神の実験と目的
「私の世界の話ね」
彼女は人差し指を立てて、不意に思い出したように言う。
「そーね、まずは自己紹介? そうよね? でも私の名前って気持ち悪いのよねー……」
ふと考え込むように顎に指を当てた後、パッと顔を上げる。
「あ、そうだ!」
ぱちん、と指を鳴らし、楽しそうに言った。
「私の名前は アリス と呼んで? いい? ありふれてるし、こういう可愛い名前が一番よね!」
一人で一喜一憂し、勝手に盛り上がっている。
その様子を呆然と見つめることしかできなかった。
「それで、私はね――古い、死んだ神様の、もーっと、もっと、末端の末端の末端 みたいなところの神なのよ」
「……ん?」
その言葉の意味が飲み込めず、俺は思わず眉をひそめる。
「死んだ神から……生まれる?」
「ん? なんかもう早速『理解できないでーす』って顔してる〜」
アリスはくすくすと笑う。
俺は言葉を詰まらせながら、それでも問いかける。
「……死んだ神から生まれたのか?」
「そうよ!」
アリスは、まるで 『こんなの常識じゃない?』 と言わんばかりの態度で胸を張る。
「まぁまぁ、難しく考えなくていいのよ。分かんないでしょ? 死んだ神の “残渣” から生まれる ってだけ。そうねぇ……宝石とかあるでしょ?」
彼女は指をくるくる回しながら続ける。
「宝石を削ったら、削りカスが出るでしょ? その削れてこぼれた欠片が私 ってだけのお話」
「……」
彼女は顎に指を当て、何か考えるような素振りを見せた。
「それでね、私は思ったわけよ。今の世界は、その削れてこぼれた “欠片” しか残ってない、ってことに。」
その声には、ほんの少しだけ 憂い が混じっていた。
「……?」
「割とこれ、一大事なのよねー。大変なことなの」
「……別に、大した問題でもなさそうに思えるが?」
俺がそう返すと、アリスは突然、俺の額に垂れた汗を指で掬い上げた。
そして、その指先から 一滴 だけ、ぽたり、と垂らす。
「それが 一滴だけ なら、別にいいのよ?」
「……?」
「でもね、絶え間なく汗が出続けたら? どうなる?」
彼女はふっと微笑む。
その表情は、まるで 正解を引き出そうとしている教師 のようだった。
「……脱水症状で……動けなくなる……?」
俺がそう呟くと――
「でしょ!」
ぱんっと手を叩いて、満面の笑みを浮かべる。
「もう、私の目的が分かったでしょ?」
アリスは覗き込むように顔を近づけてきた。
「……乾いた体に水を補給する、宝石に欠片を足す……ってことか?」
「……正解!」
アリスの金色の瞳が、キラリと輝く。
「それこそが、私の目的!」
そう言った彼女は、とても 楽しそう だった。
しかし――
「それって、どうするんだよ……」
俺はふと、彼女の言葉を思い出す。
『死んだ神の残渣から、新たな神が生まれる』
「まさか……合体とか融合させるのか?」
その問いに、アリスは嬉しそうに目を細めた。
「そのために 私は研究している んだよ……?」
彼女の笑顔が、ぞくりと背筋を凍らせる。
そして。
―― カシャッ。
どこからともなく、アリスは ケージ を取り出した。
その中には、 蠢く何か がいた。
黒く、不気味にのたうち回る、 虫のような生き物 。
それを見た瞬間――
俺は 血の気が引いた。