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リリカポリス  作者: 玄鉄絢
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第41話②

「これ…つまらないものですが…」

人んちに、しかも真夜中に来るのに手ぶらというのは流石に問題がある

幸い街はお祭り騒ぎで夜通し店が開いているので、一服寺のスイーツ屋で寝こけているレジ係を叩き起こして、チョコレートの詰め合わせを包んでもらった

夜中の二時にだ

ひとしきり驚き終えてひとまず自己紹介をし、宅内に招き入れられた

安別荘の中では10人以上の女の子が、家庭科の授業ではまずお目にかからない集中力で一心不乱にホットケーキを焼いている

「残念ですが、今夜はカルマ様はおりません」

やっぱり

丁夜の女王がその活動時間に家にいるということは、仕事をサボっているということだ

もちろん毎日ではないにしても、いくらなんでも今日のような日にそれはないと思っていた

と同時に、フレオが言ったようにこの時間に活動しているから、私達とは顔を合わせることがないのも事実ではあるだろう

「お帰りになるまで待たせてもらうわけには…」

「あっ、えーとですね…ここ別にカルマ様のおうちってわけじゃなくって…私達の集会所…みたいなもので…」

応対してくれているのは外ハネのセミロングがお上品な感じの子だ

窓には反射した姿が映っているが、吸血鬼の姿が映らないのは鏡だけ

それもガラスの裏に銀が引いてある鏡だけだ

この子も他の子もカーミラなのか、ただの部下なのかはまだわからない

ただチョコちゃんと同じくらい幼く見える

こんな子が郁金香うっこんこうの夏服着てこんな夜中に人気ひとけのない森の中の別荘にいるなんて、IVの撮影か何かしてるのかと思ってしまう

「そっか、急に来てごめんね」

「いっ、いえ!こちらこそ大きな声出してすみません…」

「チョコのやつ、いませんね」

家の中を見回っていたブランが戻ってきた

「チョコちゃん買い出しに行ってるんです。でもなかなか帰ってこなくて…」

「あいつのことだ、屋台に引っかかってるんだろ」

「余計なお金持たせてませんから、寄り道は出来ないはずなんですけど…」

「使い込んだんじゃない?」

最近ワルの仕草を覚えたルネはニヤニヤして言う

会ったこともない相手に失礼な言い草だが、私もそう思う

「何買いに行ってるの?」

「チョコレートシロップです。ホットケーキにかけるのがなくなっちゃって」

要するにここはドラッグパーティーの真っ最中だったわけだ

しかもホットケーキと言っているが、奥の部屋ではたこ焼き器を囲んでさっき私が差し入れたチョコを具にチョコ焼きを量産している

更にその上にソースのごとくチョコレートシロップをぶっかけ、仕上げにカラフルなスプリンクルをまぶしている

こんなの食べてたらカーミラじゃなくてもキマりそうだ

「あの、おもたせですけどいかがですか」

と経木の舟に乗せたアツアツのチョコ焼きを差し出された

多分彼女らにしたら最大限のもてなしだと思う

「もらおう」

ブランは躊躇なくチョコ焼きを頬張った

「ありがとう。でもカルマ様がいないんじゃ私達は…」

と丁重にお断りしようとしていた私の頭上をヒュッと音を立てて爪楊枝がすっ飛び、階段を登ろうとしていた子を壁に釘付けにした

「そいつです。間違いない」

階段を登ろうとしていた子は、パーカーのフードを貫いて壁に突き刺さった爪楊枝を引き抜こうともがいている

「家の中を見て回りましたが、ここには火の気はない。全部電気調理器でした。なのにそいつだけ硫黄の臭いがする」

マッチを擦った後の独特の臭いは二酸化硫黄だ

二酸化硫黄は一応食品添加物なので、食べ物の衛生状態を保つために加えられることがある

だが0.5ppmという極めて低い濃度でも臭いを感じるデリケートな物質だ

ブランの鼻なら今日の(日が変わっているから昨日の)昼に擦ったマッチの残り香を感じ取れてもおかしくない

パーカーの子は爪楊枝を諦めパーカーごと脱ぎ捨て、階段を駆け上がった

ブランが飛び出して追う

私も後を追う

階段を駆け上がると二階は大きな一部屋になっており、クイーンサイズのベッドで数人の女の子が横たわって丸くなり、傍らのテーブルでは3人ほどがガトーショコラをつついている

開け放たれた掃き出し窓の外はベランダだ

ブランはベランダから周囲を見回している

「あの子は!?」

「逃げられました…面目もありません」

「ここのみんなに聞けば誰だかはわかるよ」

やはりブランを出し抜けるぐらいの身体能力を持った子がリクルートされているのだろうか

だとしたらこんな屋敷に気安く踏み入った私達は相当な恐れ知らずだ

「ねえ、今の子は?」

とりあえず起きている3人に尋ねてみるが

「しらなぁい」

「ごめぇんwみてなかったwww」

「フヘッヘヘヘヘヘw」

ガトーショコラでラリってる

これはチョコ規制条例を発布しないといけない

階段を下る背中に「つむじ様もたべなぁい?w」ともてなしの気持ちを投げかけられた

本当にただのチョコなのか?

「ねえ、さっき上がっていった子誰だかわかる?」

一応話が通じそうな外ハネの子を捕まえて聞いてみる

「え、えーと…ここにいる全員が知り合いなわけじゃなくて…カルマ様は全員知ってるんですけど、私達お互いは…」

マジで大麻バーか何かみたいじゃないか

今すぐ解散させた方がいいんじゃないかこれは

「そっちの子達は?」

まだチョコ焼きを作り続けている一団に聞いてみる

「あー…私も知らない子で。二階の子の知り合いだと思ってた」

「ね」

「こんなことってある?」

「細胞ってやつですかね…それぞれに独立した組織運営能力を持たされていて、トップからの命令が途絶えても使命を遂行できる。だからお互いを知らないなんてこともあるって言いますぜ」

確かにこんなテロ組織じみたヤク中を部下だなんて、公に出来るわけがない

カルマ様は一体何をしようっていうんだ

私の力はいらないと言ったけど、女王を殺す力を一番欲しがっているのはカルマ様じゃないのか

「あたし手がかり見つけたよ」

「お手柄だワトソン君」

ルネは拾い上げたパーカーのポケットから何か見つけたようだ

「お友達を紹介すると2割引」

ルネが行ってきた美容室の名刺だ

なんか繋がってしまった

美容師だけに話したはずの内容が、いつの間にか他人に広まっていたりすることはままある

だから私はいつも一つだけ、人に話したくなるような秘密の作り話をしておく

他所でその話を聞いたら、その店には☆1を付けて二度と行かない

今どきそんなコンプラ破りな店もあまり聞かないが、この世界は別だ

おおかたヴェルもこの店でここのことを聞いたのだろう

ただ残念ながら私は先週切ったばかりだ

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