連れてきたものは仕方ない
天架に連れられた俺は、見知らぬ家の前で立ち尽くしていた。
目の前には天架の姉二人。
どちらも俺を見て、どうするか話し合っている。
まさかこんな事態になるとは、天架自身も思っていなかったようだ。彼女は気まずそうに肩をすくめ、ちらちらと俺と姉たちの顔を交互に見ている。その姿を見て、俺は完全にお邪魔虫なのだと痛感した。
「でも、困ってる人は助けてあげないとだめだと思います……」
天架は自分の手をぎゅっと握りしめながら、控えめに言う。その声には少しの不安と、それでも譲れない意志が込められていた。
姉の一人、照架は腕を組み、眉を寄せながらため息をつく。
「気持ちはわかるけどな、今回は大人しい奴だったからよかったものの、ヤバいヤツだったら襲われてるからな」
その視線は真剣で妹を心配しているのが伝わる。
天架は喉まで出かかった反論をぐっと飲み込んだ。彼女が善意で行動したことを否定されているわけではないとわかっているからこそ、言葉が出せなかった。
「まぁまぁ、照ちゃんの言いたいこともわかるけどさ ぁ?天ちゃんのしてることは立派な人助けなんだし、グッジョブってことで?」
もう一人の姉、燐架が軽く肩をすくめながら、ひょうひょうとした口調でフォローを入れる。
「そういう問題じゃないだろ」
「そういう問題だよーん♪」
案の定、照架と燐架の言い合いが始まった。
照架は真面目に指摘し、燐架は軽口を叩く。その噛み合わなさに俺はそっと息を吐く。
その時、不意に家の方から手招きをする女性の姿が見えた。天架はそれに気づくと、ぱっと表情を変えて俺の手を引いた。
「ほら、行こ!」
戸惑う間もなく引っ張られ、俺は天架に連れられて家の中へと向かった。後ろではまだ姉たちの言い合いが続いている。
「とりあえず、俺は本当に大丈夫なんだろうか……」
そんな不安が胸をよぎる中、天架の手の温かさだけが、妙にしっかりと感じられた。