宝石魔術と術式棍
丁度アリシアの股下、柔らかくなった地面が薄っすらと盛り上がる。それに合わせ、アリシアは後ろへと飛び退くよう身体を放り投げる。
「間一髪、ですねっ!」
まだ、トリガーは引かない。このタイミングじゃない。
先ほどと同じであれば体を捻り、石柱を足掛かりにしてこちらに飛び込んでくるはずです。
だから、まだ引き付ける。
「ぐぅうぅぎゃ!」
アリシアの読み通り、砂トカゲは先ほどと同じように低く唸りながら、静かな怒りに火をつけて体を捻る。
そして飛び掛かる、その瞬間。
「グリッタージェムッ!」
アリシアがそう言い放つと同時に、地面にばら撒かれた宝石が朱槍の様な鋭さを以て、飛び掛かろうとする砂トカゲの腹を目掛けて貫いた。
「ぎゃあぁごっ!?」
(思い通り!外皮は硬質な鎧で覆われていますが、お腹はそうでもないようですね!)
砂トカゲは身動きが取れない状態だったが、まだ生きている。それもそのはず、ルビーの朱槍に相手を絶命させるような威力は無い。そもそもの目的が捕縛用。精々、相手を気絶させる程度の威力しかないのだ。
だから、仕上げの一手がいる。
アリシアは抱えていた機械の槌、否、術式棍を回転させながら抱え直す。
この武器は異能が使えない能無しのアリシアが、魔獣たちと戦うためにとあるツテで特注で造らせた、アリシア専用の武器。その重量はオプション無しで驚愕の九十八キロ。その他オプション込みで百五十キロ近くにもなり、常人にはとても扱えるものではない。
この武器の特殊な機構は、自前の宝石を埋め込み、そのインパクトの瞬間に開放することで、機構を駆動させ、破壊力を何十倍にも増幅させる増幅器の様な役割を内包している。
つまり、外部と内部からの両方の衝撃に耐えうる耐久性を得るために、ここまでの重量にする必要があるというわけだ。
当然、ここまでの重量級の武器。この重さがそのまま破壊力にもつながっている。
「動けない相手に申し訳ありませんが、こちらも命がけなんで!」
跳躍し、体を捻り、遠心力を加算する。
100キロもの鉄の塊に殴られるだけでも致命傷ではあるが、宝石により相乗した際の破壊力は、本人の腕が痺れて動けなくなるほどに測り知れない。人間相手では圧倒的なオーバーキル。だから、対魔獣用。
「せーのっ、ライブゲイザーッ!」
轟音。辺りの空気が諸共震える。そんな衝撃をまともに食らった魔獣は、いくら硬質な装甲が自慢であろうとも、無事であるはずもなく、その身体を霧散させることしかできなかった。
「ふー、いっちょ上がりですね!二人ともー!もう出てきてもいいですよー!」
額に滴る汗をぬぐいながら魔獣が完全に消え去るのを待ち、もう問題ないと判断すると、アリシアは諸手を振って千寿流たちを呼ぶ。
「す、すごいね、アリィちゃん。砂に紛れてよくは視えなかったんだけど。さっきの音。どがーんって!アリィちゃんがやったんでしょ?」
「ふふ、これが宝石魔術です!けっこう応用も利くので、他にもいろいろできますよー」
そう言いながらアリシアは色とりどりの宝石をジャラジャラと手の内で弄ぶ。
「例えばですね、さっきのルビーは硬質化。ちずちずたちは砂のせいで良く視えてなかったかもしれませんけど、炸裂した形状を硬質化して槍とか手錠とか造れます。あとはルビーそのものに一定以上の衝撃を与えると爆発するので、この術式棍と合わせて瞬間的な推力を得られるわけです」
ルビーは、と言ったので、他の宝石はまた違った効果が得られるのだろう。宝石同士を掛け合わせて応用的に使うこともできるかもしれない。時間がある時に訊いてみるのも面白いと思った。
「さて、魔獣も追い払ったことですし、そろそろ出発しましょうか!ね、ちずちず、風太」
「やるじゃねえか、アンタ。正直舐めてたぜ。状況判断も悪くねえ、頼らせてもらうぜ」
「へ?ああ、もちろんです!これでも冒険に関しては一番先輩だと思うので!」
冒険か。改めて実感する。ドンと胸を張るアリィちゃんがものすごく頼もしく視える。
「サバイバル、防災関連、食べれる草や虫の見分け方なんかもどんとこいです!あと、毒キノコも死にそうになるのに耐えれるなら美味ですからね!大船に乗ったつもりで任せてくださいよ!わたしはダイヤモンド・プリンセスレベルの豪華客船ですからね!」
豪華客船とサバイバルという相反するワードに矛盾を感じてしまう。食料はたんまり用意してきたんだから、流石に草とか虫とか食べる状況には絶対なりたくないと思う千寿流であった。
アリシアはフィジカルだけでなく力もつよつよです。搦め手とかもそれなりにいける口です。




