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後編 「過去との決着」

挿絵の画像を作成する際には、「AIイラストくん」を使用させて頂きました。

 そうして待つ事、凡そ五分程度。

 鳳さんは何事もなかったかのように戻って来たんだ。

 ただし、思いがけない同伴者を従わせてだけど。

「ひいっ、鳳さん!その人は…」

「その通りですよ、北王子さん。本件に関わるもう一人の当事者です。彼女を差し置いて私達二人だけで話を進めるのは、やっぱり筋が通りませんからね。」

 したり顔で腕を組む鳳さんの三歩後ろに、白いワンピースを纏った小柄な影が控えている。

 長く伸ばした黒髪の下の顔は、忘れたくても忘れられなかった。

 何しろその顔は、私の少女時代その物なのだから…

挿絵(By みてみん)

 しかしながら、違和感があるのは何故なのだろう。

 マンションの真下の交差点で見かけた時は、もっと鬼気迫る雰囲気だったはずだけど…

「どうやら北王子さんもお気づきのようですね。御神酒を染み込ませたハンカチなら霊体の血糊も拭えるだなんて、私も初めて知りましたよ。これなら北王子さんも、和解に向けた会談に臨めるんじゃないですか?」

「えっ、会談って…?」

 前半でサラッと語られた怖い物知らずな所業も凄いけど、私が特に驚いたのは鳳さんの発言の後半だったの。

 その会談の相手って、もしかして…

「私としては有無を言わせずに抹殺しても良かったんですけど、先方の言い分を聞いてからでも遅くないですからね。話を聞いてみたら大して害のない怪異だって分かったんですよ。それなら交渉の余地も有りかと考えたんですよ。そうでしょ、交差点の少女さん?」

「うっ…」

 そうして向けられた視線に思わず目を伏せてしまったのは、何とあの白ワンピース姿だったんだ。

 予想はしていたけど、何とも凄い展開になっちゃったよ。

 だけど本当に驚くのは、これからだったんだ。

「もう!何で言われた通りに出来ないかな?せっかく私が仏心を出して穏便に解決してあげようとしているのに、当事者の貴女が煮え切らない態度をしていたら解決しないよ!やっぱり腕尽くで抹殺されたいの?それでは手始めに神道式の祝詞を…」

「ひっ…!わ、分かった!分かったよ!ちゃんと自分の口で言うから、そんな物を向けないでよ!」

 鼻先へと突き付けられた御幣を見つめる少女の顔はサッと青褪め、応じる声は恐怖に震えていた。

 交差点へ降りていった鳳さんは、果たして彼女に何をしたのだろう。

 幾ら人外の存在とは言え、子供時代の私と同じ顔が恐怖に引き攣っているのをみるのは何とも忍びないなぁ…


 かくして私は、若気の至りで流布した架空の怪談に登場する「交通事故死した少女の霊」の概念と相対する事になったんだ。

 子供時代の私と瓜二つの顔をした白ワンピースの少女は、神道の御幣を突き付けてくる鳳さんに辟易しながらも、私を真っ直ぐに見据えてきたの。

 そうして落ち着いた口調で静かに言い放ったんだ。

「噂話を広めて私を誕生させたのは、貴女だね?こんな事を産みの親に言うのは気が引けるけど、中途半端な所で放置するのは無責任じゃないかな?」

「えっ、無責任?」

 どうやら件の少女は、私が怪談の詳細設定を煮詰めないままで引っ越した事に物申したかったみたい。

 確かに私が流布した怪談話は、あくまでも「交通事故で命を落とした少女の霊が、事故現場に出没する」ってだけの話で、そこから先は全くノータッチだからね。

 怪異として折角この世に顕現出来たというのに、善悪の定義すら宙ぶらりんな状態だと居心地が悪いよね。

「要するに、彼女は都市伝説の怪異としてキチンと定義して貰いたいんですよ。もしも有害な怪異なら私も問答無用で抹殺しましたけど、今のままでは害の有無定かではありませんからね。」

「ひっ!」

 抹殺という一言が鳳さんの口から出た途端、白ワンピース姿の肩がビクッと震えた。

 鳳さんとしては釘を差したつもりなんだろうけど、流石に忍びなくなってきたよ。

「そうですよね、鳳さん。幾ら義務教育時代の若気の至りとはいえ、怖い噂話を吹聴したツケは私自身が払わなくちゃいけませんよね。『交差点で事故死した少女の霊』という肩書きを持つ彼女が、どうして交差点に出没するのか。その理由付けをするのが、私の払うツケであり決着のつけ方なのですか。」

「その通りですよ、北王子さん。一度飼うと決めた以上は、飼い主はペットを最後まで責任を持って育てる義務がありますよね。怪談や都市伝説の怪異だって、それと同じだと思いますよ。」

 我が意を得たりとばかりに頷く鳳さんの傍らでは、白ワンピースの少女が不安そうな顔をして佇んでいた。

 彼女にとっては自分の運命が決まる瞬間な訳だから、それも当然だよ。

 事故死した少女の幽霊が事故現場に留まる動機としては、やはり恨み辛みが無難だろうな。

 だけど、もしも新たな死亡事故を誘発する悪霊として定義してしまったら、あの少女は問答無用で鳳さんに抹殺されてしまうだろう。

 それは流石に、私としても忍びないなぁ。

 よし、それならば…

「こんな話はどうでしょうか、鳳さん?事故死した少女の魂は既に成仏していて、事故現場の交差点に現れているのはあくまでも残留思念。その残留思念は、自分のような犠牲者が二度と現れないように交差点で交通安全を祈願している。これなら、悪い霊にはならないんじゃないですか?」

「おっ!良いアイデアですね、北王子さん!それなら私も、この少女を抹殺せずに済みますよ。実は私も、『善良な怪異を助けて平和的な共存に導けた』という実績が前々から欲しかったんですよ。その方がオカルティストとして、やっぱり箔が付きますからね。」

「よ、良かったぁ…」

 必死で知恵を絞って導き出した私の案は、鳳さんにも白ワンピースの少女にも大絶賛で受け入れられたの。

 特に後者は存在し続けられるか否かの瀬戸際にあった訳だから、善良な怪異としての定義付けを拒否する手は無いんだよね。


 こうして私は子供時代に吹聴した怖い噂話に決着をつけ、あの白ワンピースの少女の霊体は「交通安全を祈願する善良な怪異」として例の交差点に留まる事になったんだ。

 だけど、話はまだ終わりじゃないの。

 何と自治会の役員をしている実家の両親の働き掛けで、あの交差点に地蔵尊が建立されたんだ。

 自治会の広報誌には「交通安全祈願のため」という表向きの理由が書いてあったけど、このお地蔵さんがあの白ワンピースの少女を祀っているって事は、地元の人にとっては周知の事実だよ。

 そのうち里帰りする機会があったら、あのお地蔵さんに花を手向けてあげても良いかもね。

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― 新着の感想 ―
[一言] 美少女の霊なら、付きまとってもらえれば、、、おっと、失礼しました。
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