闇の先で目を覚ます
俺は、吉野綱義。
ごく普通の高校生だ。
別に特別なことなんて何もない。
学校に行き、適当に授業を受け、昼休みに友達と話し、放課後は寄り道することもなく家へ帰る。
そんな日常が、ずっと続くものだと思っていた。
高校を卒業して、どこかの会社に就職し、淡々と日々を過ごしていくのだろうと。
友達は多すぎず、少なすぎず。
特に親しいのは幼馴染のあいつくらいなものだが、それでも近すぎるわけでもなく、程よい距離感を保っていた。
俺の人生は、きっとそんな風に無難に進んでいく。
そう思っていた。
――あの日までは。
◇◇◇
その日は、いつもより帰りが遅くなった。
理由は特にない。
少し課外授業が長引いたのと、帰る途中でコンビニに寄っただけ。
外はすっかり暗くなり、街灯がぼんやりとオレンジ色の光を落としていた。
いつも通りの帰り道。
何の変哲もないアスファルトの道路。
俺は、ただ歩いていただけだった。
なのに――
「……え?」
ズプリ。
足元が、沈んだ。
まるで沼に足を突っ込んだような感触。
アスファルトのはずの道が、ぬるりとした何かに変わっている。
俺は慌てて足を引き上げようとしたが、まるで見えない手に掴まれたかのように、逆に強く引き込まれていく。
「なんだこれ……ふざけんな!」
暗がりの中、足元を凝視するが、黒い何かがうごめいているだけで、正体は分からない。
どんどん沈む。
膝まで埋まり、次第に腰まで飲み込まれる。
焦燥が胸を締め付ける中、不意に背後が明るくなった。
――トラックのライトだ!
「助けてくれ!」
思わず声を上げようとした、その時。
そのトラックは、一向にスピードを緩める気配がなかった。
むしろ、加速しているようにさえ見える。
「嘘だろ……?」
突きつけられる現実に、背筋が凍る。
眩い光が迫る。
轟音が耳をつんざく。
そして――
俺の体は、完全に闇に飲み込まれた。