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帝国から来た留学生御一行の目的は『集団婚活』 ~私は興味ないのになんで公開告白されてるの?!~  作者: 重原水鳥


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19/24

19 帝婚茶会に招待されてしまった!

 次の日、魔法学校で私はたいそう注目されていた。フレドリック様たちの所にいた時は思い至らなかったが、私がかの方の家に出掛けていた事を周囲に把握されていたのだとすれば……。うん……。構図を考えれば致し方ない事でもある。


 考えてもみてほしい。


 未婚の男女が、女が男の家に訪ねて行って、そのまま理由を付けて数日相手の家に滞在する。


 ……うん。はい。

 一線を越えた、なんて噂が立つのは当然の事だ。


 テーアから聞いたが、一応、フレドリック様たちは、この噂を消そうと立ち回ってはくれたらしい。直接の返答ではなく、皇子殿下を使う事で、違和感なく私が倒れた経緯を広めようとしたらしかった。その手順は以下のような形だったそうだ。


 まず、魔法学校内で、何の気なしに口にした話題という風に、皇子殿下がフレドリック様に「なんだ。お前随分手が早かったのだな」と声をかける。その場には、他の留学生の方々もいるような状況でだ。


 それにフレドリック様が呆れた様子で、


「アーヴェ嬢は(ロックウェル)家の事情に巻き込まれて魔力欠乏症をおこしてしまった為、責任をもって当家で治療を施している最中です」


 と答える。

 横から口を挟んだのは、私の魔力欠乏症の治療を助けてくれたアイスハート子爵令嬢だ。


「ちなみに私は彼女が倒れた時、()()()()()()ロックウェル家をお訪ねしていました。カレンダ様と同じ氷属性という事もあり、医師の方からのご要望を受け、その夜は私がロックウェル家の女性使用人と医師立会いの下、夜中カレンダ様を見舞っておりましたので、ロックウェル様に出来た事は何もありませんわ」


 と、フレドリック様を後押しする発言までしてくださったらしい。これで収まれば良かったが、そうはならなかった。大声で言う人が減っただけで、皆、裏では好きな事をあれやこれやと語っていた訳だ。何より、「そんなものポーズでしかない。真実はフレドリック・ロックウェルとアーヴェ・カレンダが婚前にも関わらずそういう事をしたんだ!」と思いたがる人が、結構、多かったらしい。


 ……これは、どの感情由来だろうか。ただ面白がっているだけの人もいれば、嫉妬が原因になっている人もいると思うのだけれど……。

 私に対する嫉妬だけでなく、ここ最近名が良い意味で広まっているフレドリック様への嫉妬もある気がしてならない。


 ともかく、四方八方から突き刺さる視線、定期的にあらわれる「本当の所」を聞き出そうとする人々を交わしながら学校生活を送っていた私だったが、以前の通りの学校生活を送る事は出来なかった。ある集まりに呼び出されてしまったからだ。


 ――「帝国貴族と結婚する人間の茶会」


 通称、帝婚茶会に……!!


 この集まり。なんの集まりか? と言われると、読んで字のごとく、留学生に見初められた、チェルニクスの生徒の集まりだ。


 発起人は、チィニー国(わがくに)のインザーギ侯爵令息だ。

 彼は帝国の留学生の一人である、クロックフォード公爵令嬢の夫として、帝国の公爵家に婿入りする事になっている。

 これは以前テーアからも聞いたので、私も記憶している。


 現状、『留学生に見初められた学生』の中では最高位の爵位の家出身である彼が始めた茶会は、参加出来る事は名誉な事とされている。

 明らかに、帝国人と結婚するチィニー人の同族同盟みたいな名前なのに、すべての人が招かれている訳ではないからだ。参加を拒否したのか、そもそも誘われていないのか、インザーギ侯爵令息は口にしないものの、不参加の人がいれば、噂にもなる。


 ちなみに私はこの集まりが出来てからこの方お呼ばれしていなかったので「男爵令嬢はお呼びでないという事だろう!」と解釈していたのだ。ところが今回正式に招待されてしまったという事は、そうではないのだろう。恐らくインザーギ侯爵令息も、私がロックウェル家に滞在したのを、「実質的に婚約関係になった」とみなしているのであろう。勘弁して!


