塩辛いハンバーグ
その日は灰色。燦燦と輝く太陽さえも昏く塗りつぶしてしまうような憂鬱の色。
葬式は淡々と行われた。参列する誰もが暗く沈み込んだ表情。祭壇の前には白い花々が並べられ、星ちゃんの写真が中央に飾られている。もしかしたら記憶を失う前の近衛千寿流は経験しているかもしれないけれど、あたしとしては初めてだった。
薄暗い空が低く垂れ込み、今にも雨粒が降り出してきそうな雰囲気を醸していた。何も考えずそんな空を見ていると、空の向こうにいる神様さえも哀しみ、涙を堪えている様で、どこか不思議な感覚だった。
葬儀は厳格な宗教儀式ではなく、自由葬という形式がとられた。突然の死だ。故人の生前の意向などあるはずもなく、家族の希望を尊重したものとなった。
涙は出なかった。昨日がピークだったのだろう。呆れるぐらいに泣きはらしたから、もう流せるだけの水滴が残っていないのかもしれない。
あれは星ちゃんのパパだろうか?スピーチが聴こえる。けれど、内容なんか驚くぐらいに頭に入らなかった。身体は落ち着いたけど、気持ちはぐちゃぐちゃのままだったから。
一人一人が彼への感謝と別れの言葉を捧げる。
ママに背中を擦られ、いっしょに棺の前まで歩く。見よう見真似で焼香を行う。この行為に何の意味があるか今のあたしには分からないけれど、大人になれば分かるようになるのかな?
分かるようになる頃には子供のあたしが感じている、この張り裂けそうな気持ちにもならなくなるのかな。
涙は出ない。出さないように頑張った。流れ始めたら今のあたしにはきっと止められないから。けれど、いざ星ちゃんの棺を前にすると目頭が熱くなる。そうしたらもう後は止めることなんて出来なかった。
涙腺が堰を切り、思い出と共に次々と涙が溢れてくる。哀しみの雫が頬を伝って床に落ちる。涙と共に思い出さえも消えてしまうような気がした。だから、必死になって耐えようとした。
そんなあたしを慰める様に、いつまでもママは黙ったまま隣に寄り添ってくれていた。
「けどよ、シャルの異能ってのはどうなんだよ?なんでこんなことになっちまったんだ?」
葬儀が終わり、あたしたち家族の三人は食事をするために近くのレストランに来ていた。
あたしは喋りたいような気分でもなく、注文を終え静かに待っているとパパが突然そう言った。
「シャルの異能、あー何だっけかアレ、ナショナルホリデーだっけ?」
「Night Tellerよ、秋久さん。それじゃあナしかあってないでしょ」
「ああ、そうだっけか。まあ、アイツに全部押し付けるってのも筋違いだとは思うけどよ。千寿流、お前は何かシャルから聴いてないか?」
「え、どういうこと?」
パパたちが何を言っているのか解らなかった。
シャルちゃんの異能?
そういえば冒険の始まりの日、シャルちゃんは宇宙みたいなエネルギー?的なものを創ったことがある。あの時は確か暗い地下道を明るく照らしたっけ?
その後、人型の魔獣が出てきたときは魔獣に向かって撃ち出してみたけれど、結局途中で消えちゃったはずだ。
だから、意味が無いと悟ったのか、それからはシャルちゃんはあの力を使用することは無くなった。それだけの異能だと思っていた。
クラマちゃんからはシャルちゃんがすごく長生きだとか、ちょっと幼児退行してしまっているということは、なぞる程度にふわっと聴いていたが、異能についても何か異変が起きているのだろうか。
「え、それ、本当?」
「いや、俺もシャル本人から聴いただけだからよ。詳しくは良く分からないんだよな。なんか、外的要因から身を守る~みたいなことしか聴いてないんだ。お前、連絡取れるんだろ?後で聴いておいてくれよ」
シャルちゃんの精神が子供になっちゃってるって気づいていないのかな。う~ん、クラマちゃんには無駄に不安を煽ることになるから、むやみに口外しないでって釘を刺されてる。
パパたちになら言っちゃってもいいのかな。それも一度クラマちゃんに相談したほうが良いか。
「う、うん。後で訊いておくよ」
そうして喋っているうちに注文した料理が運ばれてきた。
あたしが注文したのはお子様ハンバーグセットとオレンジジュース。いや、あたしが注文したと言うのは語弊がある。パパが勝手に「千寿流はこれでいいだろ」とタッチパネルで注文してしまったのだ。
いつもだったらお子様セットなんて、子供っぽいから嫌だって言っていたけれど、今日はそんなことを言い返す気力も沸かなかった。
フォークを取り、ハンバーグを掬い口へと運ぶ。いつもなら美味しいはずのハンバーグが、今日はなんだが少し塩辛いような気がした。




