第57.5話
つむじ達が帰って、嵐はようやく深いため息をついた
つむじの同居人は山荷葉を一株譲ったら上機嫌で、つむじがぎくしゃくしていることは全く意に介さなかった
用心棒の方も、いいだけ巻藁を斬り倒したらすっきりしたのか、晴れ晴れした顔で帰って行った
「いやあ、やりましたなぁ嵐様」
「!いつからいた!?」
屋根裏の階段をわざとらしくギシギシ言わせながら黒青が降りてきた
黒青なら物音一つ立てずに上り下り出来るはずだ
さっきまでそうしていたように
「今のは効いたと思いますよ。つむじ様相当動揺してましたからね」
「お前、そんなに出歯亀がしたいならゾンダの屋敷の屋根裏に住まわせるぞ」
「ゾンダ様達の情事なんて見ても面白くありませんよ。大体想像つくでしょ」
「いいか、余計なことはするなよ」
「我々がいつ余計なことしました?それより、またこのまま何もしないなんてのはなしにしてくださいよ」
「私だって動揺してるんだ!あんなこと言うつもりはなかった!」
「わざわざこんな家に招いて、粗茶振る舞っただけで帰す気だったんですか?嫌味にも程がありますよ」
「カルマのことで釘を刺しておこうと思っただけだ!」
「嵐様の釘は羽毛のようですからねぇ」
そう言うと、黒青はめざとくカスタードの暫をつまんだ
「しかし、本当にお辞めになるつもりなので?」
「…どうだろうな。辞めても私には何も残らない」
「嵐様はこれまで一服寺に尽くされてきました。みんなそのことを忘れはしませんよ」
「追い出したがってる時の言い草だぞ」
「ええ、それはもう!煮え切らない人の尻を叩くのも疲れてきましたからね!」
いつもははっきりものを言うのに、こういうときは皮肉が言える部下だ
普段ももうちょっとオブラートに包んだ物言いが出来ればいいのに
「そろそろご自分のために時間をお使いになってもよいと思いますよ」
「何が自分のためなのかもわからん」
「迷ったときは心がときめく方を選ぶんですよ。失敗しても惜しくない選択は、つまらない成功しか得られません」
黒青は時々こうして顔に似合わないことを言う
「フン…馬鹿なことをするかも知れないぞ?」
「我々が見たいのはまさにそういう嵐様ですよ」




