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リリカポリス  作者: 玄鉄絢
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第27話②

嵐の執務室も通り過ぎ、階段を登って二階屋上のガーデンスペースまで運んでくれた

ルネと嵐が西陽を背に立って日陰を作ってくれている

「…ありがと」

二人の日陰で大の字になって午後の生ぬるい風に晒されている

「何をどうしたっていうの?こんな有様で」

「実はかくかくしかじかで」

「そのかくかくしかじかが何なのか聞いてるの」

それで通じるほどこの世界も甘くはなかった

仕方なく最初から事のいきさつを嵐に語って聞かせた(偉そう)

「肌襦袢はさらし、袴は正絹だよ。でも特別涼しいわけじゃないからね」

「でも3枚着てんでしょ…」

「2枚。肌襦袢が下着。満足した?」

「ノーブラか…」

「セーラーだってノーブラ結構いるでしょ」

と言いながら断りもなく私のスカートを盛大にめくった

「わあ!」

「まさかと思えば…夏場にヒートテックなんか着てたら暑いに決まってるでしょ」

嵐はめくった制服の裾から手を突っ込んでキャミソールのタグを見ている

ヒートテック?

「でもこれ春物のセールで…」

一服寺の衣料品店でワゴンに積んであったやつだ

安いから買った

安かった

春先に春物が

いや、つまり、春物ではなかった

冬物の処分で安かった、ということ

その時はこの世界にそんな近代的な衣類があるなどとは思ってもいなかった

いや、違う

さっきまでそう思っていた

まさか自分が去年のヒートテックを買ったなどとは想像もしていなかった

確かにちょっと肌寒い夜もあったかかった

多少汗ばむ日もあったが、厚手のいい生地で出来ているなと勝手に納得していた

そして春物だと思って着てきたらこれだ

私はこの世界を舐めていた

驕りがあった

知り尽くしたと心のどこかで思ってしまっていた

「だからそんなの暑いって言ったのに」

見下ろすルネは逆光に照らされ、体のラインのシルエットが見える

光がこれだけ透けるということは、体に当たった反射光も透けるということだ

反射光

我々が目にしている世の中のあらゆる物は、自ら光を放つものを別にすれば、当たった光の反射を目で捕らえているだけだ

つまり反射しない色の下着を着けていれば、透けていても見えないということになる

要するに黒

黒い下着なら透けても見えない

「…行かなければ」

私はヨレヨレと起き上がり、嵐の手を借りて立ち上がった

「どこか行く前にそのヒートテック脱いできなよ」

透けたくはないがやむを得ない

執務室でヒートテックを脱ぎ捨てると、途端に初夏の熱気が爽やかに感じられた

「なにこれ涼しいよ!」

「みんなは普通そうなの」

ルネは半目だ

「大体さ、高天原は襟がここまであるんだから透けても見えっこないでしょ」

嵐は私が脱いだ制服を広げて見回している

「嵐の胸そんな上の方にあんの」

後ろ襟が長いと言っても、せいぜいトップの高さくらいまでだ

透けたら見える

嵐の手から制服をひっつかんで頭からかぶり、その足で執務室を飛び出した


向かうは一服寺駅前

下着の揃いがいいブティックだ

ルネと、何故か嵐も着いてきた

探していた下着はすぐに見つかった

「えっ、黒?」

ルネも嵐も目を丸くしている

しかしこれで間違いないのだ

黒は光を吸収するから黒いのだ

夏の日差しが薄い制服の布を貫いても、何も反射しない

商品を手に取ると、ちょっとお高級なデパートにいるようなたおやかな感じの店員がすぐに、しかし悠然とした歩みで寄って来た

黒いベビードールの裾からはボーイレングスのショーツがちらちら見えていて、これは下着屋の店員以外ありえないというような格好をしている

でなかったら風俗嬢だ

「流石つむじ様、お目が高くてございます。こちらノンワイヤーでも谷間ができる大変優れたお品物です」

「早速試着を」

「こちらへどうぞ。フィッティングをお手伝い致します」

ブティックの店員は一緒に試着室に入ってきた

さっさと私の制服を脱がすとハンガーで壁にかけ、ブラのホックを外し始めた

人にホックを外されるのなんて何年ぶりだろう

緊張してきた

手ブラで胸を隠しながら着てきた下着を脱ぐ

「ではブラを手で抑えながら深くお辞儀するような格好をしていただいて…そうそう、そうです。お肉を全部カップの中に収まるようにして、ホックを止めていただきます」

と言って店員がホックを止めてくれたが、この体勢で一人で上手くやるのは結構難しい

「そうしましたら、背中や脇の方からカップの中にお肉を持ってきます。失礼致します」

さらっとした手がブラと肌の間に滑り込んできた

やばい、さっきまで汗だくだくだったんだ

