わくわくの日曜日
校舎を出る。ふと目線をよぎる黒い影。木々の隙間を移動する黒い影。思えば黒はいつだって不吉の象徴だった。
(なんだろう。素早い。野兎、かな?もしかして学校で飼ってるウサギのぺろちゃんが抜け出した?いや、あの子はおとなしかったし、そんなことは無いはず――だよね?)
一言飼育委員の友だちにLILLEで連絡を入れておこうかと思ったとき、視界の隅でシャルちゃんたちが手を振っているのが視えた。しまった。すぐ切り上げるつもりだったけど、話していたら楽しくなって遅くなってしまったんだ。
あたしはこれ以上待たせるのも悪いと思い、駆け足でシャルちゃんのもとに向かう。
「ごめん!遅くなっちゃって!シャルちゃん、クラマちゃん、怒ってる、よね?」
随分と長い時間話し込んでしまっていた。みんなとの会話はすごく楽しかった。
みんなの名前が思い出せなかったからさり気なく誤魔化すようにしたけど、気づかれていないだろうか?もしかしたら気づかれていたけど、気づかない振りをしてくれている。なんて可能性もあるかもしれない。
いや、あたしの考えすぎかな。
とにかく温かくて、楽しかった。あんな日々が待っているなら、あたしにとって学校はとても楽しい場所だと胸を張って言えるだろう。
今日、一つ大きな楽しみが出来た。休みが明ける日が少し待ち遠しくなった。
「ちずるがたのしいなら シャルルは それでいいと おもってるよ!でも シャルルとも ちゃんと あそんでよね!」
「そうですね。私も千寿流ちゃんが楽しんでいただけるのが一番ですから。千寿流ちゃんの笑顔にはいつも助けられています」
「えへへ、うん、ありがと、ふたりとも。じゃあ、帰ろっか」
こうしてあたしたちは帰路につく。あたしは結九里に。シャルちゃんたちは三日月館に。それぞれの帰るべき場所に。
舗装された公道には魔獣は現れないとは聞いていたけど、けっこう夜遅くなっていたし、万が一ということもあるので、二人はあたしを結九里まで送り届けてくれた。
「じゃあ、また明日ね!シャルちゃん、クラマちゃん!」
「うん!また あした!ちずる ちゃんと おなかかくして ねなきゃ かぜ ひいちゃうからね!」
「また、明日迎えに来ますね。あ、明日はどうしましょうか?学校に行きますか?」
学校には行きたい。今日話してみてあたしにも居場所があるんだって解ったから。学校にはシャルちゃんたちといっしょに遊ぶのとはまた違う楽しさがあった。どっちが上かとかどっちが下とか、そういうのじゃない。
けど、学校に行くというのはシャルちゃんたちといっしょに遊べないということだ。それは、嫌だった。
「ううん。えっと、明日はその」
「がっこう いきなよ!シャルルたちとは ずっと いっしょにいたし。ちずるのともだち いいこ ばっかりでしょ?」
「えっと、それはそうだけど……」
そうだけど、そうじゃない。よくわかんない気持ち。なんだろう、この気持ちに正しい答えなんてあるのかな?
「じゃあ ちずるも あそんであげなきゃ!だいじょうぶ!シャルルたちとは いつでも あそべるからね!」
いつでも遊べる。確かにそうかもしれないけれど。それは学校のみんなだって同じだよ、シャルちゃん。
そうか。あたしはどっちかを選ぶってのがすごく苦手なんだ。優柔不断でワガママで、もしかしたらイヤな奴なのかな?
けど、それがあたし。だから、考える。どちらとも遊んで、あたし自身こんな憂うような気持ちにならない選択を。
あたしの身体は一つしかない。この世のどこを探したってあたし一人だけのものだ。そう強く心の中で言い聞かせる。それは、脳裏にちらりと藤沢市で見かけた、あのフードの少女の存在がよぎったからだろうか。いや、そんなわけはない。
どっちとも遊ぶ。果たして、そんな方法が見つかるのだろうか?しかし、その答えはすぐに見つかった。なに、簡単なことだ。どちらも選んでしまえばいいのだ。
「わかった。明日は学校に行ってみようと思う」
「うん!シャルルたちとは また べつのひに あそぼっ!」
「ううん、シャルちゃんたちとも遊ぶ!」
あたしはしたり顔でそう言った。
「どういうことですか、千寿流ちゃん?」
「お泊り会だよ!夕方までは学校でみんなと遊んで、学校が終わったらシャルちゃんたちと遊んで、そのままシャルちゃん家にお泊りしちゃうの!お泊りするならパパに言わないと駄目だけど、絶対OKしてくれる!」
我ながら名案だと思った。
「いいね!ナイスアイデア だよ!」
「ふふふ、では明日の夜は腕によりをかけて、千寿流ちゃんの大好物を作らせていただきますねっ」
「ネットでみたけど パジャマパーティーってのが あるらしいよ」
「なにそれ、楽しそうっ!」
「お泊り会とパジャマパーティーは似たような物ですが、ふふふ、パーティーとつくと楽しそうな雰囲気になりますよね!」
「えひひひ、ありがと、クラマちゃん!それに、シャルちゃんも!じゃあ、今日は帰ってパパたちに相談するね!」
家に帰ってママに挨拶をして、一度自分の部屋に戻ることにする。
暫くすると一階にいるママから晩御飯ができたと声が掛けられる。その声に反応するようにグーとなったお腹に少し恥ずかしくなりながらも一階に降りる。ダイニングに入ると既にパパは席についていた。
今日はスパゲティだった。ママの作るスパゲティは世界一だ。どんな美味しいと云われるようなお店にも真似できないような、そんな味。
こういうのなんて言うんだっけな。思い出せないけど、そんな感じだ。言わなくても分かってくれるよね?クラマちゃんの作るお料理とどっちが美味しいかって?そんなのわかんない。どっちも一番。どっちも世界一だ。
食事を終えたあたしはママにごちそうさまと、明日、シャルちゃんの家に泊まることを伝えてから、二階にある自室に向かうことにする。
お泊り会なんてちょっと久しぶり。トランプやゲームなんかして、ママたちにナイショでちょっぴり夜更かしして、色々なことをシャルちゃんたちと話し合うんだ。
次から次へと楽しい妄想が捗る。やばい、わくわくすぎて今日しっかりと眠れないかもしれない。




