私の横から、テーアがケロリとした様子で答えた。


「知り合ったのはついさっきだよ~! 二度と話すかは分かんないけどね。それより、よく分かんないけど、アーヴェがロックウェル令息に選ばれたのはやっぱり、属性が理由なんだって」

「ちょっとテーア!」

「属性? でもカレンダさんの属性って……?」

「アーヴェは氷属性だよ。それをロックウェル令息もちゃんと認識してたから、同属性とかじゃなくて、何か条件があるんだろうねえ」


 女学生どころか、こちらの話に聞き耳を立てていた男性たちまで目の色が変わったのを、私は確かに見た。


 散っていく彼らを見送ってから――恐らくこの話を他所でも伝えに行くのだろう――私はテーアを引っ張って教室の端に行く。


「ちょっとテーア! あんなにペラペラとッ、後で留学生の方々になんて言われるか……!」

「え~? 話しちゃいけない事だったなら、あたしがいる所じゃ言わないでしょぉ~。それに、囲まれ続けるよりよくない? あとは夢見た人たちが、勝手に動くよ」

「夢見たって……」

「これまでは身分もいるだろうとか、同属性じゃないととか、皆思ってた訳じゃん? それでも関係ないってアタックしてた人もいるにはいるけど、あれでも尻込みしてる人は多かったよねぇ~。でもアーヴェは男爵令嬢で、属性も違うのにロックウェル令息に選ばれた。それでも良いなら、あたしでもいけるかも! って夢を見て、こっちに構うより留学生の皆さんに関わりに行く方が得! って思ってくれるかなぁ~って思ったんだよね」

「それは……そうかも?」


 確かに、理由がはっきりしている訳でもないのだから、私は問い詰められていた訳だ。


 詳細は分からないが属性が理由とハッキリしたなら――いや待って。


「運命がなんちゃらの部分の謎が分かってないじゃん」

「でも運命がなんちゃら言われても意味分からなくない? あたしたちも結局、説明とか出来ないでしょ?」

「意味は分からない。説明も出来ない」

「でしょ~?」


 そこから私たちの会話は、運命の謎に移っていった。


「でもさ、さっきのロックウェル令息の言い方じゃあ、運命って……こう……目で見た瞬間確信した! ってわけでもなさそうだったよね」

「そうね。私とテーアが話してる所? を見たとも言ってたけど……話しかけてきたわけでもないみたいだし。私たち、一緒にいすぎていつの会話かはサッパリ分からないし」

「アハハ、言えてる! でも、運命って『確信した』って言えるってことは、やっぱり何かしら理由? 条件? はあるんだろうね。その事考えたら、私留学生の方々にとっても良い事したんじゃない?!」

「はい?」

「だって、これで今まで尻込みしてた人たちも率先して出ていくようになればさ~。その『確信』出来る瞬間がくるかもじゃん?!」

「……」


 多数の人間に一気に話しかけられるのが嬉しいかは人によるだろ。

 そう思ったが面倒なので、私はそれ以上は突っ込まない事にした。


「後は、アーヴェがもし、もっとこう……選ばれた理由とかを聞き出せた時は、それを皆に教えたら良いんじゃない? むしろ感謝されるかもよ~」

「……うん、そうする。ありがとテーア」

「別に何もしてないよ~。休み時間におんなじ話をあれこれしゃべり続けるのもだるいもんね~」



 ▼



 次の日に、魔力の属性ごとに分かれるゼミ方式での授業が始まる事になった。


 氷ゼミは最初から教室が予定されている。『氷属性ゼミ』という名前だった。


 一方、水属性のゼミは、複数ある。テーアの手元に来たのは『水属性ゼミ Ⅱ』という名前の、ゼミ割り振りだった。


「えへへ~! 第一希望、通りました~!」

「おめでとう!」


 私はテーアと二人、喜び合った。


 生徒の数が多ければ、ゼミは分かれる。そしてゼミは、担当する先生によって雰囲気が大分異なっていく。


「楽しみだな~!」

「問題起こさないでよ?」

「だいじょ~ぶだって!」


 そういうテーアに少し不安を感じつつ、私たちはゼミ授業の時間になると、それぞれ割り当てられた教室に移動するために分かれた。


 氷ゼミの教室に入ると、まだ誰もいなかった。ほかの授業でも使われる教室なので机は複数あるが、何人の学生がくるかは分からない。婚活に夢中過ぎない人がいいな……。変な絡み方されたくない……と思っていた訳だが、その願いがかなったようだった。


 教室に入ってきたのは、男子学生だった。お互いに挨拶をしたが、伯爵令息だった。身分が上だ。まあ、私より身分が下な人なんて、魔法学校(ここ)ではほぼほぼいないけど。

 クラスメイトとなった男子学生さんは、私にとくに興味を示さなかった。

 私がロックウェル令息に求婚(認めたくない)された噂を知らないのか、単純に眼中にないのか、どちらかだろう。


 次に入ってきた先生は、真面目そうな男性の先生だった。


「本年度の氷ゼミの学生は二名となっている」


 と、挨拶の後に言われた。

 つまり、学生は私たちだけという事だ。


「では本日は早速、授業に入っていく」


 そう宣言されて用意されたのは桶だった。そこに、先生が水魔法で水を作り、桶には水がためられた。


「まずは基礎の基礎として、水をただ凍らせる事を覚えてもらう。手をかざし、氷を冷やしてもらおう」


 ものの見事な理論より実技思考!