まさかフィッティングまでしてもらうとは考えてなかった

しかし店員はそんなのお構い無しで私の肉を弄り回している

肩甲骨や脇の下の方から肉をかき集め、カップの中へ誘導する

贅肉大移動だ

この世界にそんなものはないと思っていたが、残念ながらあるところにはあるのだ

考えようによっては、これは胸を増量するための予備パーツみたいなものだ

ないよりはあった方がいい場合もあるかもしれないが普段はいらない

この贅肉大移動は砂場で丸い山を作るのに似ている

山はある程度の高さにはできるが、欲を張ると崩れてきて、かき集めた砂は麓へ広がりなだらかになってしまう

この麓の砂をめいっぱいかき集めて、持ち上げて、寄せて集めて蓋をする

そうするとある程度の間は丸い形と高い標高を維持してくれる

もちろん時間とともに山は崩れてくるのだが、夜まで持てばいいのだ

「…ここで脇を閉じて押さえてください。次はお腹の方からもお肉を持ち上げます」

と今度は上から谷間に手を突っ込んで、お腹の上の方から肉を引っ張ってくる

いいだけ胸を揉みしだかれているが、同性は加減を知っているから容赦がない

痛いぐらい肉を引っ張らなければ、本来いるべきでないところに動くわけがないのだ

おっぱいを弄んでいるのではない、重力に逆らって肉の山を築き上げているのだから

「胸の形全体を整えて…完成です」

左胸だけ標高が高くなって、胸の位置も上に来ている

いつもこうできればいいが、自分でやるとなかなか難しい

「難しいようでしたら、フレオ様にお手伝いいただいて…」

「フレオは執務室に住んでるだけだから…」

「まあ。ではお妾様で?」

「そういうんじゃないから!」

この話はややこしい

世間では私はフレオと熱愛中ということになっている

執務となるとフレオに頼る部分が多いために、妃同然の立場だと思われているのだ

店員が私の耳元に顔を近づけて囁いた

「お手が必要なときはお貸しいたしますから、いつでもお越しください」

この店員からはワインのような、芳醇なぶどうの香りが漂っている

今度は背中から手を回して右胸の形を整えている

うわあ、そうか

ボディフィッターというのは、人の本でもきちっと本棚に収めないと気がすまないような種類の人間がやってるものと思っていたが、そうではない可能性は忘れてはいけなかった

ましてここはかわいい、いい匂いがする女の子しかいない

銘酒屋は客が楽しむところだが、ここは店員が楽しむところなのだ

鏡に映る店員の顔は明らかに上気している

熱い鼻息が首筋にかかる

耐えろ

この子の野心が女の子の体を撫で回すこと以上なら銘酒屋に勤めているはずだ

害はない害はないと念仏のように心のなかで唱え続けた

店員の手が背や腹の肉…もとい胸の裾野の肉をねっとりとかき集めてカップに収める

「…完成です」

なんでちょっと名残惜しそうな顔してんだ

しかし耐えた甲斐あって左右の胸は均等にバストアップされ、くっきり谷間もできている

よい

「ショーツの方もヒップアップ効果がありまして、太ももの後ろのお肉を…」

「結構です」

このまま着て帰ると言って制服を羽織り、残念そうな店員をよそに店をあとにした

「どうだ」

ふふん、とルネと嵐の前で回ってみせた

「それで気が済むならなんでもいいよ」

「じゃあ私は帰るよ」

嵐はやれやれといった仕草で踵を返した

しかし去っていったのは官邸とは逆方向だ

何しに官邸に来たんだ

「私達も帰るとしよう」

「ま、季節の変わり目だからおかしな人がいてもしょうがないけど」

「おかしくない!ルネが平和ボケしている!」


ルネの危機感のなさは長年異性の視線を感じていない、麻痺している女子のそれだ

ルネが同性から性的に見られるタイプかというと、そんなものは好みの問題だからわかるわけない

ただ普段ルネの下着姿を見ている立場から言うと、小柄で細身で艶めかしい女の子は一定の需要があるような気がする

少なくとも面白半分、いや面白9割で持て囃される巨乳よりは

「ルネも少しは警戒した方がいい」

「透けた下着見られるより大汗かく方が恥ずかしい」

完全に麻痺している

でもいつぞや懸念した、私を誘惑しようとして薄着でいる可能性は考えなくてよさそうだ

せっかく上げて寄せてしてもらったブラだが、流石に滝汗かいて倒れたのにシャワー浴びないわけにはいかないので外す

明日同じように贅肉大移動が出来るかはわからないがやむを得ない

明日一日乗り切ればいいというものでもないし

暑くなってきたここ数日、家でのルネはTシャツ一丁になっている

透けてはいないが、胸のポッチが気になったりはする

言っても直さないだろうなぁというか、代わりに出来る格好はあまり大差がない気がして、特に指摘しないでいる

妹でもいたら家ではこんななのかもしれない

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