表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
忍リクルート  作者: 枝久
十二、

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

95/95

首筋

「誠に申し訳ございませんでしたぁぁぁぁぁ!」

「あ……え、えっと……」


  蘇芳丸の眼前で嶽山が勢いよく土下座をするが、された側は困惑を隠せない。おろおろと視線が泳ぎ……ふと大男の後方にぴたりと目が止まる。


 先程、蘇芳丸に斬られた足の腱なぞ気にせず地面に座しているせいか、どくどくと出血が止まらない。血溜まりはじわじわと広がり、草を赤く染めていく。

 それを見て、慌てて蘇芳丸が声を上げる。


「おい、足! 足! 血が出たまんまだよ! いいから先に手当てしてくれよーー!」

「おぉ! な、なんとお優しい……」


 顔を上げた嶽山の瞳が煌々と輝いている。最早(もはや)、別人のような大男の様子に一同唖然としていると、汎が溜息と共に言葉を吐き出した。


「はぁ…… 胡桃がこの場にいれば一瞬で済むんだが……おい、鋼太郎! ちょっと此奴を診てやってくれ」

「えっ? あっ……ええっ!? で、でも……」

「大丈夫だ。もう嶽山に、我等への敵意はない。なぁ、そうだろ?」

(むし)ろ、こちらの非礼を心より詫びたい……謝った所で、どうにも戻せないこともあるがな」


 嶽山の脳裏には大樹の顔が思い浮かんでいるのだろう。よもや、追い求めた天道丸が忍びの里で生き延びているとは夢にも思わず、敵視し、最終的にはその御子が慕う兄弟分を傷つけ、見殺しにしたのだ。


 蘇芳丸の顔もぎゅっと険しくなる。大樹の仇のうちの一名であり、自身の出生を知る唯一の者。少年の胸中は複雑だ。


「えっ、あ、わ、わ、分かりました!」


 小心者な少年は汎に向けそう返事をすると、背負っていた梅丸を鉢ノ助の背へと渡し、ごそごそと懐から巾着袋を取り出した。沼に落ちたせいで、この布袋もじっとりと水を含んでいる。


「ち、ちょっと伏せてもらっていいですか?」

「うむ」


 鋼太郎の言葉に大男は素直に応じ、ごろりとその場で(うつぶ)せになった。侍が無防備に他者に背を見せる……数刻前まで敵だった相手にこうして心許せるのは、大切な御子をここまで護り、育てて貰ったことによる信頼か。


「よいしょっ、と……」


 嶽山の傍らに腰を据え、鋼太郎が布袋の中から包みを取り出す。(ろう)を染み込ませた、水気を弾く仕様の加工紙で出来た包み……中を開け、道具の無事を確認しながら何点かを取り出す。


「えっと、火打ち石は……」

「俺が持ってるぞ」

「じ、じゃあ、蘇芳、ここに火種を……ぼ、僕と鉢は濡れて湿気っちゃったから……」

「おう」


 蘇芳丸が素早く火を起こし、鋼太郎が手際よくその火で道具を(あぶ)る。視力の弱い幹兵衛の側に寄り添い、彼の手足の様に作業を日々手伝っていた。その為か、鍛冶方の息子でありながら、医術に関する知識も技術も鋼太郎の中に培われている。

 

 

「し、し、少々、痛みますよ……」

「頼む」


 とっ! とっ! とっ!


 神経毒を塗った針を下腿後面と足裏に刺し、痛覚を麻痺させてから、溢れる血を拭いつつ、傷口を縫合していく。


「き、斬り口が綺麗だから、ど、どうにかなるかも……」

「かたじけない」


 顔を伏せたまま小さく礼を言う嶽山。その後頭部にひょこりと生えた(まげ)を見つめながら、蘇芳丸はまだ憮然とした顔のまま呟く。


「確かに顔は似てるけど、他人の空似ってやつじゃ……」

「残念だったな。嶽山の探してる天道丸様は間違いなくお前だよ。拾ったのは誰だ? ん? ん? つまり、蘇芳はお殿様の子供なんだよ」

「本物の天道丸様なら、首筋の真裏に横並びな三つの黒子(ほくろ)があるはずだ」

「は? そんなのあるわけ……」


 否定しようとする蘇芳丸の後ろ髪を、鉢ノ助がぺらりと捲り上げる。


「おおっ! 生え際んとこに三つちゃんとあるぞ、蘇芳!」

「はぁ⁉︎ う、嘘だろ……」


 汎も鉢ノ助の隣から覗き込み、少年の首筋をぺちんと指で弾いた。


「いてっ!」

「おぉ、あるある。ここにうちの子が居なくて良かったな、蘇芳。知れたら、お前は里から喜んで追放されるだろうからな」

「つ、追放⁉︎ そんなこと……だって俺、忍びになるって……里の家族を護るって……若に誓ったんだ!」

「それはお前の生まれが分からなかったから、仕方なく許しただけだろう? 化け物の如きその血の起源が判明したら……あの子は何て言うだろうな?」

「それは……」


 若の性格を良く知る蘇芳丸は、言われるであろう言葉を想定し、一人青褪める。


「……まっ、まずは里に帰ってからだな」

「浅緋の若君は、ここに来ておらんのか?」

「あっ! ま、まだ動かないでください〜〜!」


 いつの間に処置を終えたのか、嶽山がむくりとその巨体を起こしていた。


「草兵衛殿が『里長は自分の目の届く場所に若を置きたがる。帯同の可能性も念頭に……』と話しておったが……」

「はっ! 俺が可愛い我が子を戦場に連れくるわけ無かろうに……里には八郷城の卜寸から預かりし、泉丸もおる。もし、虚をつき襲撃するとて、草兵衛がこちらを離れるとは考え難い。芹一人ならば恐るるに足らん」


「若かぁ……里に俺らも汎様も胡桃兄も居ないんだよな。今頃何してるかなぁ? 大人しく待っていてくれたら良いんだけどなぁ〜〜」

「えっ?」

「なっ⁉︎」

「は、鉢〜〜! え、縁起でもないこと言わないでよぉぉ〜〜!」


 何の気無しに鉢ノ助の口から出た言葉に、三人揃って顔色が変わる。何故かは分からぬが、勘のいい少年の言葉は、時折、言霊の様に真実になるからだ。


「ちっ! さっさと終わらせて帰るぞ。おい、嶽山。お前が知る事を全て話して貰おうか?」


 少し苛立った様子で、汎は大男にそう言い放ったのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