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リリカポリス  作者: 玄鉄絢
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第41話④

「ごめん、今濡れてて電話取れない」

むずがるブランの頭を根気よく洗っている美容師が言う

「はぁい。…ちょっと失礼します」

私を担当していたボヘミアン美容師が電話に出た

薄いピンク色のちょっとデブな電話は、コイン返却口が付いているように見える

「はい…あっ、毎度どうも。…うん。カラーの在庫?ああ…どうだったかな。今お客様で…」

「いいよ。お構いなく」

「すみません。…えっ?うん。…つむじ様だよ!…うん、ちょっと見てくるから」

「仕入れ?」

「ええ…この時期髪染める子多くって。シャンプーはでっかいボトルでいいんですけど、カラーはね。人それぞれだから。すみません、すぐ戻りますから」

「いいよ。ごゆっくり」

カラーか

一度染めれば染料は鏡に映るんじゃないか?

それを言い出すとファンデーションも映らないとおかしい

…まあ今それを考えても仕方ない

本でも読んで待つか

ルネに取ってもらおうと鏡で後ろを見ると、私の背後に薄紫のパーカーが浮いている

いつ、どこから入ってきたのか

ルネは本に集中していて気付いていない

ブランはあーあー言いながらシャンプーを流されている

流している美容師も気付いていない

「待ちくたびれましたよ、つむじ様」

鏡に映らないカーミラが耳元で囁いた

肩越しに菊のような香りが漂ってくる

「おっと…お静かに。私はハル。カルマ様の使いです」

「…何なの」

「声を上げれば私を一網打尽に出来ますけど、あなたはしない。だってあの箱を開けなかったんだから。あなたはあなた自身が思っている以上にお利口さん」

美容室の中はスーパーで流れているようなインストとブランのうめき声しか聞こえない

「それでいいんですよ。箱はあなたが必要だと思ったときに開けてください」

「…何故火を付けたの」

「あなた以上に注目しなければいけないことって、なかなかないので」

そんな理由で放火を行うっていうのか

「いいですか?私達のことを嗅ぎ回ると、打てる手が減っていきます。火を付けるより面倒なことをさせないでください」

「だからって…!」

「しっ」

パーカーは私の前に手を出して人差し指を立てた

「あなたの心配はあなたの連れでしょう?彼女の安全は私達が保証しますよ。まあ、私からは信じろとしか言えませんけど」

鏡に映るルネはまだ熱心に本を読んでいる

「私達はみんなカルマ様の命に従います。だからひとまずカルマ様を信じてください」

パーカーがしゃがむ

顔を見ようと振り返ったが姿がない

と、反対側の耳にさっきの声が囁いた

「そうそう、ここの名刺はわざと残しました。それじゃ」

反対に振り向いたがもういない

ドアについたカウベルが鳴った

ドアを振り返る

「たしゅけてぇ!チンチロリンでしゅってんてんにされちゃって…」

「!その声はチョコ!」

髪がびしょびしょのブランが跳ね起きた

「お姉しゃまが美容室に!?」

チョコちゃんは心底びっくりしている

飛び出そうとするブランを美容師が押さえつける

「もう!そんな髪で暴れないでください!」

「うおっぷ!」

ブランを取り押さえられるとは、やはりただの美容師ではないのか

「ルネ!」

ひとまずルネの方が入口に近い

「げえ!真昼の女王!」

チョコちゃんはすぐさま外に飛び出し、ドアを蹴っ閉じた

後を追おうとしたルネがドアを開けられずつっかえる

「えっ、なんで…」

「ルネ!鍵鍵!」

内鍵をかけてから閉めると鍵がかかるタイプの扉だ

実家にこういう扉があった

ルネがようやく鍵を開け、玄関を出て周りを見回す

濡れ髪を振り乱したブランがようやく出てきたが、チョコちゃんはもう影も形もなかった

身体能力もだが、チョコちゃんはああ見えてかなり機転が利く

あまりよろしくない場数を踏んでる感じだ


「チョコのやつ…」

「お手柄でしょ」

ここに駆け込んだということは、やはりカーミラと何か関係がある店だということだ

チョコちゃんがチョコレートシロップ代を使い込んだおかげで繋がりが見えた

店内に戻ると美容師二人は所在なさげに立ち尽くしている

「ブラン、続きを」

「もういいでしょう、用は済んだ」

心底憐れそうな視線をこっちへ向けるが、私は毅然と見つめ返す

「だめ。明日はおめかししてもらうから」

ブランは濡れた猫みたいに観念して洗髪台に戻った

「それじゃ、ブランが仕上がるまでゆっくりお話しましょうか」

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