みんなとお買い物
「申し訳ございませんっ!お嬢様!千寿流ちゃん!」
「ん?」
後日、家の近くの小さな公園で、シャルちゃんたちと待ち合わせをすることにしたあたしは、クラマちゃんに会うなり、いきなりこうして頭を下げられた。
角度はぴったり九十度、ほれぼれするほどのお辞儀だ。ここまで丁寧に謝られると、なんだかこちらが悪いことをしたような気になってしまうから不思議である。
「ど、どうしたの、クラマちゃん?あたし、何にも謝られるようなことされたつもりないけど」
「それはですね、一昨日千寿流ちゃんに風太様をお誘いするとお話しましたよねっ!」
「んと?ああ、確かにそんなこと言ってたっけ?えひひ、でも風ちゃんお仕事もあると思うし、あたしたちの我儘で振り回しちゃうのも悪いんじゃない?」
どうやらあの電話の後、本人のところまで出向き、直接風ちゃんをお買い物に誘ったみたいだけど、「んな下らねえこと付き合ってられるか」の一点張りで断られてしまったそうだ。確かに風ちゃんの言いそうなことだった。
「クラマは がんばったよ えらいえらい だから きにしないで」
そう言いながらシャルちゃんはクラマちゃんの頭を撫でようとしたので、すかさずクラマちゃんは姿勢を低くし、手が届くところまで頭の位置を下げる。この間一瞬。傍から見るとちょっと怖い。
「お嬢様ぁ~。けど、私は一度でも誘うと約束したのですっ!ですから今日一日は私は、クラマと風太様一人二役をこなして魅せます!」
「え、えぇ~!?」
クラマちゃんは時々とんでもないことを言ってのける。それもこれもその強すぎる責任感からの事だと思うけど、今みたいな誰も思ってもみない事を言って、実際にやり遂げてしまうから凄いと言わざるを得ない。
今日は曇り空だったのでお散歩日和とはいかなかったが、回遊性の高いアウトレットモールに行くわけなので、カンカン照りよりは少し曇っていた方がお店も回りやすいだろう。
「あめ ふって きちゃうかなぁ?」
「ん、どうだろ。天気予報では降らないっぽいけど、いっつも外れるしわかんないね」
別に降ってきても傘があるので構わないが、雨が降らないに越したことはない。見慣れた風景を横目で視ながら心の中でぼんやりと、降らないでほしいなぁと心の中で呟くのだった。
そんな叶っても叶わないでもいいような、どうでもいいお願いが天に届いたのか、雨が降ることなくアウトレットモールに辿り着けた。
ここは新海区にある中型のアウトレットモール。
ショッピングモールと違い普通のお店では売っていないような商品や、中古品などが数々と並ぶので、ウインドウショッピングをするだけでも楽しい場所だ。
ネットのオンラインショップと提携しているところも多く、ネットで予約だけしておいて、実物を実際に触って購入を考えることも出来るようなサービスもある。
また、隣にはショッピング街と比べると小さいものの遊園地もある。ジェットコースターにフリーフォール。メリーゴーラウンドに観覧車。小さいながらも遊園地と云えばコレ。というような基本的なアトラクションは全部揃っていた。
ちなみに、休みの間に一度だけシャルちゃんたちに連れてきてもらったけれど、その時にこのアウトレットモールに既視感の様な物を覚えた。
もしかしたら記憶を失う前は家族で来ていたのかもしれない。今度パパやシャルちゃんにそれとなく聴いてみてもいいかもしれないな。
「風太様、どこか回りたいところなどはご希望はありますか?」
「ああ、そうだな。オレは別にどこでも構わねえ。シャルと千寿流が行きたいところに付き合ってやるぜ」
「そうですか、さすが風太様!レディーファーストということでしょうか?一歩引いて女性を優先するなんて、とても素敵ですっ」
「ああ、当然だろ。お前らが望むのならどこへだって付き添ってやるぜ」
「では、行きましょう!お嬢様、千寿流ちゃん!ほら、早く早く!」
「迷子にならないよう、ちゃんとオレの手を握っておきな」
往来の真ん中でクラマちゃんが忙しなく立ち位置を切り替えながら、一人二役で話し合っている。初めのうちはそこまでだったのだが、演じていてボルテージが上がっていってるのか、どんどんキャラが崩壊していく。
なるほどこれは思っていたよりも来る。なんというかすごくシュールな光景だ。
そんなクラマちゃんの様子を、立ち止まって奇異の目で見る人や写真に撮る人もいた。たぶん彼女の顔立ちが整っていて、可愛いからというのもあるのだろう。
「クラマちゃん。風ちゃんはそんなこと」
「いわないんじゃない?」
「はうぅ!?そ、そうでしょうか。やっぱり、そうですよね。いえ、ここで諦めるクラマではありませんっ!今日一日は一人二役をやり遂げさせていただきます!」
「えぇ~!?」
あたしとシャルちゃん。二人の声が重なる。それがなんだかおかしくて吹き出してしまった。




