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Connect☆Planet  作者: 二乃まど
第五章 大食い少女とあたしの冒険譚
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天才タルト

石造りのベンチに座っていたリオンはゆっくりと腰を上げる。そこでタルトが手にしている糸でぐるぐる巻きにされたあるものに気づく。


「ところでそれは何だ?その気持ち悪い物体は」


真っ白の糸で覆われているが、指の様な物が確認できる。それは肩から無理やり引き千切った両腕を重ねてある様に視えた。


「ああ、身体の方はちょっと気を抜いちゃっててね、ぶっちゅり潰れちゃったのよ」


「そんなことは訊いていない。死体集めが趣味だとは聴いていたが、腕のコレクションも趣味なのか?悪趣味も極まると狂気的だな」


タルトは首を横に振り、説明してあげると言わんばかりに口元を微かにほころばせた。一本一本解かれていく糸。そこには魔装紋がびっしりと彫られた二つの腕が出てきた。


「魔装紋。これはなんだ。転移の魔装か?」


「へー。リオンくん、魔装に詳しいんだ?これが何の魔装紋か解るってことは、何が出来るかも判る感じ?」


リオンは顎に手を当てて考える仕草を取る。正直、大手を振って詳しいとはいえなかった。魔装に関しては多くある術式の一つとして確立されているということしか知らない。基礎の魔装紋に関してはなんとなく理解はあるがそれだけだ。今回の様な複雑な魔装紋に関しての知識はない。


ただ、昔戦った手合いに同じような魔装紋を刻んでいる者がおり、その人間が魔装を介して武器を手繰り寄せていたのを覚えていた。だから、遠くにある物体を呼び寄せる、転移的な何かだと思ったのだ。


「転移系ねえ」


改めて切り離された両腕を視る。


あたしだって基礎魔装紋ぐらいは見たことがある。けど、それとは似ても似つかない。模様と模様が複雑に絡み合う。ぱっと見で模様の形を覚えるのは難しそうだ。素人目だがそれなりのレベルであることが窺えた。


「転移系。それって移動できる物体の大きさに限度があるのは置いておいて、腐っても空間跳躍なわけでしょ?こんなちんけな落書きで本当に行えるワケ?だったら世の中、似非召喚士で埋め尽くされてると思わない?」


魔装は異能(アクト)とは違うが奇跡の具現化に変わりはない。子供のころ、もし念じるだけで火を起こせたら凄いと思わなかっただろうか。暑いとうちわを仰ぐ友だちの横で、何も無いところから氷を生み出して上げれたら喜ばれるのにな、と思ったこともあるかもしれない。


アニメやゲームでは簡単に行えてもそれが叶うことは決してなかった。


だから奇跡。人知を超えた神秘なのだ。神秘というものは神に選ばれた者だけが受けることの出来る寵愛でもある。


魔装という名前は界隈にも浸透している言葉ではある。が、それを実際に行使する者は決して多くはない。


なぜなら、魔装術には適正とリスクが存在するからだ。


適正、これは生まれ持ってのものではあるが、須らくが持っている血の相性だ。魔装は血液の流れをエネルギーに、体外へとアウトプットすることで初めて具現化する。その中継を行っている変換器の様な物が魔装紋だと思うと分かり易いだろう。


自らに流れる血が、扱う魔装の属性と近ければ近い程円滑に変換することが可能、というワケだ。


これを液解転換(えきかいてんかん)という。


誰もが持っているものではあるが、血は受け継がれるもの。才能の一種だ。頑張っても何も得られない、どうしようもないってこともある。というかそのほうが多い。あたしだって魔装はろくに使えない。


ただ、どっかの統計では男性より女性のほうが魔装に適しているという話は聞いた。だから有名校の銀学とかは女子校なんだろう。まあ、共学になるとか噂は聴いたけど、興味が無いからよく知らない。


ちなみに簡単な魔装であれば魔装が収められている、魔装書と呼ばれる本を介して扱うことも可能だが、基本的には魔装紋は血と馴染み深い肌に直接掘ることが多い。若い世代には肌に直接魔装を刻むのに抵抗がある者もいるが、それが魔装師としての誇りだという者も少なくない。


だから、人それぞれ身体に馴染む属性というものがある。もちろん訓練次第で苦手な属性を克服することも出来るが、生涯の大半を魔装術の研究に費やすことが主となる魔装師にとって、実るかも分からないような無駄な試みに時間を割く者は少ない。


ついでにリスクについても簡単に話しておく。


リスク。魔装師の適性があっても、魔装師にならない理由の最たる要素。


血暴逆行(けつぼうぎゃっこう)


これはいわゆる血の暴走。魔術を行う上で変換されアウトプットが行われる過程で突然変異し、血管の中に魔装が逆流してしまう現象。想像に難くないと思うが、そうなってしまえば最後、再度変換し体外に放出することは困難であり、身体を内側から圧迫し臓器が破壊され死に至る。程度の違いはあるが、爆発するように弾け飛んだ者もいるという。


体調不良、輸血、自身の丈に合わない液解転換などが原因だとは云われているが、中には健康状態で輸血を行ったことが無い者でも起きる事例があり、詳しい原因は未解明のままである。


それと反対に、あまりにも酷使して魔装を使い過ぎた際に起こる貧血に似た症状、血溢流動(けついつりゅうどう)。まあ、これに関しては無茶な扱いをした自業自得といわざるを得ない。


症状のサインはあり、軽い眩暈から始まり、それでも無理が祟ると意識を失う、死に至る。と症状が重くなっていく。とはいえ、死に至るレベルまで馬鹿みたいに液解転換を続ける者などほとんどおらず、すぐに適切な処置が出来ればほとんどのケースで助かるらしい。


「通常ならな。だが、彼は特別だ。魔装と異能(アクト)の両刀。仮にそれが転移系という高等魔装術と仮定するならば、行使におけるリスク部分を自らが作り出した虚像に肩代わりさせていたのだろう。まあ、お前と同じ天才というやつだ」


「へえ、そんなにすごい人だったんだ、彼。勿体ないことしちゃったかしら」


リオンはそれ以上何も口にすることはなかった。


彼の氷の様な変化に乏しい表情は、口に出してもらわなければ何を思っているのかも分からない。


あたしも人の子だ。天才ではあっても人の子なのだ。だから、少しの気の緩みが思わぬミスを招くこともある。まさに今回がそれなわけだけども。


「あは♪良いこと思いついちゃった♪」


あたしは閃いたと指を鳴らすと、一瞬の憂いなど何事も無かったかのように不敵に笑う。その上品な笑みを隠すこともなく、解かれた両腕をもう一度糸に包み袖の中にしまい込んだ。


天才だって間違えることはある。


けれど、天才は憂うことはない。


壁に行き詰まったとしても、その壁を床に歩き続けられるから。


だってそんなこと凡人には思いつかないでしょ?


だからあたしは天才なのだ。

割と苦手な専門用語が並びます。

覚える必要はない、というか自分も覚えれないので。

なので漢字で最低限意味が通じるようにはしているつもりです。

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