第50.5話
旗疋さんが作った肉じゃが…!
こんなものを食べる機会が来るなんて!
うれしい
想像したこともなかった
食べるのもったいない
でも今度会ったとき感想を言わないとだし、もちろん食べたい
旗疋さんの作ったものがわたしの体の一部になるんだ
でも少し残しておこう
一生の宝物だ
ものが腐らない世界でよかった
盛り付けた小鉢を訝しく眺めていたヴェーダは、ようやく一口食べて言う
「…肉じゃがって牛でしょう、普通」
「えっ、そうなの?」
旗疋さんが持ってきてくれた肉じゃがは豚肉だった
私が知ってる肉じゃがも豚肉だった
でも牛って言われると、確かに肉じゃがはその方が自然な気がする
この世界に来てからあえて肉じゃがを食べようとしたこともないし、もしかしたら食べていたかもしれないけど、食に対して意識したことがなかった
「わたし裕福じゃなかったから、豚の肉じゃがしか食べたことなかったな」
すると、急に箸を投げ出したヴェーダに抱きしめられた
「ひもじい思いなんか私が絶対にさせないから!」
「ちょっと…急にどうしたの」
いつになく力強い
いや、上田さんはいつも一人でわたしを抱えてストレッチャーに移し替えたりしていた
あの頃のわたしは枯れ木のようだったろうけど、それでもすごい腕力だ
ここへ来て随分ふくよかになったけど、何なら今だってお姫様抱っこしてもらうことがよくある
「大丈夫だよ、おなかいっぱいにしてもらってるから」
背中と頭を撫でて落ち着かせる
「幸せに…するから!」
旗疋さんと何かあったようだけど、わたしに対しての感情は変わってないらしい
でもここのところちょっと甘えん坊だな
「幸せだよ」
お返しに今日はいっぱいいじめてやろう
旗疋さんの肉じゃがは、知っているはずの料理なのに知らない味がする
わたしは友達の家でご飯をご馳走になったことがない
これが人んちの味
わたしにはとびきり高級なあまーいお菓子に感じられた