 ……一応、「まだ正式な関係は結んでいない」と一旦はやんわりお断りしたのだが、再度の誘いがあって、不参加という訳にはいかなくなったのだ。


(なぁんで正式な婚約を結ぶ前から、妙な上下関係みたいな、変な関係値を作らなくっちゃいけないの……)


 とついつい愚痴りたくなる私であったが、今の時点でもインザーギ侯爵令息は格上。さらに、万が一結婚したとして、あちらは女公爵の夫で、こちらがそれを超える爵位を持つ可能性は低い。頭は痛くてたまらないが、不参加という訳にはいかない。


「はあぁあぁ……今からだよ……気が重い……」

「頑張れアーヴェ! アーヴェならなんとか出来るっ!」

「うん……消されないように頑張ってくるよ……」

「その例え胸に来るからやめてもらっていい?」

「ごめんって……」


 そんな会話をしながら、私は心配げなテーアに手を振って、いざ、帝婚茶会の場に、私は赴く事になった。



 ▲



 帝婚茶会の会場は、インザーギ侯爵令息が借り上げた談話室(ラウンジ)だった。部屋の前には、恐らくインザーギ侯爵令息の寄り子の家の子息だろう男子学生が立っていて、私の顔を見ると部屋の中に向かって「カレンダ男爵令嬢が参られました!」と目立つ大声を使って状況報告を行った。その後許可が出たようで、私は部屋の中に通された。


「よく来た。座ってくれたまえ」


 部屋の中にはテーブルと、四つの椅子。

 その椅子のうち、二つには既に座っている人がいた。

 一人はインザーギ侯爵令息で、もう一人は――目立つロール状の御髪の持ち主! ボルトロッティ伯爵令嬢だ。


「……」

(うっ!!! よりにもよって!!)


 この前のパーティーではとてつもなく遠目には見かけたけれど、会話はしていない。なので近くで姿を見るのは、以前皇子殿下に口を挟まれた日が最後である。嫌な因縁がある人と、初対面の人間二人と共に茶会をするなんて、気まずいどころではない。


 部屋の隅に控えていた、これまた侯爵家の寄り子の家の子息だろう人に促され、席につく。

 茶会は人数が揃うまでは始まらないらしかった。誰も、何も言わない。いやに空気が重い。


 インザーギ侯爵令息は単純に人が揃うのを待っているのだろうが、たまたまながらボルトロッティ伯爵令嬢と席を隣にする事になってしまった私はとて~も気まずい。お互いに視線を、どちらともなく逸らしている始末だ。


(これ、あと一人の参加者誰だろう……)


 その人によっては空気が終わる。そんな事を思っていると、インザーギ侯爵令息が時計を見て「時間か」と呟いた。


「本日の参加者はまだ揃っていないが、最初のこの会の趣旨を説明しよう、カレンダ男爵令嬢」

「は、はい」

「この会は、遠き、偉大なる帝国人とつながりを持つ事になった我々チィニー人同士の結束を強めるための集まりだ。とはいえ、各々学校生活や御家の事情、何より最優先すべき婚約者の存在がある。故に、毎回の参加は義務付けられていない。出来る範囲での参加をお願いしている」


 なるほど……それで今日は四人、なのか。

 となると誘われていないというより、婚約者との関係を理由に不参加にしている人がそこそこいてもおかしくなさそうではある。


「開催の日程が決まり次第、連絡を送っている。カレンダ男爵令嬢の都での住所は何処かな?」

「……寮です」

「なるほど。ではそちらにお送りしよう」


 分かりきっている事聞くなよ! と叫ばなかったのは、理性があったからだ。理性がなかったら、どう考えたって田舎の男爵家が、都に何か月も家を持てる財力がない事ぐらい分かるでしょ! と叫んでいただろう。


(気が重い……すべての回で、フレドリック様に頼んで用事を作ってもらおうかな……)


 そんな事を思っていると、ノックも挨拶もなしに、勢いよくドアが開いた。


「申し訳ありませえ~~ん! 遅れてしまいましたあ~~!」


 そう、勢いよく飛び込んできた女性の顔は見覚えがあった。確か、リッリ子爵令嬢だ。飛行船パーティーでは、それまで恋人関係? と噂されていたカッセルズ公爵令息とピタリと寄り添っていた。


