あたしの思っていること
あたしとシャルちゃんとクラマちゃん。今日は天気も良いので、日光浴もかねてベンチでのんびり座っている。一応言っておくけれど、決して遊びまわって疲れたわけではない。
「ふたりとも まだすわってる? シャルル さっき ちょうちょ みかけたから いってくるね!」
ベンチから飛び出すように立ち上がり、あたしたちの返事も待たずに走って行ってしまった。
「えひひひ、元気だね、シャルちゃん」
「うふふ、そうですね」
あれから数日。あれ以来魔獣の姿は目撃していない。
世間は相も変わらず、長閑な日常という歯車を規則正しく廻していた。
学校はやはり再開とはいかなさそうだ。その為、今後当面の授業に関してはスマホを通じてリモート方式で行われることとなった。ちなみになんでスマホかというと、この時代スマホが高機能になり過ぎて、家庭にPCを置かないところが増えたからである。
(授業はスマホを通して出席できる)
これはきっと、あたしに探しに行く機会を天が与えてくれたのではないだろうか。
それならば、言い出さなきゃいけない。そう思った。
(あたしは、あたしのことを知りたい)
それが危険なことだっていうのは解る。だって、これまでだって危険な事ばかりだった。
もちろん楽しいこともそれと同じぐらい多かったけれど。それでも、あたしも、みんなも命を落としかけたこともある。普通に考えたら頭のおかしい子だと思われるかもしれない。
けど、いてもたってもいられない。
理性よりも強く喧しい本能があたしに訴えかける。
『知りたい』って。
だから、言うんだ。
「ね、ねえ、クラマちゃん。あのね、話があるんだけど」
「はい、なんでしょうか千寿流ちゃん」
全部話した。あたしが思っている事、全部。
あの手紙の真意。
あたしの命が狙われなくてはならない事。
あの手紙にはあたしと同じ顔の人物があたしの命をねっらっていると書かれていた。それが藤沢市で出会ったあの子なのかは分からないけれど、それを確かめるって意味合いもあるかな。
あたしが記憶喪失になってしまった原因。
思えばそんな状況なのに、なんでパパたちはその点について何も言ってこないんだろうと思った。正直怖くて聞けない。だから、知りたいのに聞けない。理屈も理由も分からないけど、今の関係が壊れてしまうような、そんな気がしたから。
そして、それら全てひっくるめて、いてもたってもいられない事。
クラマちゃんはあの日「千寿流ちゃんに付き合ってあげたいと思っています」と言ってくれた。だから、いつだってあたしの味方をしてくれる。そう思っていた。
けれど一呼吸置いて返ってくる答えは、当たり前すぎて頷いてしまうことしかできない程に、残酷で現実的なものだった。
「千寿流ちゃん、ごめんなさい。今この地区はいつ魔獣が現れるかも分からない、危険な場所になってしまいました」
そう、当たり前のことだった。
「結九里、敷いてはこの地区全体では確かに戦える方もいますが、魔獣のと戦闘経験は皆無に等しいものがほとんどです」
こちらに向き直り、深く頭を下げられた。
「ここ数日、たしかに魔獣の出現は確認できていません。けれど、またいつ現れるか分からない以上」
落胆、したのかな。
「今、私が離れるわけにはいかないんです」
顔を少し上げクラマちゃんはそこまで言い切った。彼女はいつだって気遣いが利いた。だから、その言葉を聴いてあたしが落ち込んでいるのも、仕方ない事なのだと理解したことも分かってしまっただろう。
だから、何も言えない。だから、あたしから言わなくちゃいけない。
「うん、そうだよね。ごめん、わがまま言って迷惑かけたいわけじゃないの。それはホント」
「…すみません」
クラマちゃんはそう言って俯くように下を向いて黙ってしまった。
「なんだよオメエら。天気は熱く照らしてくれてんのに、随分と景気の悪い顔してるじゃねえか」