燃える学び舎と少年2
目の前にいる少年は、見た限りでは脅威となりそうな武器は持ち合わせていない。能力者が跋扈するこの世界で空手だからと侮ることは出来ないが、敵意や殺意の様な物も感じなかった。そもそも、こちらを害する気があるのなら、わざわざ拍手などせず黙って攻撃をすればいい。
「学校、燃えちゃってますね。けど、安心してください。この学校ではたぶん、誰も亡くなっていないと思います。ああ、訂正、目の前で起きた火事で亡くなった人はいない。ですね」
「なんでそう言い切れる」
「なんでって、そりゃあ臭わないからですよ。人間が燃えた時に発する、頭がおかしくなりそうなあの臭いが」
人が燃えた時の臭いが分かるということは、少なくとも以前に人が燃える現場に居合わせたということになるが、深くは突っ込まないことにする。今はコイツとちんたら話をしている場合じゃないからだ。
「で、なんなんだ?オレらはお前とだらだら話をしてる暇はねえんだよ。退かねえってんなら無理やり押し通るぜ?」
そう言い終えると、オレは相手の返答を聴かずに歩き始めようとする。
「ッ!?」
「う うごけない お兄さん!」
足が動かない。重いとかそんなんじゃない。その場に縫い付けられているようにピクリとも動かない。靴を脱いででも動いてみようとするが、足ごと縫い付けられているようで、全く動かすことが出来なかった。
「異能ではありませんよ。指定領域魔装陣です。ほら、足元をよく見てみてください」
言われた通りに地面に目を向けると、薄っすらと木の枝で描かれた陣のようなものが確認できた。
「これは僕の腕の魔装紋と連動してます。魔装紋の種は拘束式。魔導学院とかだと基礎魔装学で習うヤツですね。まあ要するに誰でも使えるってヤツです」
指定領域魔装陣。なるほど、この陣の中にいる人間を対象とした拘束系の魔装ということか。
「人間って面白いですよね。緊急事態ともなると目に入る情報に脳が勝手に優先度をつけて、騙してしまうんです。出来るだけ気づかれないよう薄っすら描いたつもりですが、あなたみたいな人なら普段だったらその違和感にすぐ気づくでしょう?」
「テメエ、何企んでやがる」
「何って、僕は何も企んでないですよ。お話しようと言っただけです。だってほら、見てください。どこからどう見ても僕は少年そのものです。ね、そうでしょ、お兄さん?」
確かにコイツから敵意は感じないといった。その認識は正しい。だから、本当の意味でただ話をしたいだけということか?
「うぅ はやく ちずるのとこ いかないと いけないのにぃ」
「ッ!?」
違うッ!コイツの目的は話し合うことなんかじゃない。オレらをここに足止めして、千寿流のところに向かわせないようにしているのか。
いや、しかし、なんでだ。なぜそうするのかという部分まではわからない。
「おいコラ。オメエが言うところの話し合いとやらをしたらこの魔装は解きやがるんだろうな?」
「ええ、もちろん。こう見えて僕、今年十一歳になるばかりの小学生なんですよ。生まれは、えーっと、二二〇七年?いや、二二〇八年かな?まあ、どうでもいいか」
「さっさと、本題に入りやがれ」
「で、僕たちの目の前で小学校が燃えています。それはもう勢いよく、ゴーゴーと。これではまともに通うことなんて出来ないですよね?まあ、僕はこの学校に通う生徒ではないのでこれまたどうでもいいわけですが」
要領を得ない。だらだら話をして時間稼ぎ。そんなことだろうが、それをしてコイツに何のメリットがある。ただの頭のおかしいガキか?
「これって十中八九魔獣の仕業ですよね?なんで魔獣は……」
「魔獣の仕業なんかじゃねえよ。放火は人間のやったことだろうよ」
風太に割り込まれ、少年は一瞬驚いたような表情をした後、すぐさま不敵な顔に戻り、ぺろりと舌なめずりをした後こう言った。
「へえ、何のために?僕は心優しい人間の中に、そんな残虐なことをする人がいるなんて信じられないんですけど」
「フン、放火魔の気持ちなんざオレも知りたくねえよ。んなの本人に訊くしかねえだろ。で、オレらはいつまでお前の話に付き合わなきゃいけねえんだ」
「それは。そうですね。うーん」
「なんだよ、さっさとしろ」
「あはははは、ごめんなさい、決めていませんでしたっ!では、三十分ほど、いやいや、待ってください。はい一時間ですね。はい、ちゃんと時間も切らせてもらいますので」
そう言いながら少年は、タイマーを六十分に設定したスマホの画面を見せ、スタートの部分をタップする。
(っち、一時間も足止めを食らっちまうのか。何とかしてえがどうにもならねえ。情けねえ話だ。それにあの魔装、人間二人を一時間も同じ場所に拘束できるとはな)
「では、まず最初の題目。僕たち人間と魔獣は共存できるのか?これって永遠のテーマでしょ。――あ、せっかくだからディベート形式でどうです?動画とかでよく見るんですよ、しょうもない題目で言い争ってるの!面白そうじゃありませんか?」




