第29.5話
高校に上がって最初の夏
おな中の子達と連れ立って江ノ島に行くことになった
みんな大変な盛り上がりようで、それぞれに気合いを入れた水着を新調した
だがお堅い家の子が「子供だけで行くのは許さん」と親に止められてしまった
その子はグループの中の誰からも好かれていて、その子抜きで行くのは到底ありえない選択だった
これは中止かショボく市民プールかと覚悟を決めていると、思いがけず救いの神が現れた
それはなんと宮比さんだった
「わたしがご両親に話してみるよ」
品行方正が服を着て歩いてる宮比さんが引率してくれるならと、件の子の親御さんはあっさり態度を改めた
かくして宮比さん同伴で私達は江ノ島に向かった
お堅い保護者の信頼を勝ち取った真面目な宮比さんはどんな水着を着てくるか?
保守的な紺のワンピース?
はたまた競泳水着?
いくらなんでもスクール水着ということはないだろうが、私達のように舞い上がった水着ではないだろうという予想で一致していた
更衣室から出てきた宮比さんは早速男に絡まれていた
それはそうだ
パレオの付いた白いワンピース
顔立ちもスタイルもいい宮比さんは、やりすぎなくらい完璧な水着をチョイスしていた
浜を歩く宮比さんはまるで誘蛾灯だ
海で見知らぬ男にチヤホヤされるのは楽しいが、それは私達がJKという特権階級になったからではない
一緒に宮比さんがいたからだ
他の子はそれぞれに適当な相手を見つけ、中には付き合い出した子もいた
しかし私は連絡先一つ交換できず、お追従笑いしていただけの実りのない江ノ島旅行だった
黒いビキニがハリキリ過ぎだったのか、パッドを盛りすぎたのか、足の短いのが目立ってしまったか
そんな後悔をする必要もなかった
とにかくそれからは宮比さんを避けて遊ぶようになった
ところが盛り場に行くと大体宮比さんと鉢合わせするのだ
真面目が売り物の宮比さんは高校デビューしてしまったのか
すっかり秋めいてきた二学期のある日、法事で鎌倉まで行ったときに産婦人科に入る宮比さんを見かけた
どんな名医か知らないが、生理が重いときに小田原から通うにはキツすぎる距離だ
まあ、理由は察するに余りあるが、その日見たことは黙っていることにした
宮比さんはとにかくモテた
しかも学校の色男は大体宮比さんのお手つきと言われるくらい男をとっかえひっかえしていた
普通そんな手当たり次第に男を替えていたら揉め事の一つも起きそうなものだが、男達は皆統率の取れた蜂のように宮比さんに群がった
あれはやらずぼったくりだと言う子もいた
しかし私にはそうは思えなかった
高三も半ばを過ぎると、出席もまばらになってくる
学校よりも塾を優先したり、推薦もほぼほぼ決まってあとは出席日数さえ満たせばよくなったり
その頃から宮比さんは全く学校に現れなくなった
留学を決めて語学学校に行っているのだとか、どこぞの国立に推薦されて早々と引っ越したのだとか
様々な憶測を耳にしたが、私が見たものを言い当てられる子は一人もいなかったと思う
宮比さんに群がっていた男達も、愛想を尽かされたのか他の子に唾を付け始めた
そうして三学期にもなると、もう誰も彼女の話題に関心がなかった
卒業式の日、「宮比さんはお家のご都合で出席できません」と担任に告げられ、宮比さんの高校生活は終わった
その後の彼女の足取りは誰も知らない