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第21話
夜半
一服寺のほど近く
周囲の建物とは敷地の広さからして違う、書院造りの屋敷に嵐はいた
電球が照らす文机に向かい、何事か書にしたためている
書き上げた行書体の文を読み直すと、しばし目を閉じて俯く
「山風、いるか」
「…これに」
障子に滲むように影が現れた
「つむじに張り付いて、近づく者があれば知らせろ」
「は」
現れた時と同じように、影は霧のように消えた
文を多当折の奉書紙に包むと、懐にしまって机の電気を消した
縁側に出て、欠けることも満ちることもない月を眺める
嵐は自分の中に芽生えた決意をもう一度己に問うた