呪いの器
「これを見て」
アリスはケージを両手で抱え込み、まるで大切な宝物を見せつけるように顔を近づける。
ケージの中では 黒い何か が蠢いていた。
それはまるで 形を持たない泥のようなもの で、粘性のある体をくねらせている。
「この子はね、“呪い” を体に蓄積して成長するのよ」
俺は無意識に後ずさる 。
「……呪い……?」
「そう、呪い。 どんな呪いかも分からない。誰がかけたのかも分からない。そんな 得体の知れないもの が、この小さな体に ギュッと詰まってるの」
アリスはフフッと笑い、含みのある表情を浮かべた。
「君の言う通り、神を倒しても、そこからまた別の神が生まれる 。しかも、神そのものを 完全に倒すことはできない 。」
「……」
「永遠のいたちごっこ ……どころの話じゃないわよね?」
アリスは指をピンと立てると、まるで 閃いたかのような仕草 を見せる。
「じゃあさ、分け身も、神自身も、まとめて全部倒してしまえばいい ってなるよね?」
「……!」
「うん、なっちゃうよね?」
アリスはにっこりと微笑み、そして、ケージを俺の方へ差し出す。
「で、これが答え」
俺は 恐る恐る 口を開く。
「……なんで、神が死ぬって確証があるんだよ……試したのかよ?」
黄金の瞳が、揺らめく。
「どうだろうね?」
一瞬、不気味な 間 が空く。
「君が本当にその答えを知りたいなら、自分で試してみればいいじゃない? 今からこれを君に与えるんだから さ」
ケージの中で おぞましい生き物 がのたうち回る。
それはまるで、生きているのに、生きているとは言い難い存在 だった。
目を離したくても、離せない。
しかし、見るほどに 吐き気を催しそうになる 。
「……」
「わざわざそんなことしなくても、アリス。その “力” をお前自身に使うことになるぞ……!」
強気で言う。
だが、それは明らかに ハッタリ だった。
アリスはその場で ピタリ と動きを止める。
静寂。
しかし、次の瞬間――
「あははははははは!」
彼女は 大きく笑い出した 。
「そんなこと言っちゃうんだ~? ふふ、あははははは! 笑っちゃう!」
肩を震わせながら、心底 楽しそう に笑う。
その笑顔は――
どこまでも “他人事” だった。