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第32.5話
「嵐様」
音もなく現れた影が障子越しに呼ぶ
「つむじが気を失わされたと聞いたぞ」
嵐は振り返ることもなく、広げた袴に電気アイロンをかけている
毎日履いて幾度洗っても妙なシワが付くこともないが、こうしてプリーツ一本一本に丁寧にアイロンをかけることで、ひときわ鋭い折り目が保たれる
その触れれば手が切れそうなシルエットは、他の一服寺の制服とは遠目にも違う
「もう目を覚まされております。大事ないかと」
「お前がついていて、どうした」
「は…やはり連中がつむじ様をつけ回しているようで、やむなく…」
アイロンを立てて障子の方を振り返った
「連中の方は」
「姿を眩ましました」
「不始末だな」
「申し訳ありません。その場にゾンダ様が現れて…」
「ゾンダが?」
嵐は険しい表情でしばし考えた
「念のためゾンダの腹を探れ。深追いはしなくていいから」
「は」
仕上がった袴を畳むことなく、ピンと張って着物ハンガーに吊るす
ややあって
「…やまじ」
「は」
「祭りの間は私がつむじに付く。お前達は騒ぎを起こして連中を足止めしておけ」
「承知しました」