寝言のトレーニング
※『第6回なろうラジオ大賞』応募作品です。使用キーワードは『トレーニング』『寝言』。
俺は、家庭内での隠しごとが出来ない男だ。
別に、嘘が苦手だとか芝居が下手だということじゃない。俺の場合、どうも寝ている間に秘密を自ら口走ってしまうらしいのだ。
若い頃は、テストで悪い点を取って隠していたのも、学校をサボって遊びに行ったことも、翌朝には全部親にバレていた。
結婚してからも、妻には色々と隠しごとがバレてしまっている。
まあ、今のところ大きな波風が立つような問題はない。
でも、このままじゃマズいと思っていた時に、昔の同級生が『睡眠セラピスト』なる仕事をしているのをSNSで知って、思い切って連絡してみたんだけど──。
『それで何が問題なわけ? 奥さん、へそくりのことも笑って許してくれたんでしょ?』
「それはまぁ」
『あんたのお母さんが奥さんの悪口を言ってることも、寝言で知った上で、上手く立ち回ってくれてるんだよね。良く出来た奥さんじゃない』
「うん、まあ、そうなんだけど──」
『のろけ話を聞いてあげられるほど、私も暇じゃないんだけどなー』
やっぱり本当の事を言わなきゃダメか。
実は最近、俺は職場の若い女性からアプローチを受けている。俺が既婚者だと知っているのに、かなり情熱的に迫られているのだ。
『え、あんたまさか浮気を──?』
「し、してないぞ! してないし、するつもりもないけど、こんなことが妻にバレたら大事になるだろ」
『──それで?』
「その、何とか寝言を言わないようにするトレーニングとか、ないかなぁ。それとか、荒唐無稽な寝言ばかりを言ってしまうようになる方法とか──」
俺がそう言うと、電話の向こうで彼女が呆れたようにため息をついた。
「あのさ、寝言の対策を考える前に、まずは奥さんに現状を正直に打ち明けるべきじゃないの? こういう状況だけど、自分は絶対に断るからって。
その上でSNSを奥さんからも見られる設定にしておくとか、GPSで居場所を確認できるようにしておくとか」
え、そこまでやらなきゃいけないのか? うーん、それはさすがに少し気が重いんだけど。
俺が口ごもっていると、彼女の口調が険しくなった。
『そこですぐ実行に移せないってことは、心のどこかに、その子とどうにかなる可能性を残しておきたいっていうスケベな魂胆があるんじゃないの?』
「いや、違う!
でも、不可抗力でそうなってしまう可能性もゼロとは断言出来ないわけで、危機管理の観点からも万一に備える必要があってだな──」
『寝言は寝てから言えっ、この馬鹿!』