 バタバタバタ、なんて音がする小走りでやってきたリッリ子爵令嬢は、引いて貰ったイスに、ドサリと腰かけた。私でも分かるマナーの悪さに、良い顔をしなかったのは主催(インザーギ侯爵令息)ではなくボルトロッティ伯爵令嬢だった。


「リッリ嬢。何度もお伝えしておりますが、ドアを開く時は音を立てず静かに。椅子にも静かにご着席くださいませ」

(ア、これいつもなんだ……)

「すみませえん」


 てへ、とリッリ子爵令嬢は小首をかしげた。あざとい動きだが、それで落とされるのは男性ぐらいだろう。同性である私やボルトロッティ伯爵令嬢には効かないし、なんならむしろ苛立たせるだけだ。ボルトロッティ伯爵令嬢の額に僅かに青筋が浮かんだのを私は見た。


「あっ、もしかしてこの人があ、今日から参加するって新入りですかあ?」

「そうだよ。アーヴェ・カレンダ男爵令嬢。お付き合いをしておられるのは、帝国のフレドリック・ロックウェル侯爵令息だ。カレンダ男爵令嬢、こちらはリッリ子爵令嬢。帝国のギデオン・カッセルズ公爵令息に見初められたご令嬢だ」

「へえ、侯爵の息子さんと結婚するんですねえ、で、跡継ぎなんですかあ?」

「……いえ。フレドリック様は三男です」

「え~~!! せっかく侯爵令息と結婚するのに、三男って、最悪う! 可哀想お! 次男(スペア)ですらないなんてえ! 私の婚約者のギデオン様は、跡継ぎなんですよお、だからわ、た、し、は、将来の公爵夫人!」


 ……なんか、やたら伸びる話し方は、テーアで慣れたと思っていたけど、上には上がいたらしい。


 内容のあまりの失礼さよりも、そちらが気になってしまうダメな私に対して、このリッリ子爵令嬢の言動に怒りをあらわにしたのはボルトロッティ伯爵令嬢だった。


「リッリ嬢。カッセルズ公爵家は皇家の血を引く偉大な御家である事には変わり在りませんが、ロックウェル侯爵家も歴史の長い名家です。将来公爵夫人になると声高に口にされるのであれば、ロックウェル侯爵家を貶めるような発言はお控えなさい」

「何それえ、ロックウェル家なんて、教科書にも出てこない家じゃないですかあ」

「教科書に載る事が世界の全てだとでも思っておられるの?」

「きゃあ! こわ~い」

「貴女という方は……!」

「あ、あの! 私は()()()()()()()()()()ので……」


 これ以上白熱されたら困ると、ボルトロッティ伯爵令嬢の方を見て小声で説明する。

 今回の場合、フレドリック様の侮辱にも繋げる事は可能だが、実際の所リッリ子爵令嬢(かのじょ)が侮辱したいのは私だろう。これぐらいの悪口とかは、聞き流せる範囲なので気にしない。


 そんな思いを持ちながらボルトロッティ伯爵令嬢を止めれば、当事者からの口出しに、彼女は口を閉じた。



 ――こんな風に最悪な空気で、茶会は始まった。



(私は空気、私は空気、私は空気)


 用意された紅茶とお菓子を私は口語にちまちまと食べたり飲んだりしながら、雑談をするのが茶会の流れのようだった。

 明確に話を振られた時だけ、失礼でない程度の小声で返事をしよう。そんな事を思っている私の横で、それはそれは、リッリ子爵令嬢がよく喋る。


「カレンダさんってえ、婚約者と一線を越えたって本当なんですかあ?」


 開始早々ぶち込まれた爆弾に、私はお菓子を詰まらせるかと思った。汚くないように口の中でなんとか飲み込んで、紅茶でのどを潤して返答をしようとしたのだが、その数秒の間に、ボルトロッティ伯爵令嬢がまた口を挟む。