 でも私としては、体で体験出来るのはありがたい。


「魔力操作は出来るな? 手のひらに魔力を集め、その魔力が冷たくなる事を想像しなさい。難しければ、自分が経験した中で最も寒さを感じた体験を思い出し、その時の冷たさが手にのみ蘇ると考えたまえ」


 私とクラスメイトの二人はそれぞれ、桶に張られた水面の表面に手をかざす。そして、魔力操作で手のひらに力を集める。


(一番寒かった記憶。一番寒かった記憶……)


 やはり冬の時期、雪が降った時の記憶だろうか。


 目を閉じて、必死にその記憶を思い出す。


 寒くて、指先がかじかんで。上手く動かせなくて。何度も擦って、息を吹き替えて温めようとして――。


 しばらく魔力を注ぎ込んだつもりで、目を開く。水は――水のままだった。

 変わりに、両手は酷く冷たくなっていて、一応、魔力を冷やす事は出来ているようだった。


 伯爵令息の方も同じようで、何度も魔力を込めている。


 私たちの様子を見ていた先生は、魔法を使うのを一度止めた。


「想定より早く授業を進められそうだ」


 褒め言葉にも聞こえる言葉を言った後、先生は新しい指示を出した。


「手を冷やす事が問題なくできるのならば、水面に触れなさい。ただし、手を丸ごと水の中に入れてはいけない」


 指示のまま、手のひらを水面に触れる。そしてもう一度、魔法を使おうとしてみる。


 すると、本当に小さいものの、パキパキ、という音が聞こえた。

 手のひらを退けると、私が手のひらを置いていた部分がところどころ、凍っていた。


「おお……!」


 本当に凍らせられるんだ! そう思って喜ぶ私に対して、先生は今後の学びについて説明した。


「まずは、桶の水面全てを凍らせる事が出来るようになるまで同じ訓練を繰り返してもらう。最終的には桶の水を全て凍らせてもらう。それが終わり次第、次の段階に移る。では、続けたまえ」


 そうして私たちはもくもくと水を冷やそうとしていたのだけれど、これ、思ったより簡単じゃない!

 触れた箇所は冷えるけど、直接触れていない箇所まで凍らせる事がなかなかうまくいかないのだ。

 最終的に今日の授業で出来たのは、私は手のひらと同じ形の薄い氷を作る事だけ。伯爵令息の方も形は私と同じだが、私より少し分厚い氷を作る事に成功していた。


 何とも言えない顔になった私たちに、先生は「初回でこれだけ出来るのならば先は明るい」と言葉を付け加えた。

 それから最後に、


「個人でも練習をするのは問題ない。ただし、魔力を使い切るようなことはしないように。すでに授業で習っている筈だが、魔力は枯渇させてしまった場合、自然回復でしか処置が出来なくなる。魔力増幅薬が効くのは、ある程度の魔力が残っている場合のみだ。枯渇した後は、よくて数日は動けず、最悪死亡する事になるので、教師不在時に魔法を使い過ぎて、魔力の枯渇を起こす事だけは、しないように」


 と説明された。


 この説明は何度も繰り返されてきた事だった。

 チェルニクス魔法学校に通い始めて魔法を本格的に学ぶ事によって、調子にのって魔法を使いまくり、魔力枯渇から倒れるケースはかなり多いらしい。

 私の魔力量も大したことないし、気を付けないとな……そう思いながら私は教室を出た。



 ▼



「アーヴェアーヴェ。氷ゼミって、人いたの?」

「うん。私以外に一人、男性が一人」

「じゃあ、担当教師含めて三人か。いいな~! 何かあった時質問とかもしやすそうだよね!」

「水ゼミはやっぱり人数多かった?」

「うん。私のゼミは三十人だったかな。質問とか、爵位が上の人ばっかり優先されそ~」

「そこは先生の公平さに期待するしかないね」


 ゼミでの初授業が終わった後、寮への帰り道を、私はテーアと共に歩いていた。


「そういえば、あたしのクラスは水属性の留学生様いらっしゃらなかったんだよね~。それを残念がってる人が多かったよ。逆に、同じゼミだった学生はめっちゃ盛り上がってたんだって!」

「氷ゼミ留学生いなくてよかった~!!」

「留学生で氷属性の人、上の学年だもんね~。しかもご令嬢~」


 水ゼミのような大人数のゼミに一人紛れているより、少人数のゼミで留学生がいる方が関わる機会が多いだろうと目を付けられやすいと思われる。いたら良くも悪くも、周りがうるさいだろう。

 その留学生を狙っている人々から、ボルトロッティ伯爵令嬢の時のように目の敵にされる可能性が高い。


 令嬢ならともかく、令息の留学生だったら、私にとっては最悪だ。


 今の時点で私はロックウェル令息に求婚されたせいで、今後誰かに目の敵にされる可能性が高いのだ。これで、ゼミにも留学生がいて、やたらと目立つなんてごめんだ。


「でも一番盛り上がってたの、絶対風ゼミだね! ジョスリン殿下ってば、私たちと同じ一年生でしょう? 風属性の判定が出た学生は同じゼミになるかもって期待してたから、念願叶った悲鳴と、叶わなかった悲鳴でうるさかったらしいよ!」

「風の適正もなくって良かった~!」

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