あたしの友だち探し2
練習中の生徒の邪魔にならないよう、端を歩いて校舎に向かうことにする。
(スポーツやってる人ってみんな体大きいよなあ。やっぱり、好き嫌いをしないで、たくさん運動して、体を鍛えてるのかなあ)
そんなどうでもいいようなことを考えながら校舎に入る。その際ちらりと後方を確認したが、シャルちゃんとクラマちゃんがガッツポーズで激励してくれていた。
うん、がんばろう。あたしには二人がついてるんだ。見守ってくれている。怖いものなんて何もない!
「おじゃましま~す」
とは言ってもやっぱり緊張はしてしまうわけで。訂正しておくけど怖いわけじゃないんだからね。
おそるおそる扉に手をかけて校内に入る。
何をやっているんだ、あたしは。自分の通う学校なんだからこんなおどおどする必要ないのに。もっと堂々としていればいい。悪いことも何もやっていないのだから。
「よう、近衛」
「っひ!?」
予想外の方向から突然声をかけられてビクッとなってしまう。
「なんだよ。声かけただけでビビっちゃって。お前、相変わらずだよな」
「えと。だれ?」
「はぁ!?お前何言ってんの?渡間秀一!俺は同じクラスだろ!お前この暑さに頭やられて、記憶喪失にでもなってるんじゃないだろうな?」
半分当たってる。ちなみに言うと今日は別にそこまで暑くない。しかも校内は空調が効いていて程よい涼しさが保たれていた。
「えひひ、ごめんごめん。ちょっとした冗談だよ。本気にしちゃってもう」
「冗談とか面白くねーし。次冗談言ったら宿題手伝ってもらうからな」
「え、う、うん。気を付ける」
別に宿題を手伝うくらいならいいかなとも思ったけど、この子の宿題がどれくらい残っているのかによる。もし、まだまったく手を付けていない、なんてことだったらさすがに手におえない。この子の前で冗談を言うのはよしておこう。
「でさ、お前秋休みなのになんで学校来てるんだ?なんかやらかしたとか?」
「そ、そんなことないよ?あたし、何も悪いことやってないし、うん」
「なんで慌ててるんだ?近衛ってやっぱ面白れーよな。やっぱり俺のシャテー?にしてやろうか」
「シャテーって何?よくわかんないけどなんかモンスターの名前みたいだね」
「俺も良く分かんねー。たぶん子分みたいな感じだと思う。兄ちゃんが持ってた漫画になんかそういうこと書いてあっただけだし」
「えー。じゃあ、やだよ」
「ははっ!たしかにな!」
そう言ったあとそのまま走っていく男の子。
「あ、ちょっと待ってよ!どこに行くの!?」
「はぁー?どこに行くって俺らのクラスに決まってるじゃん。お前もクラスの奴らに会いに来たんだろ?今日は土曜だし結構いると思うぜ!」
教室の扉の前に立つ。心なしかあたしの前に聳え立つ、ただの一枚の板は見た目以上に大きく、何物も通さないような堅牢さを感じさせた。
もちろん、怖くなんてない。中にいるのはあたしと同年代の小さな子たちだ。怖がる必要なんてないのだ。だからこれは、緊張ってやつだ。たぶん、初めて転校する子なんかが感じるそれだ。
ここがあたしのクラス。“土曜だし結構いると思うぜ”この子の言っていることは本当だ。教室の中からにぎやかな声が聴こえてくる。
どうやら、学校が始まる直前に学校規模で大きなお祭りをやるらしい。大人たちに混じり、子供たちも店舗やイベントに参加して盛り上げる地域型の盛大なお祭りだ。
焼きそばやかき氷、たこ焼き屋。くじ引きや射的、金魚すくいなどの屋台はもちろん、子供たちがつくる手作りの工芸品を鑑賞できる展示会や、グループでの創作ダンスやバンドなど、多種多様の催しがあるようだ。
なるほど、そんなイベントがあると知っていたなら、あたしも参加していたのかもしれない。
いや、クラマちゃんの方がもちろん優先だけどね。
「じゃあ、開けるよ?」
「さっさとしてくれ。久しぶりだから緊張してんのか?」
勇気を出して扉を開く。
「あ、千寿流ちゃーん、ひさしぶりー!元気してたー?」
「ほんとだ!千寿流ちゃん、久しぶり!」
「なんで来てくれなかったの?もしかして病気とか、あたし、心配だよぉ」
「家族で遠くに旅行行ってたんだよね?そんな仕方がないでしょ」
「え、誰から聴いたんだよそれ。オイラは聴いてないぞ。ねーねー、誰から誰から?」
ああ、暖かい。記憶喪失になる前のあたしも幸せ者だったんだ。
本当はちょっと怖かった。いや、ちょっとじゃない。すごくだ。
もしかしたら、あたしが覚えていないように、あたしのことなんて誰も覚えていないんじゃないんだろうかって。
“近衛千寿流?そんな子いた?”
そんな心無い言葉が返ってくるんじゃないだろうかって。
やっぱり、怖かったんだ。
「お前らうるさいって!近衛、鳩が拳銃食らったような顔してるぞ!」
「へ……?」
「っぷ!あははははは!」
「秀一君!それを言うなら豆鉄砲だって!拳銃なんて怖すぎでしょ!」
「わ、笑うなって!ちょっと間違えただけ!いや、今は拳銃が流行ってるんだって!きっと!」
部屋中に笑い声が巻き起こり、響き渡る。それは無垢で純粋な等身大の小学生たちの風景。喜びと幸せの詰まった、なんてことの無い日常の一ページ。
温かい一ページ。