「リッリ嬢。貴女には淑女としての恥じらいがないのかしら? そのような話題を、このように陽が高いうちから語るなど、恥ずかしくてよ」

「ええ? いろんな話をお互いに語って聞かせるのがここの目的じゃないんですかあ~? それに、学校中、同じ話ばっかりしてるしい~」

「ジョスリン殿下方のお話について何もお聞きになっていないようね。カレンダ嬢がお倒れになったのは、ロックウェル家での不慮の事故故の事ですよ」

「そんなのテキトー言ってるだけでしょお?」

「ジョスリン殿下方が嘘をついていると仰るの?」


 真実はさておき、あくまで公的見解を支持する立場のボルトロッティ伯爵令嬢。


 それに対して、面白さ重視で、公的見解も真実を隠すための嘘だと判断しているらしいリッリ子爵令嬢。


 ……いやあの、私がフレドリック様とどうこうしたかどうかだけで、そんな対立いらないのですが。

 国を凌駕する重要問題ならいざ知らず、お二人からしたら、無関係な男と女の話でしかないのに。いや、無関係だからこそ無責任に語れて面白いのか。……無責任なんて言ったら、流石に今回は庇って下さっている風のボルトロッティ伯爵令嬢に失礼だな。


 いやでもこれ、ボルトロッティ伯爵令嬢も私を庇っているというより……そもそも前提として、リッリ子爵令嬢が嫌いな側面もありそう。たった数分この場に居合わせただけの私でも分かるぐらい、このお二人、合わないって分かるし……。


「で、結局どうなのお?」

「魔法の使い過ぎで倒れました。チェルニクスでは何度も注意をされておりましたが……魔力欠乏症、魔力の枯渇というのを初めて体験したのですが、あれは確かに恐ろしい事態です。指一本、動かす事すら億劫で……、出来れば授業などを休みたくはありませんでしたが、欠席せざるを得ない事態でした」


 ベッドに寝ながら、意識を取り戻した時の事を思い出す。あの時の怠さも思い出してしまって、吐いたため息は重くなった。


「ええ~? 本当にい~?」

「はい。まだたいして魔法を扱えない一年生の身分で、調子に乗るのではありませんでした」


 あの時は調子に乗るとかの話ではなく、必死過ぎただけだったのだが……途中からは、一年生で出来る領分を超えていたとは思う。ただ、なんとか冷やさないと、フレドリック様が大変かもしれない……そんな風に思って、必死にフレドリック様を冷やし続けていた。


 必死に答えている私の話に乗ってくれたのは、インザーギ侯爵令息だった。


「まだ一年の身分で魔力欠乏症の恐ろしさを実感できたのは、良い事だったのでは? 上の学年になるほど、己の技量を疑われますわ」

「はい。早くに己の未熟を痛感出来て、とても良い機会でした。また、そんな愚かな私の治療を買って出てくださった、ロックウェル家のお医者様には、感謝してもしきれません。あ、一番はアイスハート子爵令嬢かもしれません。アイスハート子爵令嬢は私に、魔力を分けてくださったのです。それがなければ、さらに長い期間を、寝て過ごす羽目になっただろう、と医師から言われましたので」


 ボルトロッティ伯爵令嬢の言葉に頷きつつ、話の流れを変えようと頑張って喋る。それに、インザーギ侯爵令息も乗ってくれた。


「なるほど。帝国の医師か。さぞ腕の良い方なのだろう」

「そう、お聞きしました。とても腕の良い先生で、帝国でも有名だと。フレドリック様は末子でご両親から大層愛されておられまして、フレドリック様を心配されたご両親が、チィニーまで付き添うように依頼をしたのだとか」


 これは、ロックウェル邸で聞いた話だ。侯爵夫妻の、末子への愛が重い。……その末子と結婚するの、やっぱり少し怖くなるな。待って。もしかして、結婚後に同居とかあったりするのだろうか……三男だし流石にないかなと思っていたけれど、逆に、溺愛されている末子なら同居して出来る限り面倒を見る可能性も……ウ……一応フレドリック様に確認を取った方が良いかもしれない。


「アイスハート子爵令嬢と言えば、ロックウェル侯爵令息とは親しいのかな?」

「親しい……かは分かりませんが、こちらにきてからは年齢も同じという事もあり、よく関わっておられるそうです」


 インザーギ侯爵令息の疑問に私が答えた瞬間、横からリッリ子爵令嬢が大声で割り込んできた。


「そういえばあ、ギデオン様があ、また、新しいアクセサリーを買って下さったんですよう~」


 唐突な割り込み。ボルトロッティ伯爵令嬢は眉根を寄せ、インザーギ侯爵令息は特に注意する事もなく、視線をリッリ子爵令嬢に移した。それから、リッリ子爵令嬢が自慢するように膨らませた胸元に輝くネックレスに視線を移した。


「大粒のダイヤモンドか。確かに美しい」

「流石、インザーギ様あ! 分かってくださいますかあ!」


 確かに大きい宝石だなとは思っていたが、ダイヤモンドか。なんだっけ。透明なほど綺麗なんだったか? 宝石との縁がなさ過ぎて、よく分からない。


 ペラペラペラと、リッリ子爵令嬢はカッセルズ公爵令息(ギデオン様)にしてもらった事や買ってもらった事の自慢を語り続ける。こちらが口を挟む間もない。

 私としては、聞く側に徹するのは楽で嫌ではない。まあ毎回聞いていたい話でもないので、やはり、今回が最初で最後の参加にしようと決意はしたが。


(いつもこんな雰囲気なのかぁ……)


 軽くほほ笑んだ表情のまま変化がなく、感情の分からないインザーギ侯爵令息から、視線をボルトロッティ伯爵令嬢に移す。……うん。怒りが蓄積されているのが分かる。

 これはまた数分もしないうちに……と予想立てた所で、ボルトロッティ伯爵令嬢は我慢の限界が来たらしく、口を開いた。


「リッリ嬢。いつもお伝えしておりますが、そこまで必死に寵愛を口にしなければならないなど、恥ずかしい事ですわよ」


 ボルトロッティ伯爵令嬢の言葉に、リッリ子爵令嬢は大げさに両手を口元に持っていった。


「まあっ! ただ私は嬉しかった事を言ってるだけですよお~? 気になるなんてえ、ボルトロッティ伯爵令嬢の方は、私に嫉妬してるんですかあ? ボルトロッティ伯爵令嬢も、婚約者さんにおねだりすれば良いじゃないですか~~! ……あっ、でも、ボルトロッティ伯爵令嬢の婚約者様はあ、伯爵子息だからああ、ギデオン様(カッセルズ公爵令息)みたいにあれこれは、買って貰えないんですかねえ……?」


 口にはしなかったが、リッリ子爵令嬢の言葉の最後には「可哀想ですねぇ」という単語がついている顔をしていた。

 瞬間、ボルトロッティ伯爵令嬢は怒りを通り越したのか、凄い真顔になっている。


(いくら将来公爵夫人といったって、伯爵家を侮辱するのはやばいよ……)


 ロックウェル侯爵家相手でも侮辱と取りかねない発言をするのだから、伯爵家などさらに下に見るのは予想できたか……。

 いや無理だろう。そもそも、いくら爵位の差があったとしても、軽々しく他家を侮辱したら最悪戦争になるし。


(まあでも、リッリ子爵令嬢の考えは分かった)


 今の立場はさておいて、将来的な立場の違いを、今に持ち込んでいるだけなのだ、彼女は。……多分。


 女公爵の夫となるインザーギ侯爵令息は、将来公爵夫人になる自分と同格、あるいはあちらが上。


 将来伯爵夫人となるボルトロッティ伯爵令嬢は、将来公爵夫人になる自分にとっては格下。

 勿論、私もボルトロッティ伯爵令嬢と同じ扱いだ。


 正論ではある。ただ、将来的な権力を振りかざすのはいささか早すぎないか? とも思うけれど……。


 それが分かった所で勝手に邪推してしまったのだが、(帝婚茶会に参加しない方がいるのって、リッリ子爵令嬢がいるからでは?)とも思ってしまった。初参加でそんな邪推をするぐらいに、リッリ子爵令嬢は強烈だ。舌足らずなのか意図的なのかよく分からない間延びした口調、高い声、止まる事のない話。このような場でなければ耳を塞ぎたくなったかもしれない。


 ――こうしてリッリ子爵令嬢が自慢話をしている間に帝婚茶会は終了し、私は心の中で「二度と参加しない!」という決意を掲げながら、寮に帰る事となった。

 ちなみにアーヴェから見ると全員年上なので、気まずい事この上ない。

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